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医療再生にはなぜ負担増が必要か◆Vol.8
――今、“医療崩壊”といわれる現在、いつがタイムリミットでしょうか。いつまでに「見積書」を作ればいいのでしょうか。
小松 現場の医師にとっては、難しい質問ですね。ただ今危ないのは、救急と産科です。特に、救急の方が危機にあると私は思っています。
――ではまず産科や救急で「見積書」を作り、そのノウハウを他の分野に応用していくことは可能でしょうか。
権丈 できると思います。「産科医療を守るためにはこれだけ必要ですから、目的税的に社会保険料を何%、消費税を何%上げてください」と、国民を説得する主張することもできるでしょう。
小松 救急だったら、幾つかパッケージを作って、国民に選んでもらうこともできるでしょう。「救急車の使用料は高い、だけど税は安い」「救急車は安いけど、税は高い」といったパターンです。
権丈 政治家も怖いでしょうね。医療費に充てるためにも消費税引き上げの議論をしなければならないと考えているにもかかわらず、その引き上げに反対している医療団体がこれだけ多いのですから。
小松 医療団体に呼ばれて講演するのですが、消費税引き上げを訴えると叱られます。
――結局、これまでのお話を踏まえると、現在、日本は医療だけではなく、教育もはじめ、様々な分野でお金が足りない。そうした中で、医療者が消費税引き上げに断固反対すると、結局は医療にお金が回らず、自分で自分の首を絞めることになりそうです。
権丈 勢い余って、日本の民主主義を再建するために負担増は絶対許せないという医療者も見受けられますけど、なぜ、日本の民主主義を再建するために医療を生け贄として捧げられなければならないのかと言いたくもなる。だいたいもって、民主主義なんてものは、どの国も潔癖なはずはなく、かなりだらしのないものです。ムダのモグラ叩きは永遠に続くでしょうけど、そこで言われているムダの額は、医療を再建するのに要する額とは二桁も三桁も違うわけです。
小松 ムダを完全に排除することはできません。しかし、「ムダ」の部分よりも、「足りない」部分の方がけた違いに大きい。
権丈 だから「見積書」を作り、計数感覚の備わった議論を行って、政府不信の国民を説得していきましょうとなる。
小松 それをできるだけ、大きくキャンペーンする。
権丈 しかし、負担増を口にすると、医療者からものすごい反論が来るわけです。社会保障がやっていることは、市場が貢献度に応じて分配した所得を、政府が租税・社会保険料という形で徴収し、それを家計の必要度に応じて分配し直す、所得の再分配制度なのです。だから、社会保障を充実させるためには負担増、国民が社会保障を利用するための料金の支払いは不可欠なのです。

――小松先生は、以前から「負担増が必要」というスタンスだったのですか。
小松 はい。変わっていないですね。日本の国民負担率が非常に低いことを知っていたからです。ただ、それだけです。
権丈 「医療費が低くて、医師が足りない」と言っているのに、同時に「負担増には断固反対」と主張する。責任ある言動を取ろうとする政治家にとってこんなに厄介な存在もないし、日本の将来よりも次の選挙が大事と考える無責任は政治家にとってはこんなに好都合な存在もないと思います。
医療を再建するための議論にしろ、ムダと言っていることにしろ、一つひとつの項目をお金に換算した計数感覚のある議論をすれば、医療の再建をムダの削除で賄えないことも分かるはずです。政府をたたき直して後に、負担増の話をすべきと考えている正義感が強い人もいるようですけど、医療再建目的、社会保障再建目的で負担増をするのであれば、政府のたたき直しと医療の再建は、同時に並行して行うことができる話です。財政改革研究会の「社会保障目的税」や朝日新聞の言う「安心勘定と我慢勘定」の分離などは、皆揃ってそうした考えに基づいているわけです。
小松 私が財政の専門家でもないのに、「負担増が必要」などと講演で主張しているのは、私自身のパブリシティーを有効に使うためです。納得してくれるかは分かりませんが、現場の医師だと少なくても私の言葉に耳を傾けてくれます。選挙が怖くて政治家は言い出せません。増税について、多少なりとも議論しやすくしたいのです。
権丈 「負担増が必要」と積極的に発言されている医療者は、小松先生と二木立先生(日本福祉大学教授・大学院委員長)くらいでしょうか。
以前、このサイトで実施されたアンケートでは、「社会保障の充実のための社会保険料・租税の引き上げを行う」3割、「公共事業などのムダを排除し、その分を社会保障費に充てる」6割、「社会保障を最小限にとどめ、市場経済に委ねる」1割という結果でした。3割まで増えただけでも、前進かと思っています。昔でしたら「負担増」はあり得なかったでしょうから。
前にも言いましたが、この国がまだ「小さな政府」であることは本当にラッキーなのです。それがスウェーデンのように高負担の国だったら、もうお互いに「奪い合い」するしかない。
小松 新聞記者の多くは、負担増にあまり反対していません。消費税くらいは、先進国並みにした方がいいですね。
権丈 最近は、上げ潮派、徹底した小さな政府派の人たちが立て続けに本を出しています。その中では共通して、官僚が徹底的に叩かれていまして、それを読むと国民は憤りを感じるわけです。「なぜ、こんな官僚のために、お金を出さなければならなのか」と。国民の感情に火が付いてしまう、と言いますか、負担増反対という国民感情に火を付けるために、こうした本は出されていると思うのですけど。
そうなると、「消費税・社会保険料を上げてでも、この国の社会保障の機能強化を図りましょう」と言った政治家が当選し、ある程度権力を握るようになるのは、至難の業なのです。
小松 自民党の中川秀直氏『官僚国家の崩壊』と、中川氏の仲間の高橋洋一氏の『さらば財務省』は、いずれも敵と味方が明確な勧善懲悪本して書かれています。意図してのことと推測します。確かに官僚については、私自身が対立していることもあり、共感できるところも多々ありました。しかし、お二方とも、市場原理の信念と官僚への怨念が出すぎています。現場の記述がなく、議論が演繹的です。事実からの帰納がないため決め付けになっているように思いました。これらの本のノリで、医療や教育について政治的判断をするのは危険です。でも今は、「小泉元首相の医療費抑制政策はあまりにひどかった」という声の方が大きいのではないでしょうか。
権丈 その声が、負担してでも医療の再建をという方向に向かえばいいのですが、この期に及んで政府不信が高まる一方です。1カ月ほど前、消費税増税を主張する自民党の与謝野馨氏が報道ステーションに出演されていたのですが、話題はムダをどうするかにはじまる政府不信に関する事柄に終始し、与謝野さんは財政の話をする機会を与えてもらえないままに終わっていました。そして学生に聞くところによると世間はブログで司会者を喝采していたらしい。
先日、『中央公論』で、民主党の前原誠司前代表が民主党の財源の裏付けのないマニフェストを批判して「仮にこのまま民主党が政権を取っても大変です。わたしは“君子豹変”しない限りまともな政権運営はできないと思いますよ」と発言していました。ムダを削れば社会保障、医療を再建できるという耳障りのいい話は、政局作りのために語られる夢物語にすぎないということが、もっと広く知られて良いと思う。財政の中でも社会保障は負担増で機能強化を図りつつ、それ以外は徹底的に効率化をはかって、浮いた財源は債務の返済に回していく。社会保障の再建と政府のムダの削除は、両立できる。
小松 今後の議論では、特定の分野だけの専門家だけで行ってもだめですね。様々な分野の人が集まり、できるだけ広い見方をして、全体像を把握していくことが大切です。
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医療をよくしたいと、もしもお考えであるなら、心無い『医師』に心を折られた者の気持ちを、どうか考えてほしいと思いました。
このような記事を書くのは忍びない気持ちでしたが、思い余って書かせていただきました。
http://azukinattou1009.blog114.fc2.com/blog-entry-183.html
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