産業医の仕事にはいろいろあって、たとえば毎月開かれる安全衛生委員会に出席したり(・・・開いていない企業さんもちらほらあるのですが・・これは法律で定められた義務なのです。)、職場巡視をしたり、健康診断のあとの健康指導を行ったり、長く病気で休んでいた人が復帰する時に、業務の軽減や配置換えなど必要ないか検討したり、その他たくさんあります。最近では精神面で病んでしまった人のケアも、大切な業務の一つになっています。
ある会社では、毎月私が行くと、机の上に面談者リストが置いてありました。そして、一人10分ぐらいの割り当てで、とにかくひたすら面談をさせられたのでした。
リストにあがっている人は、前月の労働時間が長かった人。一通り健康状態を聞くともう時間がきて、
「では、次の人どうぞ。」
なんとなく、こんな産業医の仕事はいやだなあと思っていました。だって、仮に誰か体調不良の人がいても、「この方、休ませてあげないといけませんよ。」と忠告したところで、「上司に伝えます。」と言われたきり、結局労働条件は変わりはしなかったのです。
かろうじて職場巡視はさせてもらっていましたが、「産業医は安全衛生委員会に出席する義務もあるのですよ。」と何度話しても、「上と相談します。」の繰り返し。
安全衛生委員会に出席できれば、この労働条件の悪さを改善していただくよう、議題として取り上げてもらえます。少なくとも産業医が直接、会社に問いかけのできる唯一の場なので、安全衛生委員会にはこだわっていました。
あるとき、リストに同じ人が結構あがってくるので、その社員さんに現状を聞くと、
「結局仕事があるから休めない。」
「自分が休んだら他の人にしわ寄せがいくから休めない。」
と言うのです。
病院へ戻る道々、考えました。
・・・私は、会社が長時間労働をさせることにお墨付きを与えてしまっているのではないだろうか。
産業医との面談を受けさせているから、会社はきちんと健康管理をしています、そういう言い訳にされているだけなのではないだろうか。
とても大きな無力感でいっぱいになりました。
ある日意を決して、産業医契約を終了したいと申し出ました。本当は院長先生に相談してからそうすべきだったのですが、私の中では結論が出ていたのです。
先方は、私が帰った後病院の職員に、大変激しい口調で電話をかけてきたそうです。
「頭を下げてまで頼むようなことではない。」と。
結局その会社との契約は翌月から終了となりました。
ほっとしたと同時に、なんだか後味の悪い結末でした。
東証一部上場の、立派な会社なのですが、中で働いている人たちが必ずしも幸福とは限らないことがよくわかる経験でした。
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