以前、健康診断のアルバイトをしたことがあります。
毎回いろんな場所で健康診断があるので、指定されたところへ出かけて行って、診察や問診をする日もあれば、健康相談のみ行う日もありました。
ある日、弁護士会での健康診断に行きました。その日は健康相談のみの業務だったのですが、初めて行った弁護士会の建物は、それはそれは立派なものでした。
1階のホールに、陳情にでも来られたのか、一般人らしき人々の一群が立っているのを横目に、エレベータで指定された会場へ。
ふかふかのソファのある一室に通されて、業務が始まりました。
業務、といったって、相談したいという人が現れるまでは、何もすることがありません。ひとりでぽつんといるには広すぎるぐらいの部屋で、持ってきた文庫本を広げて待っていました。
前に建築現場の健診に出向いたときは、バラックの2階で問診・診察をしたのですが、大勢の受診者がぞろぞろやってきて、彼らの歩く振動で建物全体が始終ぐらぐらと揺れ、話声もうるさくて、血圧を測るのも難儀しました。
外国人労働者の方が結構いて、日本語も英語も通じませんでした。頼りはゼスチャーのみで、どうにかこうにか健康診断をこなした思い出があります。
それから比べれば、なんと優雅な健康診断でしょうか。
まず相談に来られたのは、40代ぐらいの、笑顔がまぶしい弁護士さんです。
日焼けした顔に、少しウェーブのかかった髪。パリッと高そうなスーツなどお召しになって、にこにこしながら、いくつか健康に関する質問を受けました。内容はさほど深刻なものではなかったと思います。
私の読んでいた文庫本に興味をもたれたのか、本の話題でちょっと雑談をして、さわやかに去って行かれました。
お金持ちのナイスガイ、そんな感じの弁護士さんでした。
次に現れたのは、5、60代の白髪まじりの弁護士さん。白いワイシャツの袖には金色のカフスボタン、おそろいのネクタイピンが胸の真ん中で光っていました。高価そうな生地で仕立てられたスーツを着ておられるのですが、それとは不釣り合いにとてもせかせかしていて、
「自分はこんなに忙しいのだ。」
という空気を全身から醸し出しています。
相談は、健診でいつも血糖値が高いが、生活面で何に気をつければよいか、というようなことでした。
当然のことながら、定期的な運動の必要性とか、減量の話とか、お酒を控えるようにとか、そのような話になるわけですが、何を言っても、
「忙しいんだから、そんなことやってられない。」
「付き合いがあるんだから、お酒をやめるなんて無理。」
そういって、全部否定されて、言いたいことを言うだけ言って、またせかせかと出て行ってしまいました。
「弁護士はこんなに忙しいんだから不健康になっても仕方ないだろう、ええ?」
ということを言いたかっただけなのかもしれません。それとも、「こんな小娘が講釈をたれおって・・」なんて思われたのでしょうか。
その後、弁護士の奥さまとか、ぽつぽつと相談に来られましたが、総じて暇なお仕事でした。
そろそろ終了時刻が近づいたころに、どたばたと、やせっぽっちの弁護士さんが相談室に転がりこんできました。
髪はぼさぼさ、ワイシャツは2番目ぐらいまでボタンがはずれており、素足に雪駄といういでたち。
体調が悪くてしょうがない、だるい、というのです。
いくつか質問をしてみた結果、どうも働きすぎのようでしたので、休養もとるように、と申し上げたのですが、
「それが一番難しい。」
のだそうで、
「これからまた法廷に行かなくては・・」
と口走りながら、どたばたと出て行ってしまいました。
いろんな弁護士さんがいるものだ、と思った一日でした。
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