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挿管は いつも容易な わけじゃない
「前から予想していたんだけど」でも書いたけど、気管挿管は出来ないときは出来ない。しばらく挿管していた患者では、喉頭の浮腫(むくみ)のために前回より難しいこともある。たとえ命に関わることであろうと、出来ないものは出来ないのだ。もちろんもっと技術が高く、そのような状況に慣れた医師であれば対処できたかも知れないが、それは無い物ねだりである。現にその場にいる医師やすぐに呼べる医師で対処するしかないのだ。
治療手間取り患者重体 ICUで意識不明に 彦根市立病院
記事:毎日新聞社【2007年6月29日】
彦根市立病院:治療手間取り患者重体 ICUで意識不明に /滋賀 彦根市立病院(赤松信院長)は28日、集中治療室(ICU)で、心筋こうそくの県内の70歳代の女性患者への気管内挿管に手間取って低酸素状態になり、意識不明の重体になったと発表した。赤松院長は「治療中のことであり、患者、家族には申し訳ない」と話した。 病院側によると、患者は13日早朝、救急車で循環器科に緊急入院。呼吸不全状態のため、気管内挿管を行い、人工呼吸器を装着した。意識や呼吸が改善したため、30代の主治医が循環器科の日村好宏主任部長と相談し、25日午前11時過ぎ、人工呼吸器を外し、自発呼吸を確認し、気管挿入したチューブを抜いた。 主治医が30-40分間、経過観察したが、自然呼吸状態が良くなく、再び気管内挿管を行った。喉頭周囲が腫れて挿管困難だったため、医師3人で何度か挿管し、気道を確保したが、約17分間、経過。この間の低酸素状態で意識障害をきたした。 赤松院長は「咽頭周囲の腫れや、同じ医師が気管内挿管を行ったのに、なぜ2度目はうまくいかなかったのか、分からない。本来なら回復するのに、挿管操作に17分間も手間取り、こんなことになった。不可抗力かミスか細部の検証をするとともに、患者の回復に全力を尽くす」と話している。【松井圀夫】
呼吸器を止めて自発呼吸を観察して、問題ないと判断して抜管した。ここまでは特に問題ないだろう。出来れば再挿管も必要かも知れないと考え、準備をしておけば良かったかも知れない。
30-40分間観察して再挿管に踏み切ったということであれば、すぐに重篤な低酸素血症になるとも思えない。喉頭浮腫のために呼吸が障害されているのであれば、30-40分間も観察している状況ではないであろう。とすると、挿管操作に伴う無呼吸があった可能性を考えたくなる。再挿管時の呼吸管理はどうだったのだろう。問題があるとすればここだろうと推察する。
気管挿管を容易にするために、呼吸を止めるような処置(鎮静剤や筋弛緩薬の投与)をしたのだとすれば、マスク換気が出来なかったのだろう。特に何も処置をしないで自発呼吸を残したまま気管挿管を試みたのだとすると、挿管操作の刺激で喉頭痙攣(声帯が閉じる反射)を起こしたのだろうか。いずれにせよ、修羅場に慣れている医師であれば、いろいろと対処も可能だったかも知れない。でも、修羅場に慣れていなければ医師をやってはいけないという決まりもない。
気道確保さえ出来ていれば障害の起きない症例だったかも知れない。でも、3名の医師が頑張っても対処できなかったことに対して、あれこれ責めても仕方がない。少なくとも、その3名の医師にとっては困難な状況だったのだ。その3名が特別劣った医師であり、代わりのもっと優秀な医師が簡単に見つかるというなら別だが、もちろんそんなことはあるまい。
帝切の 遅れじゃないの 犯人は
毎度おなじみ帝王切開が遅れたから脳性麻痺になったという判決。いつものようにとても高額の賠償金。支払われる医療費を考えたら、とても産科医療は見合わない。そのうちにとても支払えないほど医賠責保険は高騰するだろう。そのときまで産科医療が持つのかどうか知らないが、保険料を支払えなくなれば完全にとどめを刺される。
新生児に後遺症、1億余賠償命令 病院側敗訴 東京・町田 記事:毎日新聞社【2007年6月27日】
損賠訴訟:新生児に後遺症、1億余賠償命令 病院側敗訴----東京・町田 町田市民病院(東京都町田市)で生まれた男児(4)に重い後遺症が出たのは分娩(ぶんべん)方法の選択ミスだとして、横浜市青葉区の両親と男児が町田市と担当医師を相手取り、介護費用など計約1億8000万円の損害賠償を求めた訴訟で、横浜地裁は26日、同市と医師に計約1億3800万円の支払いを命じた。三代川俊一郎裁判長は「適切な分娩方法を選択すべき注意義務に違反した過失がある」と指摘した。 判決によると、男児の母親は03年6月7日、破水して同病院に入院。担当医は吸引分娩を試みたが失敗し、帝王切開したが男児は低酸素脳症となり、脳性まひによる重度障害が残った。同病院は「判決文を見ていないのでコメントできない」としている。【鈴木一生】
前にも書いたが、お産が脳性麻痺の原因と考えられる割合は10から15%くらいだ。多くの例ではお産以外の原因で脳性麻痺になるのだ。だから帝王切開をしても脳性麻痺は減らないのだ。最近では妊娠中の妊婦の感染が取りざたされている。いずれにしても、帝王切開が遅れたから脳性麻痺になったという可能性は低いのだ。そもそも、帝王切開が必要になった原因そのものが、脳性麻痺の原因でもある可能性が高いのではないだろうか。
いい加減に科学的根拠のない判決はやめて欲しい。
不謹慎 だけど言いたい ぼったくり
自分ではまともに食事も摂れないほど弱ったお年寄りが亡くなって、医療者が全面的に死亡の責任を取らされ、その対価が2900万円とは。
おにぎりで窒息、賠償命令 福岡県立病院の80歳死亡で 記事:共同通信社【2007年6月27日】 おにぎりを気管に詰まらせて意識不明となり、後に死亡したのは食事の際に看護師が注意を怠ったためとして、旧福岡県立消化器医療センター朝倉病院に入院していた男性=当時(80)=の遺族が、県と担当の女性看護師に計約4000万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、福岡地裁は26日、両者に計約2900万円の支払いを命じた。 判決理由で永松健幹(ながまつ・たけもと)裁判長は「男性は食事が適切に取れず、病院側にはのみ下しにくいおにぎりを出せば詰まらせる危険性が認識できた」と指摘し、「看護師は約30分も病室を離れ、男性の食事を見守らなかった過失がある」と述べた。 判決によると、男性は発熱や食欲不振で2003年12月に入院。04年1月12日に夕食のおにぎりを詰まらせ、窒息で心肺停止状態となった。約30分後に発見されたが意識は戻らず、約10カ月後に死亡した。 県保健福祉部は「主張が受け入れられず残念。判決内容を検討し、関係部署とも協議の上、今後の対応を決定する」としている。同病院は05年に県から地元の医師会へ経営移譲されている
被告は県と担当の看護師だ。その看護師は亡くなった患者の専属というわけでもないだろう。看護師の仕事は忙しい。一人の患者にかかりきりになっているわけにはいかない。食事を詰まらせて死亡した結果から見れば、予想できたのではないかと言えるが、本当に食事を詰まらせる前に予想できただろうか。この看護師が気の毒でならない。
30分ですら患者のそばを離れてはいけない業務なのだとしたら、入院費はいくらだったのだろうか。病院から見て十分にペイする金額だったのだろうか。そんなことはあるまい。定食屋で高級フランス料理店並みのサービスを要求する、いつものパターンだろう。
亡くなった主な原因は看護師のせいではなく、あくまで患者の病態なのに、いつまでこんな判決が続くのだろう。