大学で医員をしていた頃の話です。

腹部大動脈瘤の患者Oさんが、手術目的で入院してこられました。

控えめな感じの奥さんがいつも付き添っていて、奥さんは私がベッドサイドに行くたびに、深々と頭を下げられるような方でした。

Oさんも、医師の指示を忠実に守るような、とても真面目な感じのする方でした。

 

70代のOさんは、長くうつ病をわずらっていました。

そして、精神科から処方されるお薬の副作用のため、Oさんは便秘でずいぶん悩んでおられました。

 

手術は無事に成功し、術後の経過そのものは順調でしたが、ひどい便秘は術後さらに悪くなり、院内にある便秘薬を片っぱしから試してみましたが、Oさんの悩みは解消できませんでした。

 

そこで、奥の手で、ラクツロースを試してみました。

ラクツロースは肝硬変の方などが高アンモニア血症になった場合に使われる飲み薬ですが、アンモニアの吸収を抑えるとともに、腸管の緩下作用や腸蠕動をよくする作用があるために、便秘に効くのです。

 

効果はてきめんでした。

ラクツロースを飲んだ翌日から、Oさんのしかめっ面は笑顔になって、

「先生、あの薬ようきくわ。」

と快適な入院生活を送られました。

 

退院の日、Oさんは、ラクツロースを切望されました。

「先生、あの薬、出してほしいんやけど…」

 

残念ながら普通の便秘症には保険適応がなく、あきらめてもらいました。

おとなしいOさんのことなので、事情を説明すると、すんなり引き下がってしまいましたが、家に帰ってから便秘に悩むOさんを想像して、私も「ああ、残念・・」という気持ちでいっぱいになりました。

 

入院中なら許されるというものでもなかったのですが、術後の経過を最優先にして処方したので、さすがに退院後も処方するのは気が引けたのです。

 

今日のニュースでは、政府の規制改革委員会が混合診療の全面解禁を提言することになったようです。

Oさんのようなケースでは、自分で費用を出せば、ラクツロースは処方できるようになるのでしょうか、それともやはり適応にうたわれている疾患以外で使用することは許されないのでしょうか。

 

ネット上でも、賛否両論、いろんな議論が散見されます。

しかし、患者さんにとってどっちがいいのか、よくわからないのです。

 

Oさんのようなケースでは、Oさんに自費でお薬代を負担してもらうのもひとつの方法ですが、適応症に「頑固な便秘症」を加えてもらえれば、何も問題はありません。

 

混合診療は、患者さんにとって、いいの? 悪いの?

どっちなんでしょうか・・・

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