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2007.12.20 19:04 |  診療  |  仕事 / 職場  |  医療事故  |  bamboo  | 推薦数 : 3

ドラポン

 硬膜外腔というのは脊椎骨の後ろの方、硬膜とその外側の黄靱帯の間にある。そこは神経の通り道なので、そこに局所麻酔薬を入れると、神経に対応した部分を麻酔することが出来る。これを硬膜外麻酔という。麻薬を入れても鎮痛作用があり、手術後の鎮痛に、よく使われる。

  硬膜外麻酔をするためには硬膜外腔に針を刺さなければならないが、硬膜外腔に針が届いたことは、針に付けた注射器のピストンを押して、その抵抗の変化で判断する。この判断を誤り、硬膜を穿刺して脊髄腔内まで針を刺してしまうことを英語では"dural puncture"と言うが、麻酔科の業界内ではドラポンとかドラパンと称され、バカにされる対象である。でも、実を言うと、技術によって確率は異なるものの、絶対にドラポンをしないという方法はない

「がん医療ミスで死亡」 遺族、1億円の賠償求め2病院側を提訴

 記事:毎日新聞社【2007年12月19日】

 損賠訴訟:「がん医療ミスで死亡」 遺族、1億円の賠償求め2病院側を提訴 /茨城

 麻酔の刺し間違い、縫合不全、腹膜炎見落としなどのミスを重ね、早期の胃がん手術を受けた土浦市木田余の会社員、酒井宏行さん(当時47歳)を死亡させたとして、遺族が県内の病院を経営する2法人に約1億545万円の損害賠償を求める訴訟を水戸地裁土浦支部に起こした。

  14日付の訴状によると、酒井さんは02年12月26日、つくば市天久保1の筑波メディカルセンター病院で手術を受けた。その際、麻酔医が針を刺し間違えて両足をまひさせた

  さらに手術中に胃と十二指腸を不均衡に縫い合わせたため、内容物が腹腔(ふくくう)内に散らばって腹膜炎を発症した。酒井さんは転院を勧められ、牛久市柏田町のつくばセントラル病院に移ったが、同病院の医師も腹膜炎の発症を見落として食事の開始などを指示。翌年1月6日に死亡した。

  遺族は、2病院で計9人の医師が治療にかかわったと主張。県警は、うち3人を業務上過失致死容疑などで書類送検したが、不起訴処分になっている。

  酒井さんの妻(53)は「夫の無念を晴らすのは私しかいないというつもりで準備してきた。こんな理不尽な死に方があるだろうか。訴状を読むと今でも涙が出る」と話した。両病院側は「訴状が届いていないのでコメントできない」としている。【山本将克】

 術後の縫合不全も、技術によって確率は異なるものの、なくすことは出来ない。この症例が外科医の責任を問われて当然だったのかどうか、記事からは全く判断できないので、門外漢の私はコメントを差し控える。専門分野の硬膜外麻酔についてだけ言及する。

  おそらくこの麻酔科医は、かなり落ち込んだだろう。ドラポンを絶対に防ぐ方法はないとはいえ、脊髄まで穿刺することは滅多にない。この記事を読んだ麻酔科医の多くも、ミスだと判断することだろう。でも、私はそのように決めつけることはしない。注射器の抵抗が変化しないまま、脊髄まで穿刺することだってあり得ると考えるからだ。

  針が硬膜外腔にはいると注射器の抵抗が変化するのは、硬膜外腔は組織がスカスカだからだ。針が黄靱帯を貫いて硬膜外腔に達すると、急に抵抗が消失するのだ。もし、極めて希に、丈夫な黄靱帯の持ち主が居たらどうだろう。針は黄靱帯を押すものの、刺さらない。黄靱帯は押されて、硬膜や脊髄までも圧迫する。ついに針が黄靱帯を貫いたとき、硬膜も一緒に貫き、脊髄まで届いてしまう。この状態では、抵抗消失法で行う限り、防ぐことは出来ないだろう。

  もちろんこれは、私の想像にすぎない。麻酔科医の多くは賛同しないかも知れない。でも、あり得るメカニズムだと思っている。

  最期にもう一つ。この症例は亡くなってしまったので麻痺が回復していないだろうが、脊髄を刺しても、時間はかかるが通常は回復する。もちろん死亡と脊髄穿刺は何の関係もない。この記事だと、麻酔科医も死亡に責任があるかのような書き方だが、それは誤りだ。

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