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2008.07.09 12:00 |  診療  |  仕事 / 職場  |  生活 / くらし  |  三毛猫  | 推薦数 : 0

ボクサー

「先生、ワシ、若いころはボクサーやっててんで。」

大腸がんで入院してきたCさんは、自慢げにそう言いました。

 

「あのころは、けっこうモテたんや。今は、会社をおこして社長してるんやで。」

そう言って、私に「社長」の名刺をくれました。

 

「へえ、すごいですねえ!」

 

Cさんがそんなふうに言う理由が、私にはなんとなくわかりました。

若いころは体力に自信もあって、女性にモテたCさん。

病衣を着てベッドに寝かされていることが、とてもみじめに思えたのだろうと、私には感じられたのです。

 

本当は、自分はもっとバリバリ働いていて、元気なんだ。

今の自分は、本来の自分ではない。

 

そういう思いがにじみ出るような様子でした。

 

実はCさんの大腸がんは、すでに肝臓に転移していました。

それでも、大腸が詰まってしまうといけないので、手術で大腸の一部を切除しました。

 

Cさんの病気が大腸がんであることも、肝臓に転移していることも、家族にしか話していませんでした。

それでも、なんとなく、自分の病気はがんで、あまり楽観できないらしいということは、感じているようでした。

 

自分を奮い立たせるためか、本当の自分を見てほしいと思ったのか、Cさんの昔話は、その後回診のたびに続きました。

いったん退院されましたが、その後の経過はあまりよくなかったと記憶しています。

 

だれしもいずれは何らかの原因で、命が尽きるのだけれど、弱っていく自分と、元気だったころの自分のギャップを埋めるために、みなそれぞれ、いろんな思いを抱くのかもしれません。

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