先日、皇族の方がアルコール依存症で入院されたという報道がありましたが・・・
産業医をしていると、たまにアルコール依存症の社員さんと接点をもつことがあります。
ある会社のAさんは、人望の厚い温厚な人柄の中間管理職でした。
ある日、会社の駐車場で奇妙な運転をして他の車にぶつかったまま、帰宅してしまいました。その日はそっとしておいて、翌日上司がさりげなく、「体調はどう?」と尋ねたそうです。すると、前日のことはまるでなかったかのように、「ちょっと風邪をひいて・・・」との返事。
精神的にどこかおかしくなってしまったんじゃないだろうか、と会社の上層部が心配して、産業医に相談の電話をかけてこられました。その日、たまたま院内でデスクワークをしていたので、さっそく会社に出向きました。
上司の方に伺っても、何が起きたのかいま一つ釈然とせず、とりあえず本人と面談をすることにしました。
「Aさん、体調悪いですか?」
「ちょっと風邪気味です。」(少し顔色が青い・・・)
「昨日のこと、覚えておられますか?」
「・・・」
触れられたくなかったかのような表情でしたが、忘れているわけではなさそうでした。
その後、事実関係を丁寧にたずねた結果、目の前がだんだん狭くなってくるような感じがして、あちこちぶつかった、というようなことだったようです。
でも、最後までどうしてその場を立ち去ってしまったのかはわかりませんでした。
とりあえず、脳の器質的な病気がないかどうかを調べるために、脳神経外科に紹介状を書いて受診していただきましたが、結果は「異常なし」。
週末にさしかかっていたので、そのまま様子を見ることにしました。
翌週になり、奥さまから面談を受けたいとの申し入れがありました。スケジュールはとってもきつかったけれど、ご家族から産業医に要望があるのは大変珍しく、面談の時間を作って病院に来ていただきました。
実はAさんは単身赴任です。週末に奥さまがAさんに電話をかけた時に夫といろいろ話しているうちに、会社での出来事を知って驚き、なんとかしなければと思ったそうです。
面談のとき、奥さまの話で初めて、Aさんが毎日大量の飲酒をされていることがわかりました。奥さまは夫の身体を気遣ってはいたのですが、本人が楽しそうに飲んでいるのを見て、深刻な事態とは思っていなかったそうです。
アルコール依存症の可能性もあるため、専門的な治療が必要かもしれない、と告げました。お酒は控えるように、とも伝えました。何か相談したいことがあれば、と私のメールアドレスをお渡しし、また奥さまのメールアドレスと携帯電話、ご自宅の電話番号を伺いました。
次の週末に、Aさんがご家族と家で過ごしているときに、新たな変化が現れました。お酒をあまり飲んではいけないと、お酒を控えていたそうですが、
昼間に電車の中で倒れそうになり、
夜はカッと目を見開いて、家じゅうを動き回っていたそうです。
いわゆる、離脱症状、だったのかもしれません。
奥さまから、メールで、「早めに受診したほうがよいでしょうか。」と相談があり、あわててご自宅にお電話しました。ちょっと遠方だけれど本格的なアルコール依存症の病院があり、奥さまはそちらに連れて行きたいとのこと。
できるだけ早く受診されるよう勧めました。
その後、Aさんは入院治療を受けて無事退院されました。
ほどなく転勤になり、現在はご家族とともに生活し、元気でお勤めだそうです。
私は会社の産業医ではあるのですが、時にご家族の支援が必要な時があります。多くの場合、特に精神面でのケアが必要なケースでは本人任せになることが多く、ご家族が関与したがらないこともあります。
アルコール依存症は再発率がとても高い、と聞きます。
今回のケースでは、かなりスムースに治療が進んだ稀有なケースかもしれません。
やはり、奥さまの協力がとても大きかった、と思っています。
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