医者をしていると、たまにどきっとするような質問を受けることがあります。
以前、公立病院で外科医をしていたときのこと。
定年退職してやっとゆっくりできると思っていたのに、大腸癌がみつかってしまったある男性が入院してきました。
仮にその患者さんをDさんとでもしておきましょう。
Dさんの癌は進行癌でしたが、幸い組織は進行の遅いタイプで、一応手術で取りきることができました。
術後特にトラブルもなく、もうそろそろ退院、という時期になりました。
当時は今のように癌の告知を患者さんにすることはあまりなく、術前や術後の説明は、たいていご家族にすることが普通でした。
Dさんの場合も、うすうす自分が癌だと知っておられたとは思いますが、退院の前に奥さんに来ていただいて、今後の見通しや生活面での注意についてお話しました。
そのときでした。
Dさんの奥さんに、こんなふうに質問されたのです。
「先生、癌はうつるんですか? 主人が求めてきたら、どうしようかと思って…」
Dさんの奥さんは、夜の生活で夫の癌がうつるんじゃないかと心配していたようでした。
一瞬戸惑いましたが、癌はそういうことでうつるものではないことを説明し、Dさんの奥さんは安心されたようでした。
その後、大学病院に戻ってからも、同じようなことがありました。
その時は、30代の男性患者Eさんで、感染性の弁膜症で緊急手術となり人工弁に置換する手術を行った方でした。
若かったのと、循環器内科の先生が迅速に診断してくださったおかげで、手術は無事に成功しました。
退院が決まって、Eさんの奥さんにも来ていただいて、退院時の説明を行ったときのことです。
担当の看護師さんと、なぜかその日は病棟の看護師長も同席しての説明となりました。
Eさんご夫婦はおとなしい方たちで、私が一方的に話すのを、ふんふんとうなづいて聞いておられるばかりだったのです。
ところが、看護師長がえらくはりきっており、眉間にしわをよせながら、私に言いました。
「先生、夜の生活は制限なくやってもいいんですか。やっぱりまだお若い夫婦だし、そういうこともきちんと説明してあげないと…」
えっ、あっ、うっ…
このときはあわてました。
そりゃああまり心拍数が上がると人工弁が機能しなくなるでしょうけれど、そのご夫婦がどれだけ激しい状態になるのかわからないわけですし…
正直、なんて答えたのかよく覚えていません。
よく覚えていないぐらい、内心は動転していたと思います。
なんとかその場をやり過ごしたのか…
あとで、同期の医師に「どう思う?」と聞いてみました。
「そんなん、しんどなったら自然にやめるやろ。」
はあ、そうですか。
そんなもんですか。
医者は何でも知っとかなあかんのですね。
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コメント
コメント一覧
まず、通常の夫婦間の性行為は一般的に階段昇降や農作業よりやや軽い運動量として5METs と表現されます。
問題はこの症例の様な夫婦間ではない婚外性交時のリスク増加です。危険と思われる性行為としては、不慣れな場所・相手・年齢差・刺激的行為・飲酒後などです。要するに、夫婦間の普通の性行為は危険ではありません。また、オルガズム前後の各1分間のリスクは急増します。
女性上位では自慰との差異は僅かですが、男性上位は遥かに危険です。リスク要因の半分は気持ちの高揚ですから、射精に至らないケースのリスクは激減します。
当院では患者さんの疑問や希望に対しては、基本的にホルター心電図を性交時に装着して心拍数と不整脈の検討を行います。場合によっては、前後での酸素飽和度も貸し出しでモニターします。
不倫はいけません。中年以降は婚外の若い女性との性交は注意すべきです。
専門医としてのコメント、ありがとうございました。
不倫相手のことまでは思いが至りませんでしたが、それにしても、やはりホルター心電図や酸素飽和度も測定したほうが安全なんですね。
勉強不足で、患者さんに先生のような説明はとうていできませんでしたが、かなり踏み込んだ話になりますし、不倫の話までするとなると、奥さんのいらっしゃらないところでお話ししたほうがいいんでしょうか…
大変勉強になりました。
ありがとうございました。
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