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手術の際にどれだけ輸血の準備をするのかは頭の痛い問題だ。使わなければ捨てることになり、無駄になるし、足りなければ命に関わる。命が大事なのは間違いないので、無駄になっても念のためにたくさん用意すべきという意見もあろうが、血液は善意で支えられた有限の資源である。お金だけの問題じゃないのだ。あるところでたくさんの血液を抱え込めば、他のところが足りなくなる。
最近は消化管の手術で輸血することはあまりない。だから、輸血の準備も少なめになる。でも、予想外に大量の出血を見ることもある。そのようなとき、麻酔科医は大変なのだ。足りない分の血液を取り寄せ、交叉試験や、輸血後の合併症を防ぐための血液への放射線照射などに時間がかかる。実際に血液が手元に届くまで、麻酔科医は血液無しで患者の命をつながなくてはならない。
輸血準備不足で死亡と提訴 前橋地裁高崎支部
記事:共同通信社 【2007年11月2日】
群馬県高崎市の黒沢病院で手術を受けた際に輸血用血液の準備が不十分だったため措置が遅れ死亡したとして、市内の女性=当時(58)=の夫(62)が病院を運営する医療法人社団美心会(同市)に対し、慰謝料など計約5700万円の損害賠償を求める訴訟を前橋地裁高崎支部に起こしたことが1日、分かった。
訴状によると、女性は2005年7月20日、黒沢病院で直腸の腫瘍(しゅよう)摘出手術を受けた。手術は午後2時半から始まり、午後8時10分ごろ、大量出血による心不全で女性は死亡した。
原告側は、病院は手術中に計2400cc輸血したが、手術前には輸血用血液を400?800cc*しか用意していなかったと指摘。病院外から追加分を持ち込むのに時間がかかって輸血が遅れ、女性の心臓などに大きな負担が生じ死亡したと訴えている。
病院は「訴状がまだ届いていないが、もともと心臓が悪かった患者で危険性が高かった」としている。
*400ないし800ccと判断した
直腸の周りには静脈叢があり、直腸癌の手術の際には時に大出血する。だからといって、常に大量の血液を用意するわけには行かない。そんな贅沢が許されるほど、日本の血液が余っているわけではないからだ。実際に出血して血液が足りなくなってから血液センターに注文するのだ。
注文してから実際に輸血可能になるまで、結構な時間がかかる。その間は麻酔科医が必死に全身管理をしているのだが、もちろん患者の体にも負担がかかっている。記事によれば、患者は心臓が悪かったようなので、その間の変動に耐えられなかったのだろう。気の毒ではあるが、誰のせいでもない。社会全体を含めた医療環境の限界というものはあるのだ。この裁判で、一医療機関だけが責任を問われて敗訴することのないよう望みたい。