| 日 | 月 | 火 | 水 | 木 | 金 | 土 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | ||
| 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 | 12 |
| 13 | 14 | 15 | 16 | 17 | 18 | 19 |
| 20 | 21 | 22 | 23 | 24 | 25 | 26 |
| 27 | 28 | 29 | 30 | 31 |
函館市:「手術で後遺症」 患者に8290万賠償で示談 /北海道
函館市は8日、市立函館病院の手術で右腕まひの後遺症が生じた渡島管内の30歳代の男性患者に8290万円余を賠償する示談が成立した、と発表した。麻酔の薬液が誤ってくも膜下に入り神経を損傷した可能性があり、同病院は「施術にミスはなく原因は不明」と説明しているものの、全身と局所を併用する現在の麻酔方法を改めることにした。
市によると、男性は右肩関節の慢性脱臼の治療のため昨年4月、関節形成の手術を受けたが、右腕が機能しない障害2級のまひが残った。この手術では術後に強い痛みが残るため、全身麻酔と右首下部への局所麻酔を併用。しかし、局所麻酔の薬液が脊髄(せきずい)神経の束になっている部分を通じ、くも膜下に入り込んだ跡が確認されたという。【昆野淳】 毎日新聞 2008年7月9日 地方版
記事を読む限りでは、全身麻酔と何らかの局所麻酔を併用して肩関節の形成術を行い、術後に右腕の麻痺が残ったと言うことのようです。どうして手術ではなくて麻酔が原因だったと判定したのか知りたいものです。肩関節形成術では、筋皮神経麻痺が起こりうることが知られていますが、麻痺の範囲はどのようなものだったのでしょうか。
記事では「局所麻酔の薬液が脊髄(せきずい)神経の束になっている部分を通じ、くも膜下に入り込んだ跡が確認された」とありますが、そのような「跡」と言うものを思いつきません。いったい何なのでしょうか。
そもそも併用した局所麻酔とは何でしょうか。「右首下部への局所麻酔」ですから、おそらく斜角筋間ブロックでしょう。これは、肩を含む腕全体に効く麻酔で、上腕神経叢という神経の束に麻酔薬を浸す麻酔法です。神経の束の所に針を刺すわけですから、超音波画像や電気刺激を用いない従来の方法では、当然神経に針が刺さる事になります。神経に針が刺さっても、たいてい問題はありません。たいてい問題がないから、長いことこの麻酔法が用いられてきたのです。でも、時にしびれが残ることもあり、この記事の症例でも、麻酔が原因である可能性はゼロではありません。
けれども、記事にあるように、局所麻酔薬がくも膜下に入ったとしても、麻酔薬が切れれば元に戻ります。また、頸部でくも膜下に局所麻酔薬が入れば、全脊麻という状態になりますから、全身麻酔前であればもちろん、全身麻酔下であっても血圧や脈拍数の変動から気がつきそうなものだと思います。と言うわけで、くも膜下に局所麻酔薬が入ったという説はありそうもありません。
おそらくは病院側が記事のような発表をしたのでしょうが、だとすると、麻酔科医としては素直にうなずくわけにはいきません。ありそうもないシナリオを発表するからには、何か隠したいことがあるのではないかと勘ぐりたくなります。ましてや、示談としては破格の8290万円という賠償金です。また、「ミスをした」当事者にされた麻酔科の、この病院での立場も気にかかります。何かあると麻酔のせいにされることはよくありますので。発表を勝手に誤解して記事にした可能性ももちろんありますが。