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著者の情報に欠落がありました。以下のように追加させていただきます。この記事の著者は 京都大学大学院消化管外科 水野靖大先生です。今回の記事は転送歓迎します。その際にはMRICの記事である旨ご紹介いただけましたら幸いです。 MRIC(エムリック)田中 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 平成20年3月13日、呼吸器外科医、心臓血管外科医、麻酔科医それぞれ1名が京都府警により業務上過失致死の疑いで京都地検に書類送検された(1)。このことは我々に強い衝撃を与えた。これまで医療に刑事司法が介入する正当性は、医療者側の自浄作用の欠如が背景と理解されてきた。しかし今回の事例では、医療者側も遅滞なく自主的に、真相解明から被害者との和解に至るまで尽力したにもかかわらず、刑事介入は回避されなかった。
ちなみに私は京都大学の消化器外科医であり、本移植とは無関係である。公表されている事実から、本事件を考察する。
事件の経過を以下に記す。
平成18年3月21日に脳死肺移植のドナーが発生(2)。同21日から22日にかけ、京都大学医学部付属病院で、肺の機能が著しく低下する肺リンパ脈管筋腫症を患った30歳の女性に対し、脳死肺移植が行われた(1)。同病院では5例目の脳死肺移植である(2)。手術は順調に経過したが、術後のCT検査でびまん性の脳浮腫が発生していることが判明。その後、集中治療室にて治療をつづけたが、広範な脳障害(全脳虚血)による意識不明の状態が続き(2)、平成18年10月24日永眠された(3)。
同病院では手術後まもなく関係者による危機管理会議を開催したが、重篤な転帰をたどるに至った原因がはっきりしないため、外部の専門家を含めた事例調査委員会を立ち上げて調査を開始。あわせて肺移植手術の自粛を決定した(2)。
平成18年10月10日、事例調査報告書が病院長に提出された。その中の「全脳虚血」に至った原因についての見解を、京都大学ニュースリリースより引用する。「全脳虚血発生の原因は、一つには特定できないものの、大きく(1)部分体外循環といえる状態での肺換気の停止による非酸素化血の頭蓋内への流入と、(2)体外循環後半に発症した血圧低下、が複合的に関与した可能性が高く、さらに(3)早期の復温や呼吸性アルカリ血症が脳虚血を助長した可能性があると考えられた。また、術中の患者管理に関する指揮命令系統や、診療科間での意思疎通、肺移植チーム全体としての総合力に改善すべき点があった。現に上記(1)(2)(3)は、いずれも全身管理の責任者が不明確となった時間帯に発生しており、そのことが全脳虚血の早期発見の妨げになった可能性がある。」同病院は報告書の内容を患者ご家族に説明し、謝罪を行った。さらに報告書の「再発防止に向けた改善策の提言」を実践していくことを表明(4)。これについては、同病院心臓血管外科が平成18年12 月26日から手術を自粛する事態にまで波及した(5)。また、同病院はこの件について川端警察署、左京保健所、京都府、京都市、近畿厚生局ならびに文部科学省への報告等も行っており(4)、その後、時期は不明であるが患者御家族との示談も成立したようである(6)。 にもかかわらず、今回の書類送検である。我々としては納得しようにもどうにも納得できないものがある。
医療事故への対応・解決に際し当事者が目指すものは、真相の究明、被害者救済、再発防止である。これらのうち真相の究明および再発防止を目指す手段としては本来、多様なアプローチが検討されてしかるべきであるが、平成12年以降は刑事処分で対処する事案が目立ってきた。たしかにこれまでは医療者側による自律的制裁処置も行われず、医療者に対する行政処分もそのほとんどが刑事処分の後追いに過ぎなかったため、事故の悪質性にかかわらず刑事司法が介入せざるを得ないと考えられてきた(7)。であるとすれば、医療者側が必要十分な自律的制裁を行う場合は、一部の悪質な事例(隠蔽や故意やリピーターなど)を除き、刑事司法が介入する必要はないはずである。
今回、京都大学は早期から自主的に外部の専門家も交えて原因究明を行い、その結果を公表し、手術を自粛したうえで再発防止に尽力している。さらに患者御家族との和解も成立している。このような現状で、書類送検を行う理由はどこにも見当たらない。ところが実際には冒頭に述べたとおりの顛末となった。すなわち、医療者側による自主的かつ必要十分な処置の欠如を刑事司法の介入の根拠としていたこれまでの理屈は、誤りとせざるを得ない。今回の事件は図らずも、医療事故への刑事司法介入について、その正当性の主張をゆるがすものとなったといえよう。
1 asahi.com 2008年3月13日
2 京都大学―お知らせ/ニュースリリース 2006年5月2日
3 ヨミウリ・オンライン 2006年10月25日
4 京都大学―お知らせ/ニュースリリース 2006年10月12日
5 京都大学―お知らせ/ニュースリリース 2007年3月9日
6 毎日新聞 2008年3月14日 東京朝刊
7 日本医師会医療事故責任問題検討委員会:医療事故に対する刑事責任のあり方について
著者ご略歴 平成3年4月京都大学医学部入学、平成9年3月同卒業
平成10年田附興風会北野病院勤務
平成11年京都大学附属病院勤務
平成12年日赤和歌山医療センター勤務
平成18年京都大学大学院医学研究科消化管外科入学
専門は 腹部外科
コメント
コメント一覧
それなら送検されるのは当たり前では・・・
> 司法警察員が犯罪の捜査をしたときは、速やかに
> 書類及び証拠物とともに事件を検察官に送致しな
> ければならない 刑事訴訟法246条
捜査したら、その結果が事件性が無かったとしても
送検しなければならないんだから。
不起訴相当なんて意見を付けて送検する場合もよくあり
ます。送検されたことで医療事故があったと思わせるよ
うな論調で報道するマスコミが悪いのでは?
原因究明のための調査をすれば、当然何らかの反省点が浮かび上がります。それが刑事罰に相当するのかどうか、誰がどのように判断するのかが問題なのでしょう。
自分では手を下さないようなお偉いさんの判断がもっとも危ないと思います。
警察に届けなければ届けなかったなりの面倒に巻き込まれそうだし、本当にどうしたらよいのでしょう。
労基法無視で働く勤務医にとって、事情聴取などの捜査を受けるだけで大変な労力です。
いつの間にか、医師の立場って、極めて弱いものになったのですね。
生殺与奪の権限を官憲に完全に握られているのですから。
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