産業医は、1か月に1回、職場巡視を行います。
目的は、労働者の方の健康を脅かす環境や作業方法を行っていないかどうか、を医師の目で確認するためです。
工場などを回っていると、たまに古い機械がそのまま使われていたり、使用されなくなってそのまま作業場に置きっぱなしになっていたり、時にはその部品の一部がはずされていたりすることがあります。
また、古い配管に巻かれた断熱材が劣化して、一部むき出しになっていたりします。
私は、アスベストが使われているのではないだろうか、といつも気にして、会社の人に確認を求めます。
ところが、こういう返事をよこしてくる会社があります。
「その断熱材は○年ごろに購入したものなので、アスベストが含まれることはあり得ないから大丈夫です。」
古い機械などの場合、その機械を製造した会社がすでになくなっていることも多く、書類で確認するのが難しいケースも確かにあります。
そういった場合、目で見てアスベストが含まれないという確信が持てないときは、本当は成分分析までやって確認してもらいたいところです。
しかし、どこも不景気で、そういうお金のかかることはなかなかやってくれません。
ある工場については、配管の内部ではあるけれどもアスベストが含まれていることがわかっていて、老朽化で断熱材が破れて少し内部が露出しているのに、職場巡視で指摘しても何の対策も取りませんでした。
ある日行ってみると、荷造り用のテープをぐるぐる巻いていましたが、隙間だらけで、とても大丈夫と言えない状態でした。
結局、その会社の産業医はやめてしまいました。
社員さんの健康は気になっていましたが、何度指摘しても会社は耳を貸さず、ばかばかしくなってきたからです。
加えて、このまま巡視を続けた場合に、私自身の健康は大丈夫なのか確信が持てませんでした。
そういう会社は、問題を未然に防ぐという意識が低く、何か事が起きなければ何もしない体質… 残念ながらその体質を変えることはできませんでした。
1月の末に、神奈川県の京浜バルブという会社が、ボイラーなどの配管工事に、アスベストを使用した部品を使った疑いがもたれています。
少なくとも全国で90か所の施設で使われているのではないか、との報道があります。
この事件を知って、購入時期がいかに当てにならないか、を改めて思います。
もちろん、今回の事件については、アスベストが禁止されていることを知っているのに故意に使っていた、ということですから、特殊なケースかもしれません。
しかし、アスベストの健康被害は暴露後長い間かかって発病するので、病気が発覚した時には原因の特定が難しいことも少なくないのではないか、ということを心配します。
そして、その健康被害は、時に命を奪いかねないものです。
問題が発覚した時点で対策を講じても意味がない、予防がもっとも大切、と思うのです。
BSEやカビ毒といったものと似ています。
テレビ局の取材に、アスベストを使った会社の社長は、アスベスト被害の重大性を知らなかった、と述べています。
「知らない」ですまされて、そこで働いていた人たちの健康はだれが保証するのでしょうか。
さらにひどいことに、アスベストを含む部品を、一般ゴミとして捨てていたというのです。
ゴミの回収をした人、焼却場で働く人、そういう人たちがアスベストに暴露されたかもしれません。
今回の事件、安全衛生法違反の疑いであり、量刑はせいぜい数年というのも、納得できません。
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