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やっと厚労省も認めるようになったが、今、医師が不足している。中でも私の専門とする麻酔科は、必要な手術件数と比べて圧倒的に足りない。現状で執りうる手段は次のようなものだろう。
1)手術できない患者がいても構わず、手術件数を制限。
2)掛け持ち麻酔を容認する。
3)麻酔科医以外が麻酔を担当する。
自分が癌になったとき、手術もして貰えないのはイヤだから、1)は認めたくない。私が掛け持ち麻酔をした場合と、私の勤務先の外科医が麻酔をした場合とで、周術期の患者の快適度はもちろん、安全性でも、私の掛け持ち麻酔の方が勝っているだろうという自負はある。だから私は掛け持ち麻酔容認派だ。
掛け持ち麻酔容認派にとって、そばにいれば防げる事故がもっとも怖い。たとえば、人工呼吸管理下での回路の外れだ。どれだけ責められても言い訳のしようもない。その、もっとも怖いことが、起きてしまったようだ。
神奈川県立がんセンター乳がん手術でミス 患者重体
4月20日21時37分配信 毎日新聞
神奈川県立がんセンター(横浜市旭区)は20日、同センターが16日に行った乳がんの手術で酸素を供給する管が外れるミスがあり、40代の女性患者が意識不明の重体になっていると発表した。
同センターによると、手術は全身麻酔の乳房の部分切除で、16日午前9時15分に開始。約15分後、看護師が血中酸素濃度などを示すモニターが表示されていないことに気付いた。別の手術を手伝っていた担当麻酔医(38)を呼び戻し、麻酔器の管が外れていることが分かった。女性は低酸素状態が続いたため一時、心停止状態に陥った。心臓マッサージなどで心肺機能は回復したが、意識不明となっている。
麻酔医が手術前に確認した際、異常は確認されなかったという。異常を示すアラームが鳴ったかは分からず、同センターは、事故調査委員会を設けて事故原因を調べる。
大崎逸朗・同センター所長は20日夜、県庁で記者会見し、「重大な結果を招き、おわび申し上げます」と謝罪した。【五味香織】
少なくともこれは手術ミスではない。執刀医がこの見出しを見たら歯軋りをするだろう。どうも毎日新聞はこういうところにデリカシーがない。単に悪意があるだけかも知れないが。この記事が正しいとして、確認できることは次の通り。
麻酔導入の後、9時15分に手術開始。9時30分頃 SpO2 が表示されていないことに看護師が気づいた。このとき担当麻酔科医は他の麻酔を手伝っていて不在だった。担当麻酔科医を呼び戻したところ、麻酔器の回路が外れていたことが分かった。患者は呼吸停止状態であったため、低酸素血症となり心停止に至った。蘇生措置を施し心拍再開が認められたが、意識不明の状態が続いている。担当麻酔科医を呼び戻す前の心電図波形や脈拍数、血圧などは記事からは不明。
こちらの記事からは、麻酔科医が不在となったのは手術開始の前だったことが分かる。また、麻酔回路が外れたのは、麻酔器との接続部だったようだ。全身麻酔中、麻酔器の管外れ40代女性が重体…横浜
4月20日23時39分配信 読売新聞
神奈川県立がんセンター(横浜市旭区)は20日、乳がんの手術を受けた横浜市内の40歳代の女性患者が全身麻酔中に、酸素を送り込むための麻酔器の管が外れて低酸素状態となり、意識不明の重体になる医療事故があったと発表した。
同センターは事故調査委員会を設置し原因を調べる。
記者会見した大崎逸朗所長によると、16日午前8時55分、男性麻酔医(38)が女性患者に全身麻酔を行い、手術室を離れた後、午前9時15分に手術が始まったが、看護師が約16分後にモニターの異常に気付き、麻酔器本体から差し込み式の管が外れていたことがわかったという。
大崎所長は「管が外れていたのに気付くのが遅れ、モニターで異常をチェックできなかった。患者と家族におわびする」と謝罪した。麻酔医が手術室を離れた点については、「問題はないと思う」とした。
手術中に酸素送る管はずれ女性重体
4月21日8時1分配信 産経新聞
神奈川県立がんセンター(横浜市旭区)に入院していた横浜市の40代女性が、乳がんの手術中に麻酔器から酸素を送る管が外れる事故で意識不明の重体になったことが20日、分かった。
センターによると手術は先月16日に行われ、管は最大16分間外れていた。女性は呼吸ができず心停止状態に陥り、心臓マッサージなどで心拍は回復したが、意識は戻っていない。
担当麻酔医は全身麻酔をかけた後、ほかの手術室へ応援に行き不在だった。通常、管が外れるとアラームが鳴るが、聞き逃したか何らかの原因で鳴らなかった可能性があるという。
この記事からも、アラームが鳴ったかどうか分かっていないようだ。
以上を総合すると、8時55分に麻酔導入。麻酔科医は患者の状態が落ち着いたところで他の麻酔導入の手伝いに行った。その後、9時15分に手術開始。9時30分頃何らかのモニター表示の異常を看護師が発見。麻酔科医が呼び戻され、回路が麻酔器から外れていることが発見されたが、患者は無呼吸による低酸素血症から心停止となり、蘇生措置によって心拍は再開したものの、意識は戻っていない。アラームが鳴ったかどうかは不明。
疑問に思うのは、なぜ回路が外れたのかということと、アラームがあるはずなのに、どうして気が付かなかったのかということ。この点については、是非知りたい。
実は私にも同じような経験があった。麻酔担当医は私の部下。やはり掛け持ち麻酔で、問題の症例は研修医が見ていた。突然麻酔器の低圧アラームが鳴り、研修医は何も対処できず、担当麻酔科医は他の麻酔の導入中。私が駆けつけてみたら、記事の症例と同じく、麻酔器と回路の接続が外れていた。1分も経たないうちの出来事で、患者の容態には何の問題もなかった。
うちの病院では、麻酔器に麻酔回路を取り付けるのは看護師の仕事。以前からきちんとはめ込まず、只申し訳程度につないだだけのことがあり、何度も注意していたが徹底されていなかった。実際に事故が起きてみるまで重要性が理解されなかったのだろう。その事故以来、徹底されたことは言うまでもない。私自身は、麻酔の前に回路の点検はきちんと行っているので、看護師がいい加減なことをしても修正している。
アラームについては、通常麻酔器とモニターの両方が鳴るはずだ。回路が外れれば麻酔器の低圧アラームが鳴るし、更に低酸素になれば、モニターの SpO2 の異常を示すアラームが鳴るだろう。モニターのアラームが鳴ると、何も考えずにアラームをオフにする看護師はいるが、麻酔器の低圧アラームをオフにする看護師はいないと思う。
事故調査委員会を設置して調べるようなので、いずれ報告はあるだろうが、是非公表して欲しい。その際、担当麻酔科医が他の麻酔の補助をしなければならないような体制であったのであれば、その麻酔科医が個人的に責任を問われることの無いよう望みたい。
話は変わりますが、やはりどうしても「麻酔医」なんですね。科の名称として、「麻酔」だけが行為だからなのでしょうか。
コメント
コメント一覧
リピーターが居ることも、それに対する自浄作用がなかったことも事実なんですが、今では医師も看護師も辞めさせても代わりが居ないことも事実なんです。
出来の悪いのを辞めさせたくても、その分残りのスタッフの負担が増えると、彼らまで辞めてしまいます。やはり1回完全に崩壊しないと、医療は再生できないような気がします。
以前の勤務先では部長が掛け持ちしていましたが、手術室看護師の教育が行き届いていたため、モニターや麻酔器のアラームに気づかないということはありませんでした。
それでもやっぱり不在でもよい麻酔があってよいとは思いません。
簡単な手術はあっても簡単な麻酔はないとよく言われますが、そのように感じます。
この事件も、並列麻酔さえしていなければ、そして誰か、たとえば研修医でも麻酔担当者として存在していれば防げたのではないかと思います。よほどの緊急症例が立て込んでいるのでなければ麻酔科医が複数いる病院で並列でなければ手術できないと言う事態はありえないと思います。
目の前の患者のことだけを考えたら、私も掛け持ち麻酔には反対です。でも、医療環境は施設によっても地域によっても格差があります。
私の勤務先では、外科では既に良性疾患は他に送っていますが、それでもうちの病院での手術を希望して数ヶ月待っている患者もいます。癌患者も手術待ちを余儀なくされ、特に乳癌患者が溜まってしまい、私が掛け持ちをすれば可能な枠を数年前に新設しました。
麻酔科医の増員を計ろうにも応募はなく、むしろ減員の恐れが大です。
少なくともうちの病院では、掛け持ち麻酔をいっさい断れば、手術件数は大幅に減ります。断った患者の行き場があるかどうかは分かりません。
今は改善されたかも知れませんが、近隣には、自科麻酔で、術中は看護師がバイタルをチェックしているような病院もありました。
以上のような状況では、手術を受ける全ての患者の平均的な安全性を考えたら、掛け持ち麻酔やむ無しというのが私の考えです。もちろん他の麻酔科医に強要するつもりはありません。結果が悪ければ袋だたきですから。
以前の病院は麻酔科3人で4系列、掛け持ち麻酔が必須の職場でした。派遣する大学側も人員不足、病院側も準公立病院なので定員の枠を増やす気も無いという背景で手術件数をこなすためにはやむを得ずといったところで、「各手術室のモニターをネットワークで組んで監視する」「手術が始まって落ち着くまでは掛け持ち麻酔の導入を開始しない」などの体制にはしていましたが、夏休みになどなれば2人で4系列を見ることになるし、麻酔科医は掛け持ちでも看護師は掛け持ちではなく手が空いているから早く始めたがるという具合でなかなかスリリングな職場でした。
その他にも数ヶ所で掛け持ち麻酔も経験しましたが病院により安全に(?)掛け持ちが出来るところとそうでないところの差がかなりあるように思えます。前者は看護師が麻酔科医不在時にはモニター監視、記録を行って異常時には速やかに連絡に来てくれますが、後者は麻酔科医不在でも何もしない(どころかモニターのアラームだけは消してくれたりもする)。傾向として民間病院は前者が多く、公立病院は後者が多かったように思います(掛け持ちが必須の私の以前の勤務先ももちろん後者です)。
で現在はというと私の仕事場は麻酔科医は私一人でもちろん掛け持ちは行っておりません。正直なところ早く仕事を終わらせたかったり、この程度なら掛け持ちでも・・・と思うことも時々ありますが、一度前例を作ってしまってなし崩しが嫌なので「掛け持ち麻酔無し」の方針は徹底させてもらってます。職場を移った当初は「掛け持ちしないの・・・」という声も時々ありましたが、結局は日々の麻酔の質を上げて外科系医師との信頼関係を築けば自然とそういう声は無くなりました。また手術の調整も麻酔科の裁量となったため掛け持ちをしなくてもすむような(そして自分の体力的にも無理の無い)手術スケジュールが組めるようになっています。
掛け持ちで行われる麻酔は麻酔科医が付きっ切りの麻酔に比べたらリスクが高くなるのは明らかです。「仕事を早く終わらせたいなどの私欲を捨てる」、「掛け持ち麻酔はやらないという強い意志を示す」、「日頃の麻酔で外科系医師との信頼関係を作る」、「手術調整は麻酔科の裁量で行う」などで掛け持ち麻酔を減らしていくことは可能だと思うのですがいかがでしょう。
掛け持ち麻酔をしないことが正論なのは重々承知しております。自分の勤務する病院で掛け持ち麻酔をしないことも可能でしょう。でも、自分の病院だけ安全なら良いというわけではありません。あぶれた患者がたとえ他の病院であろうと、危険な麻酔を受けざるを得ないとしたら、それも嫌なのです。
全国的には麻酔科医が圧倒的に足りない状況で、結局は日本全体では以下の選択肢しかないのではないでしょうか。
1)手術できない患者がいても構わず、手術件数を制限。
2)掛け持ち麻酔を容認する。
3)麻酔科医以外が麻酔を担当する事を容認する。(他施設を含む)
4)毎日深夜まで働く。(選択肢を増やしました)
掛け持ち麻酔を絶対に容認しないのであれば、1)、3)、4)のどれかを選択しなければならないと思います。一つの症例に集中するより掛け持ち麻酔の方がリスクが高いのは当然ですが、掛け持ち麻酔と各科麻酔とを比べたらどうでしょうか。
当然ですが、掛け持ち麻酔を強制されることには絶対に反対です。
あくまで自分自身の考えとして、自己責任でやっています。
当然部下には強要しません。
本音を言えば、さすがに昨今の情勢では、掛け持ち麻酔どころか、麻酔科医をやっていること自体危険かも知れない言う気もしています。でも、もう引退までそれ程無いのに、今更考えを変えるのもシャクなのですよね。
あくまでも掛け持ち麻酔が学会の「安全な麻酔のためのモニター指針」から大きく外れてしまっていることは明らかです。従ってこのような掛け持ち麻酔を行うのであれば患者に「当院ではあなたの麻酔は掛け持ちで行います。それでもここで手術(麻酔)を受けますか、それとも転院してよそで手術(麻酔)を受けますか」というくらいのことは説明すべきではないでしょうか。
理想的には学会主導で掛け持ち麻酔を行う病院、掛け持ち麻酔を行わない病院、麻酔科の常勤医が不在でバイトの麻酔科医が麻酔を行う病院、当科麻酔で行う病院を明らかにして患者に選択してもらえれば良いのかななんて考えたりもします。
いずれにしても掛け持ち麻酔していた者が言うべきことではないかもしれませんが、掛け持ち麻酔を行うのであれば事故が起きたら弁解の余地は無いものと覚悟を決めて行ってください。
掛け持ち麻酔をしないことが「正論」で有ることも、掛け持ち麻酔をして何か事が起きれば袋だたきに遭うことも、すでに私は述べています。
むしろ私は、前回の私の発言にある、1)、3)、4)のいずれを先生が容認するのか教えていただきたいです。
学会で「失笑」した先生方にも訊いてみたいと思います。
正論を振りかざして他者を批判することは容易いことですが、私が持つ疑問をどのように解決しているのか是非知りたい。
私には他と比べて2)だけが特別に悪いことだとはどうしても思えないのです。
残った(1)~(3)に関してはどれを容認するかと言うよりもどれを患者に選んでもらうかが大事なのではないでしょうか。
当科麻酔でも掛け持ち麻酔でも患者が納得して受けるのであればそれで良いと思うし、それが不満である患者は順番待ちをするなり、少しでも早く順番が回ってくる病院を捜すなりすれば良いのではと考えます。
自分でもある意味冷たい意見だとは思いますが、他の診療行為と同様に情報提供した上で患者に選択してもらうべきで、麻酔科医が「手術制限や当科麻酔よりは自分の掛け持ち麻酔の方が良い」と思って行っているにしても、麻酔を受ける患者がその旨を知らなければ麻酔科側からの意見の押し付けに過ぎず患者側は満足できないと思います。
現状を考えれば掛け持ち麻酔を悪いことと決め付けてしまうことにも問題は多々あるのも分かっています。「掛け持ち麻酔を行うのであれば患者にもそのことを説明して行うべき」というのが私の最も主張したいところです。
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