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2009.04.29 16:32 |  診療  |  医療制度 / 行政  |  仕事 / 職場  |  bamboo  | 推薦数 : 1

解決されない人質事件

 人質事件とは、人質の生命を楯に無法な要求をすることです。実際にこのような事件が起きれば、人質の生命の安全に配慮しつつも、犯人逮捕にも全力で努力します。けれども、ひたすら無法な要求に屈するばかりで、誰も事件を解決しようとしない事例があります。人質も、要求を受け入れるよと言うばかりで、犯人を逮捕しろとはいいません。その事例とは、医療です。

 多くの病院で、時間外の救急医療を担っているのは宿日直医です。でも、厚生労働省労働基準局によれば、宿日直医の仕事内容は、以下の通りです。

労働基準法における宿日直勤務は、夜間休日において、電話対応、火災予防などのための巡視、非常事態が発生した時の連絡などにあたることをさす。

医療機関において、労働基準法における宿日直勤務として許可される業務は、常態としてほとんど労働する必要がない業務のみであり、病室の定時巡回や少数の要注意患者の検脈、検温等の軽度または短時間の業務に限る。

夜間に十分な睡眠時間が確保されなければならない。

宿直勤務は、週1回、日直勤務は月1回を限度とすること。

宿日直勤務中に通常の労働が頻繁に行われる場合は、宿日直勤務で対応することはできず、交代制を導入するなど体制を見直す必要がある。


 医師にとって医療とは通常の労働ですから、救急医療を受け入れている病院で、宿日直医が救急医療を行うことは無理だと言うことが分かります。時間外に救急医療を行うのであれば、休日夜間にフルタイムで働ける人員を割り当てる必要があります。でも、実際には宿日直医に救急医療を丸投げにするような無法状態がまかり通っています。義務がないからと言って診療を断れば、患者の命が失われます。日本の救急医療は、まさに人質事件なのです。

 この事件の実行犯は病院の開設者ですが、彼らも好きでやっているわけではありません。そのようにしないと病院の存続がかなわないのです。黒幕は、そのような診療報酬体系を定めた国でしょう。

 このような医療体制に疑問を持つ医師は多いのですが、最近積極的に司法に問う医師も出てきました。法律的には医師の言い分は当然のことですから、以下のような判決となります。

産科医訴訟:宿直割増賃金の支払い認める 奈良地裁

 奈良県立奈良病院(奈良市平松)の産婦人科医2人が、夜間や土曜休日の宿日直勤務に対し低額の手当ですませるのは違法として、04、05年の割増賃金など計約9230万円を支払うよう求めた訴訟の判決が22日、奈良地裁であった。坂倉充信裁判長は、県に時効分などを除く計約1540万円の支払いを命じた。医師の宿日直勤務を時間外労働と認めた初の判断とみられる。

 判決などによると、同病院は県内外からハイリスクの妊婦らを24時間受け入れている。原告は04、05年に1カ月当たり6~12回の宿日直勤務をした。勤務時間は宿直が午後5時15分から翌日午前8時半、日直が土曜休日の午前8時半から午後5時15分だが、その前後も恒常的に勤務が続いていた。県は1回2万円の手当を支給した。

 判決は原告らの宿日直勤務が「分娩(ぶんべん)の回数も少なくなく帝王切開も含まれる。救急医療もまれではない」として労働基準法上、割増賃金を払わなくてよい「断続的労働」とは認めなかった。割増賃金の根拠となる労働時間について「待機時間も労働から離れることが保障されているとはいえない」と宿日直開始から終了までが労働時間に当たると認めた。

 原告側は、自宅で待機する「宅直」も労働時間に含めるよう主張したが、判決は「病院の指揮命令下にあったとは認められない」として請求を退けた。【高瀬浩平、阿部亮介】

毎日新聞 2009年4月22日 22時23分(最終更新 4月22日 23時43分)


病院での宿日直の総てが労働時間だとすれば、時間外勤務手当だけの問題ではなく、労務管理の問題でもあります。過労死レベルの勤務状態を放置することは犯罪です。この判決を尊重するとすれば、少なくとも、救急医療は崩壊するでしょう。

 今回は宅直は勤務時間と認められませんでしたが、それも病院からの命令ではなかったと認定されたからです。自主的に決めることをせず、病院から命令されなければ宅直をしないとなれば、救急医療だけでなく、病院の機能の多くが失われるでしょう。

 この判決が出たからと言って、多くの病院の労働条件が変わることはないでしょう。変えたくても変えるだけの原資がありません。医師の数も予算も圧倒的に足りないのです。変えるくらいなら、病院をたたむ方を選ぶでしょう。医師もそれを知っているので、この判決を受けて訴訟を乱発することはないでしょう。なぜなら、患者の命を人質に取られているからです。

 たとえ一時的に多くの命が失われるとしても、まともな医療を構築するためには、いちど完全に医療を崩壊させるべきだとの意見もあります。でも、そこまで簡単に割り切れる医師は少ないのではないでしょうか。だとしても、疲れ果て、モチベーションの下がった医師は今までのようには働きません。積極的に医療を崩壊させるような行動を取らなくても、今のような医療政策を取る限り、崩壊は免れないと思います。

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2009.04.28 17:09 |  診療  |  仕事 / 職場  |  医療事故  |  bamboo  | 推薦数 : 3

当然の判決

 クモ膜下出血の多くは、脳血管のコブ(脳動脈瘤)が破裂することで起きます。誰かが破裂させたのではなく、コブの部分はもろくなっているので、自然と破裂するのです。頭蓋骨の内部の容積には限りがありますから、出血はいずれ止まります。でも、頭蓋内の圧力が高くなりすぎれば、そのまま亡くなります。亡くならなくても、後遺症が残ることは少なくありません。

 1度目の出血で命が助かっても、2度目の出血があれば、また亡くなる危険があります。そして、何時2度目の出血があるか、誰にも分かりません。そのため、次の出血を防ぐため、コブをクリップで留める手術をします。手術中はコブを取り巻いていた組織がよけられ、コブを抑えていたものがなくなりますから、よけいに破裂しやすい状態になります。医師が乱暴に扱うから破裂するわけではありません。でも、破裂しても、頭蓋骨は開けられていますから、今度は頭蓋内圧は上がりません。出血多量で障害が起きることはあり得ますが、たいていは脳外科医と麻酔科医が何とかします。後遺症が残ったとしても、最初の破裂によるものである可能性が高いでしょう。

手術ミス認めず 地裁、原告の請求棄却 群大病院医療裁判
2009年4月27日 提供:毎日新聞社

 群馬大付属病院で03年12月、脳手術を受けた渋川市の男性(68)が寝たきりになったのは手術中のミスが原因として、男性の家族が同大を相手取り、慰謝料など約3045万円の損害賠償を求めた訴訟で、前橋地裁(松丸伸一郎裁判長)は24日、原告の請求を棄却した。

 判決によると、男性は03年7月、飲酒中に倒れ、脳の血管内に脳動脈瘤(りゅう)が見つかり、同年12月、同病院で脳手術を受けた。手術中に動脈瘤が破裂し出血。その後、脳梗塞(こうそく)となり、左足まひや認知症などの後遺症が残って寝たきり状態になった。

 争点となっていた執刀医の過失について、原告側は「医師が注意義務を怠り、術中に動脈瘤を破裂させた」などと主張したが、松丸裁判長は「執刀医の手術は乱暴なものではなく、不適切とは認められない」などと退けた。【鳥井真平】



 飲酒中に倒れたのは、脳動脈瘤が破裂したためです。手術中に再破裂したのは、術者のせいとは限らず、ある程度の確率で必ず起きることです。また、手術中の再破裂による後遺症の発生は、上述のごとくまれです。

 実は、クモ膜下出血を起こすと、脳梗塞になりやすいのです。倒れてから3日くらい経つと、脳の血管が攣縮を起こします。つまり、細く縮むのです。そのため、脳の血管が詰まり、脳梗塞となるのです。寝たきりになったのは病気のせいです。医師のせいではありません。原告敗訴は当然の結果です。

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2009.04.24 13:34 |  生活 / くらし  |  グルメ / お酒  |  その他(一般)  |  bamboo  | 推薦数 : 2

トラ箱でいいのでは

 酔っぱらって騒ぐ人は、確かに迷惑ではある。でも、誰かに危害を加えているのでもない限り、保護すべき対象であって、逮捕するようなことではないのではないだろうか。以前はこのような場合に備えてトラ箱なるものがあったのだが、少なくとも、警視庁のものはなくなったらしい。

 酒飲みであれば、誰でも失敗の一つや二つはある。事例によっては看過できないものがあるのは当然だが、夜中の公園で裸で騒ぐくらい、「バカたれ!」で済ませても良かったのではないか。逮捕されたあげく、仕事を奪われ、大臣に「最低の人間」と言われるようなこととはとても思えないのだが。

SMAP草なぎ容疑者、逮捕 公然わいせつ 地デジCM降板へ
2009年4月23日(木)15:35 産経

 東京・赤坂の公園内で全裸になったとして、警視庁赤坂署は23日、公然わいせつ容疑で、人気アイドルグループ「SMAP」のメンバー、草なぎ剛容疑者(34)を現行犯逮捕した。同署によると、草なぎ容疑者は「全裸になりました」と容疑を認めている。

 同署の調べによると、草なぎ容疑者は23日午前3時ごろ、東京・赤坂の東京ミッドタウン近くの檜町公園で、酒に酔った状態で全裸になって騒いだ疑いがもたれている。近隣住民の通報で駆けつけた署員が注意したが、草なぎ容疑者は全裸で騒ぎ続け、逮捕された。


 同署で逮捕から4、5時間後に呼気を調べたところ、アルコール濃度は呼気1リットル中0・8ミリグラムで、泥酔状態だった。


 警視庁によると、草なぎ容疑者は「裸になったことは反省している。何で裸になったかは覚えていない」と供述しているという。


 草なぎ容疑者は、地上デジタル放送の普及を推進するためのキャラクターも務めているが、総務省などはキャラクターから外す方向で検討を始めた。また、トヨタ自動車やP&Gは、テレビCMを打ち切ることを明らかにした。

                   ◇

 草なぎ容疑者の所属するジャニーズ事務所は、「ファンの皆様をはじめ多くの皆様に、多大なご迷惑とご心配をおかけしたことを深くおわび申し上げます。本人の今後の活動等につきましては、改めてご報告させていただきます」とのコメントを出した。


 逮捕からでも4時間以上経っていたのだから、飲み終わってからは相当の時間が経過したはずなのに、それでもアルコール濃度は呼気1リットル中0・8ミリグラムだったのだから、騒いでいたときの状態はまさに泥酔状態だったのでしょう。

 法律には素人なので、詳しい人に是非教えて欲しいのですが、泥酔状態は心神耗弱状態ですよね。実際に被害者が居るような犯罪の場合や、飲酒運転の場合には色々な理屈で責任を問われるようですが、裸で騒ぐくらいで刑事責任を問えるものでしょうか。逮捕は行き過ぎだと思うのですが、法律家だったらどう考えるのでしょう。

 この件ではマスメディアのはしゃぎぶりにも嫌気がさしています。よってたかって犯罪者扱いをすることはないでしょうに。薬物乱用と違い、よくある酒の上での過ちで、他人に危害を与えたわけでもないのですから、もう少し冷静な報道でよいと思います。「容疑者」と言うときの声が、なんだか嬉しそうに感じたのは、私の錯覚でしょうか。

 また、CMや番組の放送の自粛にも気味の悪さを感じています。他罰的な風潮の反映なのでしょうが、今回の件に関しては、世間はもっと冷静なのではないかと思っています。「僕は時々壊れますが、トヨタの車は安心です」なんて草彅君に言わせれば、受けるんじゃないかなあ。

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2009.04.16 06:16 |  診療  |  仕事 / 職場  |  医療事故  |  bamboo  | 推薦数 : 3

「念のため」は、どれだけ増えたのだろう

 刑事に続いて、民事でも「割り箸事故」に決着が付いた模様。原告は上告はしないと言っているようなので、このまま確定するのでしょう。根本先生、お疲れ様でした。

 それでも念のための検査は無くならないで、医療費を押し上げ、医療従事者の睡眠時間を削り続けるのでしょうね。

割りばし事故死、2審も両親の賠償請求を認めず
2009年4月16日(木)02:16 読売オンライン


 1999年に東京都杉並区の保育園児杉野隼三ちゃん(当時4歳)が綿あめの割りばしをのどに突き刺して死亡した事故を巡り、両親が、杏林大医学部付属病院(三鷹市)を運営する学校法人「杏林学園」と、治療した根本英樹医師(41)に約8960万円の損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決が15日、東京高裁であった。

 小林克已裁判長は、根本医師について「当時の医療水準では脳損傷を予見するのは不可能だった」と述べ、1審に続き請求を棄却した。

 判決によると、隼三ちゃんは99年7月、自宅近くの盆踊り大会で割りばしをくわえたまま転倒。同病院で根本医師は傷口に薬を塗るなどして帰宅させたが、隼三ちゃんは翌朝に死亡した。その後の解剖で、 頭蓋 ( ずがい ) 内に約7・6センチの割りばし片が刺さっているのが見つかった。

 判決は、根本医師について、「問診は極めておざなりだったが、慎重な問診を行っていても、折れた割りばしが残っていると疑うのは難しく、詳しい検査をする義務があったとは言えない」と述べた。同病院の体制にも不備はないとした。

 この事故を巡っては、根本医師が業務上過失致死罪に問われたが、1、2審で無罪判決が言い渡され、昨年12月に確定している。

 判決後、両親は「ただただ無念でならない。上告しないつもりだ」とコメント。根本医師は「この経験はこれからの私の医師としての生き方に役立たせたい。隼三君のご冥福を心よりお祈り申し上げます」と述べた。

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2009.04.12 22:25 |  生活 / くらし  |  その他(一般)  |  bamboo  | 推薦数 : 3

何も言えねえ!

 こういう判決が出るのだから、医療にも過度の責任が求められるのもしょうがないのでしょうか。訴える親に、羞恥心というものはないのか。

親パチンコ中、子が交通事故 「店にも責任」の判決
2009年4月10日23時18分 asahi. com

 両親がパチンコ中に子どもが店外で交通事故に遭った場合、パチンコ店側に責任があるかが争点となった訴訟の控訴審判決が10日、福岡高裁であった。牧弘二裁判長は「幼児同伴の客の入店を許す以上、幼児の監護を補助すべき義務があった」とパチンコ店経営会社の過失を認定し、同社を含む関係者に総額約650万円の支払いを命じた。

 判決によると、大分市のパチンコ店に04年6月、2歳の男児と女児が双方の両親に連れられ入店。パチンコ玉を運ぶ台車に女児が乗り、男児が押して遊んでいた際、店外に出てしまい、国道で乗用車にはねられて女児が死亡した。

 女児の両親は、同社と男児の両親らに総額約2600万円の損害賠償を求めて提訴。一審・大分地裁判決は「事故は公道で起きており、同社に安全配慮義務違反は認められない」として、同社への請求については退けていた。

 これに対し、高裁判決は、前方確認を怠った運転手の過失を5割と認定。女児の両親にも責任があるとしたうえで、同社の責任を検討した。従業員が幼児の面倒をみると伝えたこともあった点などを考慮して、過失を認定した。

  

 従業員が幼児の面倒をみると言った以上、法的にはこういう判決になると言われればその通りなのでしょうが、子供をほっぽらかしにしてパチンコをしていた親に賠償金が行くことが、どうしても納得がいかないのですよね。

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2009.04.11 06:42 |  診療  |  仕事 / 職場  |  医療事故  |  bamboo  | 推薦数 : 0

最高裁で麻酔ミス認定その2

 前回引用した判決文から、入室から心室細動までを、時系列に沿ってまとめてみました。

1:15 入室し、硬膜外カテーテルを第1・2腰椎間から挿入
1:20 全身麻酔導入前 血圧は152/86
1:25 ベクロニウム4mg静注し、ラリンゲアルマスク挿入
    笑気・酸素吸入開始(それまでは純酸素と思われる)
    プロポフォール80mgを10分かけて静注
1:35 プロポフォール7.5mg/kg/時で開始
     ケタミン45mg静注後、0.75mg/kg/時で開始
     硬膜外に2%メピバカイン2ml注入 更に5分後18ml追加
1:37 血圧75/45 エチレフリン2mg静注 昇圧見られる
1:48 血圧80/50 エチレフリン2mg静注 昇圧見られる
1:55 血圧80/50 エチレフリン2mg静注 昇圧見られる 手術開始
2:00 血圧78/40
2:05 血圧90/42 エチレフリン10mg、メトキサミン10mg点滴静注開始
2:10 血圧112/55
2:15 血圧80/44まで下がる
2:18 パルスオキシメーターで脈を感知できず
2:20 頸動脈の拍動触れず
2:22 心室細動

 これは本当に麻酔科医が麻酔を担当したのでしょうか。そもそも実際にこのような麻酔だったのでしょうか。私の部下がこんな麻酔をしたら、怒鳴りつけると思います。

 下肢の手術に第1・2腰椎間から硬膜外カテーテルを入れるのは、少々上過ぎると思いますが、それはたいしたことではありません。でも、合計20mlの2%メピバカインを注入するのは多すぎます。全身麻酔併用ではなく、硬膜外単独での手術だとしても、私だったらそんなに使いません。また、上記の時系列での表記が正しいとすれば、既に血圧が下がっているのに18mlの追加をしたことになります。何も考えていないと言われても言い訳できないのではないでしょうか。

 また、1:25の全身麻酔導入の経過も異常です。ベクロニウムを投与すると呼吸が出来なくなります。意識があると、これは拷問です。通常静脈麻酔薬で眠らせてから投与するものです。でも、判決文では最初にベクロニウムを投与し、意識下で呼吸が出来ない状態でラリンゲアルマスクを入れ、静脈麻酔薬であるプロポフォールは10分間かけて80mgを投与したとされています。これでは眠りません。さすがにこれは事実と異なるのではないかと思います。10分間は10秒間の間違いではないかと言う気がするのですが、真実はどうでしょうか。

 私だったらラリンゲアルマスクを使うのであれば筋弛緩剤は使わず、自発呼吸を保ちます。筋弛緩剤を使って人工呼吸にするのであれば、最初から気管挿管をします。

 全身麻酔薬の投与量が多いことはその通りだと思います。硬膜外麻酔をたっぷりと効かせているのですから、痛み刺激はほとんど無いはずです。意識を無くすだけなら、それほどの麻酔深度は必要ないでしょう。それに、ケタミンを使う理由が分かりません。ケタミンは鎮痛作用の強い薬です。硬膜外麻酔をした上で、更に鎮痛作用を求める必要が、何処にあるのでしょうか。まあ、使って悪いわけではありませんが。それにしても、血圧の維持に難渋するような深麻酔をしながら、どうして麻酔を浅くする選択をしなかったのか理解不能です。

 ここまで読むと、私が最高裁の判決に賛成しているかのように思われるかも知れませんが、そうではありません。深麻酔であれば、昇圧剤で対処可能です。麻酔が深すぎるのに昇圧剤で血圧を維持するのは筋悪ですが、致命的ではないと思います。急激な血圧低下と心停止から見て、肺塞栓症がもっとも考えられると思っています。

 大腿骨頸部骨折も、人工骨頭置換術も、どちらも肺塞栓症を起こしやすいのですが、高裁判決では、以下のように肺塞栓症を否定しています。

被控訴人は、Aの死因について電撃型脂肪塞栓症の可能性が高いと主張し、B医師、C医師及びD医師(被控訴人病院整形外科部長)はこれに沿う供述をしている。午後4時5分 ころAの尿に血液が混じっており、膀胱内の血液分を生理的食塩水で洗浄した後も血尿が認められたこと及び肺から湿性ラ音が出始めたことなど、脂肪塞栓症の結果と矛盾しない 証拠は認められるものの、証拠によれば、1回目の心停止の後、午後4時46分から同48分にかけて撮影されたAのCT画像からも脂肪塞栓症の発症を断定できないこと及び脂 肪塞栓症が生じていれば、その発症に伴いETCO2(終末呼気二酸化炭素濃度)の値が低下するが、Aの血圧が急激に低下した午後2時15分においても、ETCO2の値は低 下しておらず正常値であることを考慮すると、1回目の心停止の原因は電撃型脂肪塞栓とは認められず、また、Aの死亡の原因が電撃型脂肪塞栓であると推認することはできない 。


 CTで断定できないことや、麻酔記録に2:15時点での呼気炭酸ガス分圧の低下がないことで、肺塞栓症を否定しているようです。でも、CTの性能によっては診断できないことはありますし、2:15時点ではそれまでの血圧低下と同じくらいの血圧が記録されていますので、この時点で肺塞栓症が完成したわけではなく、発症は直後と思われます。そして、その後は記録どころではない状態になっています。 

 おそらく死因は肺塞栓症。心筋梗塞などの突然死を来す他の疾患もあり得る。解剖されていないので確定は不能。でも、麻酔管理が悪かったことは否定できないので、そこを突かれて敗訴。こういった事例と私は思います。

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2009.04.10 16:18 |  診療  |  仕事 / 職場  |  医療事故  |  bamboo  | 推薦数 : 0

最高裁で麻酔ミス認定その1

 私は麻酔科医なので、麻酔のミスを認めた最高裁判決となれば放ってはおけません。少し前の記事ですが、こんな報道がありました。

麻酔投与ミスで差し戻し 最高裁、死亡原因と認定
09/03/27記事:共同通信社

 新潟県立十日町病院で手術中に死亡した女性の遺族が「医療ミスがあった」として、新潟県に約4200万円の賠償を求めた訴訟の上告審判決で、最高裁第2小法廷(古田佑紀(ふるた・ゆうき)裁判長)は27日、一部賠償を命じた2審東京高裁判決を破棄、損害額を算定し直すよう審理を同高裁に差し戻した。麻酔を過剰投与したミスと死亡との因果関係を認めた。

 2審判決も投与ミスを認めていたが、死亡との因果関係のある過失とまでは認めず「延命可能性を侵害した」として約1400万円の賠償を命令。遺族側が上告していた。

 判決によると、大腿(だいたい)骨を骨折した女性=当時(65)=は1997年6月、全身麻酔と局所麻酔を併用した手術中に心停止し、心臓マッサージなどの措置で一度は心拍が再開したが、死亡した。

 この事例はネット上で最高裁判決文(要PDFソフト)を読むことが出来ます。麻酔の経過が判決文の通りなら、麻酔そのものに問題があったことは否定できません。判決文から、経過の部分を引用します。
(2) 本件手術の経過
ア Aは,平成9年6月10日,麻酔前投薬として硫酸アトロピン(副交感神経遮断剤)0.5mg,ハイドロキシジン(抗アレルギー性精神安定剤)50mgの筋肉注射を受け,午後1時15分ころ,手術室に入室した。C医師は,硬膜外麻酔のための硬膜外カテーテルをAの第1腰椎と第2腰椎の間から硬膜外腔に挿入した後,午後1時25分ころ,筋弛緩薬であるベクロニウム4mgを静脈内注入して筋弛緩させるとともに,ラリンゲアルマスク(気道確保のための喉頭マスク)を挿入して人工呼吸し,全身麻酔薬である笑気(亜酸化窒素)60%(午後1時40分ころから70%)と酸素の混合ガスの吸入を行った。また,午後1時25分ころから約10分かけて,全身麻酔薬であるプロポフォール初回量80mgを静脈内に投与して,Aを就眠させ,午後1時35分ころから7.5mg/kg/時で静脈内への持続投与を開始した。C医師は,午後1時35分ころ,硬膜外麻酔として2%塩酸メピバカイン注射液2mlを硬膜外カテーテルから注入し,その後4~5分して,同液18mlを同カテーテルから注入した(注入された塩酸メピバカインの量は,合計400mg)。また,同時に,全身麻酔薬である塩酸ケタミン初回量45mgを静脈内に投与し,次いで0.75mg/kg/時で静脈内に持続投与した。

イ Aの血圧は,午後1時20分には収縮期血圧が152mmHg,拡張期血圧が86mmHg(以下,血圧については,収縮期血圧と拡張期血圧を/で区切る形式により,単位を省略して数値のみで示す。)であったが,午後1時37分に75/45,午後1時48分に80/50に低下し,C医師は,各血圧低下に対し,昇圧剤(循環増強剤)である塩酸エチレフリン(エホチール)2mgを各1回静脈注射して,その都度収縮期血圧が100を超える数値に血圧を回復させた。Aの血圧は,その後午後1時55分に82/35に低下し,C医師は,上記と同じ昇圧剤の静脈注射を行った。

ウ B医師は,午後1時55分に執刀を開始し,股関節関節包を切開して大腿骨頭を股関節臼蓋より取り出し,午後2時15分までに髄腔内を人工骨頭の大腿骨部分の形に合わせて削るなどの作業を行った。その間,Aの血圧は,午後2時に78/40,午後2時5分に90/42に低下し,C医師は,午後2時5分ころ,昇圧剤の薬効を長時間均等に安定させるため,昇圧剤(血管収縮剤)の塩酸メトキサミン10mgと塩酸エチレフリン10mgを水分電解質の補給維持のためのアセテートリンゲル液に入れ,点滴静脈注射を行った。Aの血圧は,午後2時10分に112/55に回復した。

エ ところが,Aの血圧は,午後2時15分に80/44まで低下した後,さらに急激に低下し,脈拍も午後2時18~19分ころにパルスオキシメーターで脈波を感知しなくなり,これを認識したC医師が総頸動脈の拍動を触知しつつ血圧を確認したところ,午後2時20分には拍動を触知できない状態となり,自動血圧計も血圧の測定値を表示せず,心電図も異常パターンを示し,心室性期外収縮が頻発し,午後2時22分ころ,心室細動(事実上の心停止。以下「本件心停止」という。)となった。

オ 担当医師らは,午後2時20分ころから,血圧の異常な低下に対する措置及び心肺蘇生措置を講じた。すなわち,C医師は,異常を認識した後,まず気道の確保を確認し,上記のとおり持続投与していたプロポフォール及び塩酸ケタミンの投与を中止して,純酸素の吸入を開始し,昇圧剤の点滴を速めた上で,強心薬の静脈注射を行ったが,Aに反応は見られなかった。試用人工骨頭を挿入して関節の緊張度や可動域を確かめていたB医師は,C医師の指示で手術を中止し,手術創を縫合した。そして,気管内挿管を行った上で,手術創縫合後の午後2時30分近くに心臓マッサージを開始し,強心薬の投与,除細動,重炭酸ナトリウムの投与等を行ったところ,午後2時50分ころ,脈拍が触れるようになり,心臓マッサージを中止した。しかし,心電図上は心肺蘇生を行った直後に見られる異常波形が続き,血圧は60~40/20~10であった。その後,Aの血圧は,午後4時5分ころ以降80~70/20前後となって低いながらも小康状態を保ち,午後4時30分ころ自発呼吸が戻ったことから,担当医師らは,本件心停止の原因を探るためCT検査を行うこととし,午後4時35分ころ,AをCT検査室に移動させた。しかし,検査開始後間もなくAの血圧が低下し始め,再び心停止となり,アドレナリン等の投与,心臓マッサージ,除細動により心肺蘇生措置が講じられたが,功を奏せず,Aは,午後7時53分に死亡した。Aの遺体について病理解剖は行われなかった。


 次回に時系列に沿ってまとめてみます。

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