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「医療再生のためには、税や保険料の引き上げなどの負担増が必要」。これは、虎の門病院・小松秀樹氏、慶應大・権丈善一氏の一致した意見です。しかし、医療界では、医療費増の必要性は認めながらも、負担増に対する反対論が根強いのが現状です。そこで、両氏に、現状の医療に対する認識から、医療費の水準や財源論に至るまで対談していただきました。第1回のテーマは、医療の提供体制から見た現状認識。「今日的医師不足」に陥っているという結論です。(対談は、2008年5月28日に実施。計8回に分けて連載)。
◆m3.com「医療維新」のURL
http://www.m3.com/tools/IryoIshin/080616_1.html
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◆医療再生にはなぜ負担増が必要か◆Vol.1
――医療費の水準やその負担
のあり方を考える際には、現状の医療提供体制がどうなのか、質量ともに十分なのかを踏まえる必要があります。その辺りからお伺いします。
小松 これまではぎりぎりで医療提供体制が維持できていましたが、危なくなってきているという認識です。その一因は、「フリーアクセス」という、非常に「贅沢」なシステムにあると思っています。現状のようなフリーアクセス、国民皆保険制度、少ない医療従事者でやっていたら、もはや持ちません。
――OECD諸国と比べると、人口当たりの数は、医師だけでなく、看護師なども少ない状況にあります。
小松 そうですね。この前、東京地検から4人の検察が虎の門病院に視察に来て、医療事故が起こりそうな現場を中心に見ていきました。投薬の準備作業の際、間違えないように患者さんに渡すためにどんな努力をしているかを見て、ため息をついていましたね。
例えば、合計して7~8種類の薬を服用している患者がいるとします。そのうち何を投与すべきかを医師の指示と照らし合わせて毎回チェックするわけです。こうした確認作業を各患者に実施しますが、そんなとき、電話がかかってくると作業が中断される。これは事故の元です。また、血液内科をはじめ、投与指示が頻繁に変わる科も少なくありません。本人確認しようとしても、本人の具合が悪ければ、それもままならない。
ICUも視察していきましたが、1人の患者に人工呼吸器が付き、輸液ポンプとシリンジポンプが合計7台付いている。モニターがたくさんあり、頻繁にアラームが鳴る。そんな状況を見て、彼ら
は唖然(あぜん)としていました。
権丈 つまり、医療従事者は充足していないのでしょう。欧米諸国と比べて、「日本の医師数は少ない、医療費は安い」という状況でいい理由は、別にないと思います。
――小松先生が医師になられた当時との比較ではどうでしょうか。今の仕事の質や内容はかなり違いますか。
小松 相当違いますね。私が医師になったのは1974年です。その当時、東大泌尿器科では、医師が十数人いましたが、手術件数は年間350件程度でした。一方、今の虎の門病院の泌尿器科医は7人で、年間700件の手術を手がけています。
ただし、私は全国の病院を知っているわけではありません。今は特別、忙しい病院に勤めていると言えるでしょう。現在、普通の病院、さらには大学病院などですら、医療訴訟を恐れるためか、難しい手術を敬遠する傾向が明らかにあります。理由はどうあれ、私のところには難しい手術が集中する傾向があります。これも忙しくなる理由の一つです。
手術件数が格段に増えたほか、説明にかける時間も違います。以前はあまり説明に時間をかけませんでしたが、今は患者さん1人当たり1時間程度です。同意書や各種書類の作成にも時間を要します。
さらに患者さんの要求レベルも高くなっているので、日曜日の朝9時に病棟に行くと、医師が皆、そろっている状況です。
――「日曜日に朝、医師が全員そろっている」と。それは全員、勤務時間外であり、時間外手当などは付かない仕事でしょうか。
小松 虎の門病院には医師の時間外手当はありません。
――虎の門病院では、医師の献身的な働きによって成り立っている。
小松 ただ医師の「クソ働き」は以前からあって、私自身は、1カ月に最大で16~17日間病院に泊まったこともありました。もっとも、若いころはそれで持ちましたが、健全ではありません。
権丈 今の若い女性は、経済力を持つようになっていますから、男性医師がそんな多忙な生活をしていると帰宅したら奥さんがいなかったということも起こり得るでしょう。医師を含めて若い人たちのライフスタイルそのものが変わってきていると思います。
つまり、昔と状況が違うところが相当あり、医師が献身的に支えてきた医療が崩れつつあるわけです。同時に、小松先生が2006年に上梓された著書『医療崩壊』で指摘されている通り、1999年の横浜市立大学の「患者取り違え事件」以降、医療に対するバッシングが始まり、患者の意識に変化が起こり彼らの要求水準が高まって、ペーパーワークや説明などにかかる時間が増えています。一人の患者を診る時間と労力が、以前とは変わってきているのです。
小松 その上、医療安全をはじめ、院内で開催される各種委員会がものすごく増えました。人数的にギリギリでやってきたところに患者さんの要求の高まりなども重なり、医師の不満が噴出しているのが現状です。
権丈 私は、それを「今日的医師不足」と表現しています。
【小松秀樹氏プロフィール】
1974年東京大学医学部卒。山梨医科大学(現山梨大学)助教授などを経て、99年より現職。2006年に上梓した『医療崩壊』(朝日新聞社)が話題に。臨床医の視点から、医療の現状に問題提起を続ける。最新刊に『医療の限界』(新潮新書)。
【権丈善一氏プロフィール】
1985年慶應義塾大学商学部卒業、90年同大商学部助手、94年助教授、2002年から現職。96~98年と2006年~2007年英ケンブリッジ大留学。2006年12月~2007年3月「医療費の将来見通しに関する検討会」委員、2008年1月から社会保障国民会議委員。
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