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日本では、医師免許さえあればどの科を標榜(名乗ること)しても良い。ただし、例外もあって、麻酔科だけは別だ。麻酔科だけは厚労省認定の標榜医資格がないと、麻酔科と標榜できない。
医療レベルの低い時代には、手術も麻酔も外科医がやった。だんだん医療が発達するにつれて、外科から脳外科・整形外科・心血管外科などの専門分野に分かれていった。麻酔科が分かれて専門分野の一つとなったのは比較的最近のことだ。当然、それまで麻酔を担当していた外科医は、麻酔なんて誰でも出来ると蔑むことになる。そのような外科医の心理と麻酔科医のプライドの双方に配慮して出来たのが、麻酔科標榜医制度ではないかと、私は思っている。
それまで全身麻酔を行っていた外科医には、症例数(今は300例)に応じて麻酔科標榜を許可し、麻酔科専従医には、2年間の研修で、標榜医の資格を与えることになった。ベテラン麻酔科医から見たら、麻酔科標榜医というのは、なんちゃって麻酔科医に過ぎないが、とにかく麻酔科医と名乗ることは出来、病院の看板にも麻酔科と書くことが出来る。麻酔科専門医・麻酔科指導医は厚労省ではなく、麻酔科学会の認定資格だ。
2医師を書類送検 のど手術で男性死亡
記事:毎日新聞社【2008年3月7日】
医療過誤:2医師を書類送検 のど手術で男性死亡--柏崎署 /新潟
柏崎署は6日、医療過誤で患者を死なせた業務上過失致死の疑いで、いずれも十日町市在住の耳鼻咽喉(いんこう)科の男性医師(39)と麻酔担当の男性医師(31)を地検長岡支部に書類送検した。
調べでは、医師2人は刈羽郡総合病院に勤務していた04年3月3日、のどを手術した柏崎市の男性会社員(当時28歳)を、誤って肺水腫による呼吸不全で死亡させた疑い。
患者はへんとう腺の摘出手術を受けたが、血が止まらず、止血手術を受けた。しかし、患者の胃の中に血液がたまっている恐れがあったにもかかわらず、医師が確認を怠り、吐いた血を肺に吸いこんだという。【根本太一】
扁桃腺摘出術なら最初からそう書けばよい、のど手術なんて書くなと言うつっこみはさておいて、扁桃腺摘出術では、一定の確率で術後出血は起こる。一定の確率で起こる合併症で刑事責任を問われたのでは堪らないだろう。また、この事例では、胃の中に血液が溜まっているからと言って手術を待つわけにはいかない。胃に内容物があるときには、それだけ危険なので、麻酔科専門医でも緊張する。麻酔導入によって胃の内容物が逆流し、気管に流れ込む(誤嚥する)可能性があるからだ。誤嚥すれば、重篤な肺炎を起こすこともあり、死亡という結果もあり得るだろう。結果が痛ましいからと言って、関わった医師に刑事罰を与えようとする風潮はどうにかならないだろうか。
記事の中で、術者は耳鼻科医であろうが、麻酔の方は麻酔科医ではなく、麻酔担当の男性医師と書いたところを見ると、麻酔を担当していたのは麻酔科医ではなかったのだろうか。刈羽郡総合病院のホームページを見ると、診療科の中に麻酔科はあるが、麻酔科学会の認定施設にはなっていない。麻酔科専門医の居る病院を見ても、刈羽郡総合病院はリストに載っていない。以上を考えると、この事例の麻酔を担当していたのは、少なくとも麻酔科専門医ではないと思われる。
元々新潟県は麻酔科医の少ない地域だ。つい最近も、長岡赤十字病院が麻酔科医の不足のために救急医療を維持できない事態になりそうだという記事があった。何とか新潟大学の応援でしのげることになったようだが。
麻酔科医が居なくても、手術の需要はある。そうなれば、麻酔科医以外が麻酔を担当する他はない。麻酔を専門としない他科の医師の麻酔は、当然麻酔科医の行う麻酔よりは安全性に問題はあるだろう。でも、麻酔科医が足りない以上、そのリスクは受容すべきだと思う。麻酔科医であれば死を回避できたと思われる事例でも、それを根拠に、麻酔担当医に刑事罰を科すようなことはすべきでない。
念のために言っておくと、この事例が、麻酔科医だったら死を回避できたと言っているわけではない。医療報道のいい加減さは身にしみているので、得てして真実は報道されない部分にあることは知っている。この記事から思いついた一般論を書いているのだと思って欲しい。