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手術の思い出

kocchan / 2006.07.12 17:12 / 推薦数 : 0

新しい職場にきて、ほとんど手術をしなくなったため、思い出の手術をときどき頭に描く。

思えば、術前のイメージと術中のイメージがぴたっとあった手術は少なかった。まだまだ未熟だったと思うが、メスをほとんど下ろしたような今の立場に何の悔いも残っていない。

一番の思い出ふかい手術は、28時間にもおよんで摘出した比較的深部のAVM。

 AVMの手術は予定では、12時間であり、大きさ約3cmでガンマナイフの選択肢もあったが、患者30台後半の女性は「一気にすっきりと消失してしまったほうが気が楽だといい」手術治療を選択した。

AVMは、右前頭葉中心前回近傍にあり、出血発症ですでに左片麻痺を後遺症としてのこしている。脳表からのfeederが2-3本であるが、深部feederも1本くらい。dorenarは脳表に太いのが1本、ほか2本くらい。深部ドレナーはなかった。

ナイダスも比較的、脳表に近いが、中心前溝および上前頭溝を割ってひっくり返せば見えるはずであった。ところが、いざ開頭するとでてきたのは、確かに太いレッドヴェインのみ。その先にナイダスがあるはずと思いきや、まったくわからない。脳表に顔をだしているわけではなかったので、ドップラーで手探り状態でオペに突入した。

ナイダスが含まれているはずだと脳回切除術がはじまった。8時間かけて摘出してもレッドヴェインの色は変わらない。おかしい、しかたがないので、レッドヴェインの先にナイダスがあることはわかっていたので、レッドヴェインを手がかりにナイダスを探りにゆくことになった。ほってもほってもそれらしきものはない、顕微鏡でみると3cmというのがものすごく深く感じる。

この頃には、夜の10時を過ぎていたので、家族から心配の連絡がナースよりはいる。手術はこれからだったので、大丈夫と連絡をかえす。 

根気よくほってゆくと、ナイダスらしきものが出現。次にナイダスの底部を追ってゆく。深さは4-5cmくらいまで達する。非常に深いところに位置したナイダスだ。周囲を掘り起こしながらも小さなfeederの処理や出血の処理に7時間以上かかる。太いfeederには、ウェックのクリップで対応する。不注意に血管をつつくと出血してしまう、コントロールは難しくはないが、何度もおこると気持ちはくじけそうになる。家族に大丈夫と言った手前もあり、思い直してわれを忘れて止血と掘り起こしに打ち込む。上司が、「術者に水をやれ」と指示があり、スポーツドリンクの差し入れがくる。これによって、力が再びよみがえる。

上司は、「セカンドステージもあるぞ」と助言をくれるが、患者との約束もあるので、ひたすらナイダス露出とfeeder処理に力をつくす。

朝10時ころから手術をはじめて、翌日の10時にナイダスをすべて露出し、最後のfeederとおぼしきものを焼く。すると、レッドヴェインが、通常の静脈の色に変わってゆく。最後にドレナーをカットして、ナイダスをゆっくりと取り出す。やっと終わった、死に物狂いでとにかくやった手術だった。

それから閉頭して、手術が終わったのは摘出2時間後の12時である。術後は、ICU管理となった。

手術椅子から降りたときは、足に力が入らずの状態だった。しかし、やりとげた達成感があったので明るい気持ちで手術をでた。術後CTでも、出血などはみられなかった。

その日の仕事(病棟管理)を終え、フラフラになりながら帰宅。疲れは溜まっていたが充実感はあった。しかし、これから重症がきたら、手のうち用がないと思いながらバタンキュ状態であった。

患者が覚醒するまで、わからないと思っていたが、翌日には鎮静剤を切り、徐々に覚醒、抜管もされる。

患者の回診にゆくと、半覚醒ながら私の手をにぎり「先生ありがとう」の一言をいただく。この言葉に、私の眼から自然と涙が流れてしまった。「死にもの狂いでがんばった甲斐があった」。

上司曰く、「このような長時間の手術経験は最近は少なくなっているが、脳外科医ならば一度は経験しなくてはいけない」とのことであった。

「これで脳外科医の手術の世界に少しでも近づけたかな」と思った瞬間でもあった。

術前の検討や手術のストラテジーなど問題はたくさんあり、反省点も多くあった。決して、人に見せられるような手術内容ではないが、自分には多くの学ぶものがあり脳外科の手術の世界に触れる貴重な時間でもあった。

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