先日、地域の開業医さんから、「新患受付けを中止しました。ご理解とご協力をお願いします。」という通知が回ってきました。何でも院長先生が健康を害されて、お休みされることになったとのこと、他のスタッフの先生だけではマンパワーが足りないとのことでした。
昔、地域の病院での研修を終えて大学医局に戻された時、開業をされている同門の先生が病気で入院されたため、急きょ医局員が順番に、そこの外来にお手伝いに行ったことがありました。その先生はお一人での開業でしたので、大学の医局長に人を回してくれるよう依頼されたのでした。
正直なところ、病棟業務も忙しかったし、なんでまた開業医の先生の都合で私たちが回されるの・・・と、不満はありました。でも、当時の医局では、あまりごねる人もいず、忙しい中そのクリニックに通ったのを覚えています。
驚いたのは、その業務の幅広さでした。
来院される患者さんは、風邪、頭痛、腹痛、といった新患から、高血圧や糖尿病などの慢性疾患など、様々でした。
検査はせいぜいレントゲン写真程度、血液検査はできても、結果がすぐには出ません。限られた情報で診断するのは、かなり技術のいることでした。
そのうえ、健康診断業務もありました。
当時の私は、比較的大きな総合病院での研修ばかりしてきたので、逆に風邪のような身近な病気を診断したり投薬したりする機会が少なかったのです。ましてや、内科的な慢性疾患は、外科入院患者さんの合併症としては診ていても、基本的には内科の先生方に管理をお願いしていました。
それに、健康診断が法律で定められているなんて、今では自分にとって常識でも、当時は--大学の講義で聞いたのかもしれませんが--そんな知識はありません。だから、看護師さんから、
「先生、健康診断お願いします。」
と言われて、近所の会社の社員服を着た女性が診察室に入ってきたときは、正直何をすればいいのか全くわかりませんでした。
ものすごく緊張していたせいか、自分がどうやってその「健康診断」をしのいだのか、覚えていません。かすかに、受診された社員さんが、若干けげんな表情を浮かべておられたのを覚えているくらいです。今から思えば、
「あれ~、いつもの健診と違う・・・」
と思われていたかもしれません。
また、糖尿病の患者さんの眼底検査というのもありました。眼底検査、といっても、眼科で散瞳して写真をとるのとは違います。
いきなり看護師さんから、無言で眼底鏡をわたされるのです。ぎょっとしました。あわてて学生時代の眼科でのポリクリを思い出し、おそらくなんとなく「見えた。」だけでごまかした、かもしれません(当時の患者さんには大変申し訳ない・・・)。
私のような、外科の専門バカのような医師が回ってくるのを予想されていたのでしょう、診察室の机のところに、基本的な処方などをメモしたものが、いくつも貼ってありました。ただ、院長先生も、急にご病気になられて時間の余裕がなかったのか、診察室の机のあたりに、先生の「後ろ髪をひかれる思い」が残っているような感じがしました。
外科の勤務医をしているころは、夜昼なく働かざるを得ない状況に息切れしそうになり、地域の開業医さんは夜は働かなくていいからうらやましい、などと思っていました。重症になれば、病院に紹介してくればいいのだから、お気楽だなあ、などと思っていました。 でも、わずかな期間でしたが、開業医の外来を経験して、少し考え方が変わりました。
やはり、開業医は開業医なりの、勤務医は勤務医なりの責任や苦労があり、どちらも日本の医療を支えているに違いありません。
今私は、社員に病気が見つかれば、そのような先生方に治療をお願いする立場にあります。多くの先生方が自らの健康を犠牲にしながら治療に当たられていることを思うと、現場の苦労を知らない官僚や政治家、マスコミが、批判ばかりするのを耳にして、胸が痛くなります。
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