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2009.07.03 05:19 |  診療  |  開業 / 病院経営  |  医療事故  |  bamboo  | 推薦数 : 3

修羅場では経験がものを言う

 しばらく前の話になりますが、秋葉原で無差別殺人事件がありました。その時、警察官と犯人が対峙している様子が何度も放送されました。犯人はナイフを 持っているものの屁っ放り腰で、訓練を受けた警察官なら難なく制圧できそうでした。でも実際は、警察官も足がすくみ、手は震えていました。初めて遭遇する 重大な局面では、人間なんてこんなものです。

 たいていの歯科医は、仕事の中心は虫歯の治療です。通常は命に関わりのない業務です。突然患者の生命の危機に直面しても、蘇生のための訓練も受けていな いでしょうし、何より初めての重大な局面でしょうから、適切な対応など出来るわけがありません。出来たはずだというのは、机上の空論です。

青森の女児ら歯科医提訴 「処置怠り植物状態に」
2009年7月2日 提供:共同通信社

 虫歯治療中の麻酔注射で急性アレルギー症状を起こし植物状態になったのは適切な処置を怠ったのが原因として、青森市の女児=(8)=と母親が1日までに、同市の歯科医院と歯科医に約1億4300万円の損害賠償を求める訴訟を青森地裁に起こした。

 訴状によると、歯科医は昨年8月、女児に麻酔薬を注射。「アナフィラキシーショック」というアレルギー反応でけいれんを起こした女児に同医院は速やかに人工呼吸などを行わず、救急隊への連絡も事故後約30分経過していたことから重大な障害が残ったとしている。

 歯科医の代理人は「直ちに近くの内科医を呼んで心臓マッサージや人工呼吸を行い、適切な薬を投与した。過失はない」と主張している。


 本当にアナフィラキシーショックだったのかどうか分かりませんが、実際にそうだったのであれば、並の歯科医が頑張ろうと、すぐに救急隊を呼ぼうと、障害 を残さずに社会復帰をすることは無理だったであろうと思います。記事の症状だけから判断すると、局麻剤中毒だったのではないかと思いますけどね。

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 昨日のエントリでは、十分な体制を取っていなかったとして高額の賠償金を支払えと言う判決を紹介しました。でも、十分な体制ではないからと診療を行わないと、こんな風に文句を言われます。いったいどうしろと言うのでしょう。

山梨大指導で分娩再開断念 塩山市民病院
「常勤医1人では緊急時対応不十分」
既に予約、市民に不満

2009年06月25日(木)


 医師不足で産婦人科の分娩ぶんべんを中止していた甲州市の塩山市民病院(沢田芳昭院長)が、助産師による正常分娩を始めようとしたところ、同病院に医師 を派遣している山梨大から指導を受け、断念していたことが、24日分かった。市民の要望に応えようと早期再開を目指した同病院だが、同大は「常勤医が1人 しかおらず、緊急時の対応が不十分」と待ったをかけた。医療関係者は「多くの医師派遣を受ける山梨大の方針に従わざるを得なかったのではないか」と病院側 対応に同情するが、市民からは不満の声が上がっている。
 同病院によると、産婦人科は当初、山梨大からの派遣医が3人いたが、同大が「小児科医と麻酔科医が確保できない」として全員を引き揚げたため、2007年10月に分娩を中止した。昨年8月、新たに1人が派遣された。
 同病院は、分娩を求めた市民ら7万7千人の署名が提出されたことを重視、早期の分娩再開を模索。正常分娩に限り助産師5人が主体的に措置する仕組みをつくり、緊急時は山梨市内の診療所の産婦人科医と、系列の山梨厚生病院の麻酔科医に協力してもらうことが決まった。
 今年1月、同病院で検診を受ける妊婦のうち、6月以降の出産予定者を対象に分娩の受け付けを始めた。しかし同大から指導を受けたため、4月に取りやめることを決め、予約者に通知した。
 同病院は「診療所は医師1人でお産を扱う。助産師や看護師は多く、正常分娩なら安全と判断した。ただ山梨厚生病院を含め、同大から多くの医師の派遣を受けていて、再開に慎重にならざるを得ない」と説明する。
 同大は、同病院を指導したことについて「院内助産でも母体や胎児に異常があった場合、助産師から医師にバトンタッチする。分娩再開には少なくとも常勤医3人が必要」などと説明。常勤の小児科医、すぐに駆け付けられる麻酔科医がいないことも理由に挙げている。
 同大が地方病院から医師を引き揚げ、拠点病院に医師の集約を図る背景には医療事故が起きた際の訴訟リスクがあり、「お産に百パーセントの安全を求められる時代。万全な体制で分娩を再開したいが、医師不足で難しい」(同大)という。
 ある医療関係者は、県内の多くの病院が、県内で唯一、医師の派遣機能を持つ山梨大に頼っている現状を指摘。「大学の方針に従わざるを得ない傾向を解消するには、医師を増やすことはもちろん、国や県が積極的に大学側へ働き掛けてほしい」と注文する。
 分娩を予約した山梨市上之割の村松幸恵さん(36)は「地元で産めると思って喜んだのに残念」と肩を落とす。分娩再開の署名活動を進めた「子育てネット こうしゅう」の坂野さおり代表は「再開してもすぐに中止されては困る。一日でも早くお産ができる環境を整えてほしい」と訴えている。

山梨県内のニュース(山梨日日新聞から)
強調はbambooによる


 病院の説明では、山梨大学のごり押しに従わざるを得ないかのような印象を与えますが、本当にその様な説明をしたのなら、今いる医師も引き上げた方が良いのではないでしょうか。 

 正常分娩かどうかはお産が終わってから分かることです。昨日紹介した事例でも、正常分娩だと思ったから准看護師が見ていたのでしょう。胎児仮死などで急 に帝王切開術が必要になったとき、たった1人の産科医でどうするのでしょう。奴隷のように、一年365日24時間拘束しますか。また、小児科医や麻酔科医 もすぐには来られないでしょう。手術開始までに時間がかかれば、状況次第で、一億円以上の賠償金です。

 万全を求めて無に帰するか、現状を認めて我慢するか、地域ごとに決めるのはいかがでしょう。条例で、故意や初歩的なミスによる重大な結果以外は訴訟を制限し、死亡や重い後遺症に備えて患者が保険に入るような体制を取る地域が出来れば、多くの医師がやってくるでしょう。

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2009.06.25 11:46 |  診療  |  医療制度 / 行政  |  医療事故  |  bamboo  | 推薦数 : 5

言い飽きても言い続けます

 脳性麻痺については今までにも何度も書いています。たとえば「その1」や 「その2」「その3」です。

 全体から見れば、脳性麻痺となったからと言って、お産が原因であるとは限りません。お産が原因と考えられるのは、わずか15%くらいです。また、お産が 原因だとしても、防ぐことが出来たとは限りません。それでも何度も繰り返される高額の賠償判決。日本の産科医療を崩壊させようとしているとしか思えませ ん。潔く崩壊しましょう。

女児障害は准看護師の監視義務違反…名古屋の病院に賠償命令

名古屋市の病院で1999年に出産した女児に脳性マヒの障害が残ったのは、病院が適切な監視を怠ったためとして、同市の女児(9)と両親が、病院を運営す る同市名東区の医療法人を相手取り、約1億5900万円の支払いを求めた訴訟の判決が24日、名古屋地裁であった。

 永野圧彦裁判長は「病院側に分娩 ( ぶんべん ) 監視義務違反があった」と述べ、病院側に約1億200万円の支払いを命じた。

 同市千種区の「星ヶ丘マタニティ病院」で産まれた女児に障害が残った理由について判決は、さい帯が圧迫されたため、母胎の中で低酸素状態になったと指摘。その上で、出産直前に准看護師が適正な分娩監視義務を果たさなかったとして、脳性マヒと因果関係があることを認めた。

 同病院の石丸忠敬院長は「異常事態が発生してから、遅滞なく適切に処置、手術しており、臨床の現場を無視した机上の結果論的な判断だ。控訴して公正な判断を仰ぎたい」とコメントした。
- 読売新聞 [06/24(水) 13:07]

 まるで子宮の中まで入って見てきたような判決内容ですが、誰がそんな鑑定をしたのでしょうね。

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2009.06.24 17:21 |  診療  |  仕事 / 職場  |  医療事故  |  bamboo  | 推薦数 : 4

「神の手」敗訴

 テレビで積極的に発言することで有名な医師の経営する病院が、医療ミスを認定されて敗訴しました。今まで他の病院の事例では、関わった医師を殺人者のご とく言い放ったこともあり、また、専門家として病院側に不利な意見を述べたこともあります。なかにはざまあ見ろと言いたい医師もいることでしょう。

 でも、心臓の手術のような危険度の高い手術では、上手く行くこともあれば上手く行かないこともあります。結果が悪ければ高額の賠償となると、今の医療費ではやっていけないでしょう。低医療費政策を採る限り、よほどレベルの低いミス以外は免責されるべきだと思います。

 今、医師賠償責任保険は大幅な赤字です。集める保険金より、支払われる賠償金の方が圧倒的に多いのです。今後は保険料は大幅に上がるはずです。それに病 院や医師は耐えられるのでしょうか。既に多くの病院は赤字です。更に経費が増大すれば、廃院するほかありません。私自身は、もう後戻りできないところまで 来たと思っています。医療崩壊はこのまま、あるいは加速度的に進行するでしょう。

<損賠訴訟>心臓手術後死亡、大和成和病院に7500万円の賠償命令--地裁 /神奈川
毎日新聞2009年6月20日(土)13:00


 大和市の大和成和病院(南淵明宏院長)で04年4月、心臓手術後に死亡した相模原市の男性(当時57歳)の遺族が「執刀医のミスが原因」として病院側に 約1億3300万円の賠償を求めた訴訟で、横浜地裁は約7500万円の支払いを命じた。小林正裁判長(鶴岡稔彦裁判長代読)は18日の判決で「手術中の心 筋保護が不十分だった」と指摘した。

 判決によると、男性は手術中に心筋梗塞(こうそく)の発作を起こし、4日後に多臓器不全で死亡した。人工心肺装置を使い心臓を一時止める手術なので心筋 保護液を20分間隔で注入すべきだったが、発作時は42分間隔が空いた。病院側は「デリケートな操作中でやむを得なかった」と主張したが、判決は「他の時 点では20分間隔で注入しており、やむを得なかったとは言えない」と退けた。【杉埜水脈】


 いつものことですが、記事からはミスがあったのかどうか分かりません。心筋保護液の間隔そのものは、多分本質ではないと思います。よく分からないのは、心臓を止めた人工心肺中に、どうして心筋梗塞の発作だと分かったのでしょうか。どなたか分かりますか。

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 今日斬るのは医療報道ではなく、世相を斬った報道の紹介です。実は、いつもおじゃましていますS.Y.’s Blog のエントリから拝借した情報です。

感染症は「正しく怖がって」―新型インフルと「心のケア」
6月14日17時18分配信 医療介護CBニュース

 「皆さんの協力で、貴重な情報を得られた。ありがとう」―。新型インフルエンザ感染者の集団発生で学校閉鎖に なってから2週間後の6月1日、学校を再開した関西大倉学園の全校集会で、国立感染症研究所感染症情報センターの安井良則主任研究官が講演し、生徒らに呼 び掛けた。講演の目的は、生徒たちの「心のケア」。集団感染が発覚して以来、同校への誹謗中傷が相次いでいたからだ。神戸と大阪で積極的疫学調査にかかわ り、複数の学校を訪問した安井研究官は、「感染した人が悪いのではない。感染症を不必要に怖がる必要はないし、『正しく』怖がるべき。病気に対して粛々と 対応していけばいい」と話す。

 関西大倉学園は大阪府北摂地域の中高一貫校。5月17日までに64人の新型インフルエンザ感染が確認された。学校は閉鎖され、「関西大倉学園」の名前は連日報道された。

 「今でこそ、季節性インフルエンザとあまり変わらないといわれているが、当時はどんなウイルスなのか、どんな影響があるのか分からない状況だった」と、 同校の大船重幸教頭は振り返る。「防護服を着た人たちに突然、連れ出されることになった生徒や、家族全員が1週間、自宅で缶詰めになった生徒もいた。これ を思うと言葉にならない」。同校が「ウイルスをばらまいている」といった誹謗中傷も後を絶たず、学校関係者のタクシーの利用や、制服のクリーニングを断ら れることもあったという。
 学校の再開前には、校内の消毒もした。「専門家から、(ウイルスは既に死滅しているので)消毒の必要はないと聞いており、意味がないということも分かっていた。しかし、こういう風潮の中では、やらざるを得なかった」。

 安井研究官が同校を最初に訪れたのは5月17日。積極的疫学調査を行うためだった。安井研究官は学校側の協力を得て、感染者の情報収集や家庭訪問を実 施。症状の特徴や感染ルートなどの情報が得られたが、「生徒が近所で『関西大倉学園の生徒だ』と言われるような状況だった」という。感染者が出たほかの学 校も訪問したが、校長はじめ学校関係者や生徒の家族の多くが「誹謗中傷」されている状況。ある学校の校長は、心労で声が出なくなってしまっていたという。 「絶対にあってはいけないことだ」(安井研究官)。

■「誰が悪い」というのはナンセンス
 関西大倉学園の生徒への講演は、安井研究官自身が同校に対して頼んだことだった。「校内で新型インフルエンザが流行したことで、生徒はみんな不安に思っ ていた。誹謗中傷もあった。心に傷を抱え、2週間頑張って自宅待機していた子どもたちに、何とかメッセージを伝えたいと思った」という。
 学校側も専門家による説明を歓迎した。大船教頭は「生徒は不安を抱えていたと思う。安心感を与えることが一番の目的だった」と話す。

 こうして迎えた1日の全校集会には、安井研究官のほか、同研究所の岡部信彦・感染症情報センター長も駆け付けた。安井研究官は新型インフルエンザについ ての科学的な説明をした上で、「この学校だから流行したわけではない。なぜか(新型インフルエンザが)高校生の間で流行していて、それがたまたま入り込ん だだけ。入り込んでしまったら、感染が広がるのは全然不思議ではない」「感染症では、『誰が悪い』などと考えるのはナンセンス。誰も悪くない。胸を張っ て、これから人生を歩んでほしい」と呼び掛けた。
 岡部センター長は「皆さんがインタビューに答えてくれたおかげで、症状の分析ができた。これまでわたしたちが得ていたのは、米国やメキシコの状況に関す る情報だったが、自分たちの状況が自分たちの手で分かってよかった。この情報はきちんとした形でWHOなどに報告する」と謝意を表明。安井研究官も、「こ の情報は世界中の多くの人たちの役に立つ。2週間本当によく頑張ってくれた」と語った。

 「関西大倉学園に何か問題があったわけでも、自分たちが悪かったわけでもない。そういう話を丁寧にしてもらえてよかった。効果は抜群だったと思う」と大船教頭。講演後、体育館には生徒らの拍手の音が鳴り響いた。

     ■   ■   ■

 安井研究官は「インフルエンザが日本に入ってきたことに対し、粛々と対応する。それでいいと思うし、それ以上ではないと思う」と話す。「感染症を不必要 に、過剰に怖がる必要はない。『正しく』怖がってほしい」。風評被害が広がると、疫学調査で患者から協力を得ることが難しくなる可能性もあるという。
 「忌み嫌うというのは、ある意味、怖いからやっているのだと思う。だが、それはやめてほしい。感染症に立ち向かっていかなければならない」。

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つづき

【参議院予算委員会における参考人隠し】

 今回の新型インフルエンザ騒動における厚労省の対応には多くの改善点があり
ます。しかしながら、もっと議論すべきが厚労省の隠蔽体質です。それが明らか
になったのは、5月25日の参議院予算委員会です。詳細は、中田はる佳氏の論文
をお読みください(http://medg.jp/mt/2009/05/-vol-125.html)。

 当初、この委員会では、民主党の鈴木寛議員が新型インフルエンザについて質
問する予定でした。鈴木議員は、参考人として、現役検疫官の木村盛世氏と国立
感染症研究所感染症情報センター主任研究官の森兼啓太氏を招致していました。
しかしながら、当日開始時間になっても予算委員会は始まらず、開始予定時刻を
1時間もオーバーしました。これは、舛添大臣は両氏の出席を認めていたのに、
与党が木村氏・森兼氏の出席を拒んだためです。与謝野財務大臣、鳩山総務大臣、
舛添厚労大臣、塩谷文科大臣も1時間、待ちぼうけだったようです。

 私が聞くところでは、厚労省は「木村、森兼氏は政府を代表する立場ではない」
として、別の委員に差し替えるように鈴木寛事務所に依頼するとともに、与党の
予算委員会理事たちに参考人招致に反対するように陳情しました。木村・森兼氏
は、政府代表ではなく、専門家としての意見を聞くために呼ばれた訳ですから、
これは屁理屈です。そもそも国会の参考人を、官僚にとって都合が悪いから妨害
するなど、常識的には考えられないことです。多くの国民は、まさか厚労省がこ
のような姑息な手段を用いて、自らに不都合な情報を隠蔽しているとは知らない
でしょう。

 結局、25日は参考人招致が認められず、28日の午前中に審議されることとなり
ました。このことはメディアでも報道され、政府に不利な発言をすると考えられ
る参考人を隠ぺいしたのではないかと批判されています。ところが、この件の責
任者である上田博三健康局長など、関係者が処分されたという話は聞きません。
「厚労省」を「自衛隊」と置き換えれば、事態の深刻さをご理解頂けるのではな
いでしょうか。厚労省は「シビリアン・コントロール」から外れています。
朝日新聞 「与党、水際対策批判した検疫官の出席拒否 野党は反発」:http://www.asahi.com/politics/update/0525/TKY200905250417.html
ロハスメディカル 「新型インフル 参院予算委で"参考人隠し」:http://lohasmedical.jp/news/2009/05/25145547.php 


【参議院予算委員会仕切り直し】

 5月28日に仕切り直された参議院・予算委員会では、以下の4人の医師が参考人
として呼ばれ、新型インフルエンザの集中審議が行われました。与党推薦参考人
として、尾身茂・自治医科大学教授(元厚労官僚、元WHO西太平洋事務局長)、
岡部信彦・国立感染症研究所感染症情報センター長の2人と、野党推薦参考人と
して、前述の木村、森兼氏の2人です。国立感染症研究所(以下、感染研)と言
えば厚労省の下部組織ですから、岡部氏と森兼氏は、木村氏と同様、厚生労働技
官です。ある意味で、新型インフルエンザ対策の指揮官である上田博三・厚労省
健康局長の支配を受ける難しい立場にありながら、医師として専門家として、正
しいと考えることを、それぞれに堂々と発言したことに敬意を表します。

 鈴木寛議員の「なぜ厚労省は、検疫に異論を唱える職員等の意見に耳をかさな
いのか。その背景をどう感じていたか」との質問に、木村氏は「検疫ではN95マ
スクなどで防御した検疫官の姿が報道され、政府のパフォーマンスに利用された
のではないか」「そもそも行動計画の作成には医系技官がかかわっているが、果
たして十分な情報収集を行い、議論を尽くしたものなのか」といった回答をしま
した。森兼氏も、「検疫は全く無駄とは言えないが、要は人、手間、コストのバ
ランスだと思う。検疫に目が向きすぎていた面があり、少なくても国内感染者が
出た時点で、検疫をやめて国内対策を重視すべきだった」と述べましたし、岡部
氏も「行動計画においては適時適切に修正を行うこととなっているので、これを
是非利用していただければと思う」と締めくくりました。

 このような勇気ある発言ができる専門家たちが、この国を守るために不可欠な
存在となります。一方、政府官邸の専門家諮問委員会の長でもある尾身氏は、検
疫は万能薬ではないとしつつも一定の効果があったと述べ、そのひとつは「国内
の発症例が報告される迄に時間を稼げて診断薬を調整し、各地方自治体に配布す
ることができた」と指摘しました。この理屈は、科学者としてはかなり無理があ
ると思います。国内で渡航歴のない患者はPCRで診断させてもらえなかったので
すから、その間、発見が遅れ、単に国内感染者を増やすまで待っていただけだ、
と考える方が自然です。また、水際作戦で時間稼ぎするくらいで出来ることなら、
予めやっておくべきでしょう。それでも最後には、「縦軸に感染力、横軸に病原
力を置いた二次元的な対策を作る、検疫においてもアジャストするということは
これからの課題で、厚生省がすぐにやるべきこと」と締めくくりました。これは、
まさに正鵠を射た発言です。

 4人の専門家が異口同音に検疫見直しの必要性を指摘しましたが、上田博三・
健康局長の回答は、「現時点では、検疫法の改正が必要か否かを検討するのは時
期尚早」というものでした。今秋には新型インフルエンザの再来が予想されるの
ですから、「検討を開始」するくらいはすべきですし、参加した全ての専門家の
意見を無視して、上田健康局長が決める資格があるようには思えません。


【医系技官の存在】

 このように新型インフルエンザ対策に関わった厚労官僚たちは、大臣、国会議
員、専門家の意見を聞き流し、暴走しています。なぜ厚労省は、このような対応
をとってしまうのでしょうか?この問題は、新型インフルエンザ対策を取り仕切っ
た医系技官の存在を抜きに語ることはできません。

 医系技官とは医師免許を持つキャリア官僚で、霞ヶ関に約250人存在する一大
勢力です。医政局長、健康局長という二つの局長ポジションをもち、医療行政を
一手に担います。また、研究費の配分や人事を通じて、国立感染症研究所などの
国立病院・研究所を実質的に支配しています。これは、米国ではFDAやCDCの長官
が政治任用であることとは対照的です。

 医系技官のキャリアパスは独特です。医学部卒業後に1-2年の臨床研修を経て
厚労省に入省し、その後、様々な部署や省庁をローテートし、閉鎖的な「ムラ社
会」で出世を競います。彼らは、権限や予算獲得を追い求め、行政官としての実
績を積んでいきます。この状況は、WHOやCDCが、十分な現場経験を持つ医師を中
心に運営されていることとは対照的です。例えば、テレビにしばしば登場する
WHOのKeiji Fukuda氏は大学卒業後、一貫して感染症対策に従事しています。彼
らは、グローバルな「感染症対策ムラ」で昇進を競い、そのために公衆衛生の専
門知識と、この分野での業績が求められます。今回の新型インフルエンザ騒動で、
厚労省がWHOと十分に連携できなかったのは、両者のレベル・行動原理が違うか
らだと言うことも可能です。

 霞ヶ関に医系技官が必要な理由は、医療は専門性が高く、医師でなければ分か
らないからだと説明されてきました。また、事務官にとっても医系技官は便利な
存在だったでしょう。医系技官が政策立案に関与することで、国民や政治家に対
して医学的な正当性をアピールすることが出来たからです。しかしながら、多く
の国民が「医系技官は医者ではない」と認識するようになり、その存在理由が問
われています。例えば舛添大臣は、医系技官改革の必要性をこれまでに幾度も訴
えています。

 現在、医系技官はこのようなジレンマに悩み、一部の人たちは、専門家並みの
医学知識があることをアピールしようとして墓穴を掘っています。今回の医系技
官の暴走も、このように考えると理解しやすいと思います。更に、5月22日に政
府の「基本的対処方針」が出され、検疫が縮小するまで、実に1ヶ月を要しまし
たが、これは医系技官が面子に拘ったからだと言われています。この1ヶ月は関
西における感染蔓延を考えれば致命的だったと言わざるを得ません。わずか5日
間で学校閉鎖勧告を撤回したCDCの柔軟さとは対照的です。しかも、この方向転
換は難渋を極めました。舛添大臣は5月19日、医系技官が選んだ専門家諮問委員
とは別に、独自に四名の専門家アドバイザーを任命し、彼らの意見を聞くという
「パフォーマンス」を演じなければならなかったのです。その中に、上記の森兼
氏も含まれます。勿論、全ての専門家が機内検疫の即時中止、国内体制の整備を
訴えました。この模様は、マスメディアで大きく報道され、医系技官も方針転換
せざるを得なくなりました。しかしながら、舛添大臣の「パフォーマンス」は官
邸の反発を買い、東京新聞はこれを5月22日の朝刊で大きく報道しました(イン
フル対策指揮の舛添厚労省 官邸「独断専行」批判も)。誰が官邸に情報を入れ
たかは、説明の必要もないでしょう。

 このように、我が国の医療行政は、医師が尊重すべき科学的正しさや良心では
なく、担当者の面子や思惑にあまりにも翻弄されすぎています。既に南半球では
新型インフルエンザの大流行が起こりつつあり、今秋、日本への再上陸は避けら
れそうにありません。このままでは、また同じような迷走劇を繰り返し、大きな
被害が出る可能性は高いでしょう。そうした今、我々は何をしなければならない
でしょうか? 次回、この問題を議論したいと思います。


メールマガジン自体にも続きがあるようです。

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 手抜きをするわけではありませんが、またもやMRICメールマガジンからの全文引用です。新型インフルエンザに対する水際作戦の誤りについては私も言及しましたが、同じ思いを抱いている医師は少なくないと思います。それなのに、なぜ厚労省は方向転換できなかったのか。よく判る解説です。2回に分けて転載させて頂きます。

▽新型インフルエンザ騒動の舞台裏▽ 


        東京大学医科学研究所
        先端医療社会コミュニケーションシステム社会連携研究部門
        上昌広

※今回の記事は村上龍氏が主宰する Japan Mail MediaJMMで配信した文面を加筆
修正しました。

         2009年6月8日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行
                 http://medg.jp

 我が国をパニックに陥れた新型インフルエンザ騒動も、ここに来て落ち着きを
見せ始めています。5月28日には神戸市の矢田立郎市長が「安心宣言」を出し、
30日には騒動の発端となった兵庫県立神戸高校、兵庫高校で授業が再開されまし
た。また、主要五大新聞に掲載された記事数(地方版も含む)は、5月17日の週
の7872件から、24日の週には3533件と半減しています。

 一方、5月28日には参議院予算委員会で新型インフルエンザの集中審議が行わ
れ、政府の対応が批判されました。これまで議論されていない多くの問題がある
ようです。今後、様々なところで新型インフルエンザ騒動が総括されていく必要
があるでしょう。


【通知を濫発した厚労省】

 4月28日、WHOは、新型インフルエンザの継続的な人から人への感染がみられる
状態になったとして、パンデミック警報レベルをフェーズ4に引き上げました。
それ以降、厚労省は、かねてより作成していた「行動計画」と「ガイドライン」
に従い、成田空港等で大規模な検疫を開始するとともに、都道府県や医療現場に、
多くの通知や事務連絡を驚異的なスピードで出し続けました。その一部は厚労省
のHPで公開されています
(http://www.mhlw.go.jp/kinkyu/kenkou/influenza/hourei.html)。その中に
は、症例定義(PCR実施基準)、外来の取り扱い、入退院基準、確定診断など、
事細かな内容が含まれており、厚労省が医療現場の箸の上げ下ろしまで指示して
いるが分かります。

 このような行政指導を通じ、厚労省は司令塔としての役目を果たそうとした訳
ですが、その指示は現場の実態と乖離していたため、医療現場は大混乱に陥りま
した。知人の開業医は、「新型インフルエンザ自体より、厚労省の対応に振り回
され、医療スタッフは疲弊してしまった」と語っています。

 特に、PCRに関する通知は医療現場に甚大な影響を与えました。この通知によ
り、PCRを受ける患者は、メキシコ・北米への渡航歴があり、簡易診断キットでA
型陽性となった人に限定されたため、多くの患者が適切に診断されず、国内での
蔓延を発見するのが遅れてしまったのです。現に、5月8日に国内で最初に診断さ
れたのは、厚労省のルールに従わず、渡航歴がないのにPCRを受けた患者ですし、
国立感染症研究所は、4月下旬には国内に新型インフルエンザが進入していた可
能性が高いと報告しています。医療現場でPCRを行う第一義は、厚労省が公衆衛
生データを取るためではなく、患者の治療なのです。この点に関し、厚労省と医
療現場には大きな乖離があったように思います。

 また、「行動計画」に従って、全国の病院に約800カ所の「発熱外来」が急遽
作られました。そして、厚労省は「新型インフルエンザの患者は発熱外来へ、そ
れ以外の患者は一般医療機関へ」と指示しました。しかしながら、これは机上の
空論です。なぜなら、全ての患者は新型インフルエンザか否か分からない状態で
病院を訪れるからです。つまり、全国すべての医療機関が、新型インフルエンザ
かもしれない患者が来ることを想定した準備をしなければならないのです。とこ
ろが厚労省は、発熱外来以外の一般医療機関には、その準備のための物資・予算
を渡しませんでした。これでは、「発熱外来」など名前だけで実態の伴わないも
のになってしまいます。この姿勢は、食糧も物資も補給しないが戦闘命令だけは
出す、旧日本陸軍の参謀本部を彷彿とさせます。参謀本部は、ロジスティックを
軽視して、多数の兵士を無駄死にさせました。余談ですが、「発熱外来」は諸外
国にはありません。

 本来、医療とは、患者と医師が十分に相談し、状況に応じて柔軟に対応すべき
ものです。第三者である厚労省が、行政指導を通じて介入すべきではありません。
そんなことをすれば、治療が手遅れになったり、過剰になったりして、患者・医
師は大きな負担を強いられます。まさに、前述の開業医のコメントの通りです。
ちなみに、日本感染症学会は5/21に「一般医療機関における対応は(厚労省ガイ
ドラインとは)当然異なって然るべき」と緊急提言しています。厚労省の行政指
導を見るに見かねたのでしょう。


【予算が足りない!】

 では本来、厚労省に求められている役割とは何でしょうか? それは、医師の
判断を封じ込めるルールを作ることではなく、医療機関が新型インフルエンザに
対応できるだけの予算・物資・人員を供給することだと考えます。現場の医師が
「この患者にはPCRが必要だ」と判断したとき、それを実現できるだけの体制を
用意するべきでした。長年の医療費削減政策によって、日本の病院の73%(う
ち自治体病院の91%)は赤字ですから、必要な物資を購入したり、雇用する余
力はありません。

 ところが厚労省には、この問題に取り組んだ形跡が全くありません。新型イン
フルエンザ対策(発熱外来設置など)に使える医療機関の整備予算は、平成20年
度の補正予算と平成21年度予算を合わせて、38億円です。これでは感染予防のた
めの、個室を整備できません。また、発熱相談など、国民への情報開示に至って
は、わずか5000万円です。これでは十分な新型インフルエンザ対策ができるはず
がありません。

 5月28日の参議院・予算委員会で、民主党の鈴木寛議員は、新型インフルエン
ザ対策充実のため、医療体制の整備やPCR検査体制拡充について質問しました。
鈴木議員は、「国内感染の発見の遅れは、PCR法による検査が渡航歴のある人に
限られていたことが一因。PCR法での検査は、1日当たり全国で約1000人分しかで
きる体制にない。今後、予想される第二波などに備えて、検査体制を充実させる
べきではないか」と主張しましたが、厚労省の上田博三・健康局長からは具体的
な回答は得られませんでした。新型インフルエンザの診断体制の予算は、全て併
せて7.5億円で、絶対的に不足しています。

 鈴木議員は、新型インフルエンザ対策として約800億円の新規の予算確保を求
めましたが、麻生太郎総理大臣は、「2009年度補正予算を組み替えたり、新たな
補正予算を組む予定はない」と答弁しました。新型インフルエンザ対策は、補正
予算の最大の目玉になるべきテーマですが、麻生総理の答弁には呆れるばかりで
す。

 ちなみに、米国のオバマ大統領は4月29日に新型インフルエンザ対策として、
議会に15億ドルの予算を求めました。あまりにも対照的です。
 


つづく

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2009.06.01 15:44 |  生活 / くらし  |  その他(一般)  |  bamboo  | 推薦数 : 1

代償は大きいかも

 荒唐無稽な与太話を信じる人は後を絶たないが、それが市の行政を預かる市長ともなれば笑っては居られない。もちろんそんなことにならないように選挙というものがあるのだが、選挙民の選択も、非合理な話を振りまくメディアに毒されたのか、まともに機能しないようだ。

 「ブログ市長」として有名な阿久根市の市長が再選された。そのブログの内容は荒唐無稽な話題にあふれている。実例はここ。阿久根市民のみなさん、本当にこの人が市長でいいの。

阿久根市長選:「ブログ市長」竹原氏が再選

2009年5月31日 21時42分 更新:6月1日 0時39分 毎日jp

 2度にわたる市長不信任案可決に伴う鹿児島県阿久根市の出直し市長選が31日投開票され、ブログなどで議会や市職員を批判し「ブログ市長」と呼ばれた前市長の竹原信一氏(50)が、反竹原派の市議らが擁立した新人で元国土交通省職員の田中勇一氏(56)を破り、再選を果たした。1日の選管告示で市長に復帰する。2期目も議会攻撃などを続けるとみられ、市の混乱は今後も続きそうだ。

 竹原氏は選挙中も「仕事内容に見合わず、市民に比べて給与が高過ぎる」と市職員を批判し、争点化を図った。人件費を削減し給食費を無料化するなどと訴えた。過激な言動には批判もあったが、改革が遅れがちな議会や市職員への不満を幅広く取り込む形になった。

 これに対し、田中氏は「ビジョンなき改革は、破壊に過ぎない」と竹原氏の市政運営を批判。混乱が続く市政の正常化を訴えたが、出馬表明が今年4月と出遅れたこともあり、浸透できなかった。

 選挙中「市民が議会と市役所を監視できる環境を整備する」などと訴えた竹原氏に、反竹原市議らは反発を一層強めていた。議会は反竹原派の市議が過半数を占めており、今後も市長と議会の衝突が予想される。

 投票率は82.59%で、前回を7.09ポイント上回った。当日有権者数は1万9876人だった。【福岡静哉】

 確定得票数次の通り。

当8449 竹原 信一=無前<2>

 7887 田中 勇一=無新

 ◇「大変なことになった」肩落とす市職員
 再選を決めた竹原前市長は午後9時半すぎ、事務所で支持者と万歳三唱。記者団に2期目の抱負を聞かれると、笑顔は消え「市長という職が続くだけ。特別な感慨はない。責任者はあくまで市民の皆さん」と、淡々と語った。市職員に対しては「自治労は阿久根から出ていってもらう」と容赦なく攻撃した。

 50代の男性市職員は「大変なことになった。やりたい放題の独裁になってしまう。市政に具体的な弊害が出てからしか、有権者は選択の誤りに気づかないだろう」。



 「市政に具体的な弊害が出てからしか、有権者は選択の誤りに気づかないだろう」と言うのはその通りだと思う。多少変人だと言うだけなら何とかなるかも知れないが、ブログでとんでもない妄想を垂れ流すのは常軌を逸している。責任ある仕事を任せられるとは思えない。何でメディアは批判しないのだろう。「ブログ市長」と呼ばれたと書きながら、メディアは誰もブログを読んでいないとか。

 この市長のブログについては、おなじみのNATROMの日記でも取り上げている。

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2009.05.31 21:51 |  医療制度 / 行政  |  生活 / くらし  |  その他(医療関連)  |  bamboo  | 推薦数 : 2

全医連集会

 私は全国医師連盟のメンバーなのですが、第二回の集会が下記のごとく行われます。これからの医療の行く末を考える上で貴重な集会になるものと思われます。メンバーもそうでない方も、医療職もそうでない方も、ご参集いただければ幸甚です。

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全国医師連盟は、2009年6月7日日曜日に、13時から秋葉原コンベンションホールにおいて第二回集会を行う予定にしています。

とき: 2009年6月7日(日) 13:00~17:30
ところ: 秋葉原コンベンションホール  
東京都千代田区外神田1-18-13(JR秋葉原駅 電気街口を出てすぐ)
参加費: 3000円  18時より懇親会(6000円)を行います。

午後 全医連集会
   1、昨年度の活動報告
   2、上昌広 東大医科研准教授による医療報告
   3、全国医師ユニオン設立報告
   4、勝谷誠彦氏 記念講演
     「日本の医療を斬る ~全医連に期待するもの~」
   5、勝谷氏と集会参加者のトークセッション

申し込みフォームは以下です。
http://www.doctor2007.com/soukai2.html

医師も、医療従事者ではない一般の方も、あわせて参加する集会になります。

 全国医師連盟は2008年6月に設立された医師の団体です。ただ、医療問題は、医師のみで解決できるほど単純ではありません。医師だけで世の中を変えることなどとうていかなわないわけですから、医師以外の立場の人と連携していくことが必要で、その場合全国医師連盟がどのように関わることがベストであるのか、と考えるよい機会になればと思っています。

 今回、勝谷誠彦氏を迎え、政治や行政、一般の国民、皆が共同して問題を解決する場面で、全医連はどう関わることが望ましいのか、会場の皆さんとも意見交換し、考えたいと思います。また、医師の職域ユニオンである全国医師ユニオンについての報告も行われます。

 医師以外の方も皆様お誘い合わせの上、ぜひ奮ってご参加ください。

 集会のあとは、懇親会の用意もしています。会員の人同士が会える機会でもありますが、会員ではない人と議論したりあって話をすることのできる大切な機会でもあります。

 なにとぞ宜しくお願いします。

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2009.05.25 11:37 |  医療制度 / 行政  |  仕事 / 職場  |  医療事故  |  bamboo  | 推薦数 : 3

添付文書の罪後編

つづき
4 治験問題との違い

 ところで、薬剤処方に関する事前チェックという点では「治験審査委員会」が既に存在しており、これに倣えば良いのではないかという意見も聞こえてきそうである。確かに、治験審査委員会を設置している医療機関においては、その「治験審査委員会」に医師以外の非専門家が入り、弁護士が名を連ねている医療機関も多いようである。

 しかしながら、「治験」と「医療」を同視することはできない。「治験」はあくまでも新薬承認に向けた検証手続の一つである。確かに治療という側面はあるが、応召義務などが規定された医師法が本来予定している医療行為とは異なる。「治験審査委員会」は、治験が具体化してきた際に、施設に対して倫理的・科学的見地から意見する独立の監視機関と言えるが、医師法20条との抵触問題にはなり難いと考えられる。本来的に未だ承認されていない薬の投薬と、承認済み薬剤の適応外使用とでは場面が異なる。後者はまさに診療の場での話であるから、担当医の診察・診断上の裁量的判断を基本的に尊重すべきであり、そのことが患者の治療・健康回復に最も望ましい在り方でもある。これを、治験審査委員会のように倫理面の審査を特に強調して、非専門家による大きな審査対象として位置付けると、真に必要な医療の適時提供ができず、結果として目の前の患者が最大の被害者となってしまいかねない。これに対し、治験の場合には、やはり未承認薬提供の危険性が相対的に重視されるのは理解できるところである。ただし、最近話題となった「エバーハート」のように、一度始まった治験を中止することの危険性が大きい場合、治験だからといって過度のチェックを加えることは適応外処方と同様の弊害をもたらすと言えよう。問題はそう簡単ではない。


5 まとめ

 薬害肝炎の問題は重要だが、正常な医療の生理的作用をレアな病理的発想によって破壊することになる可能性にも十分配慮して欲しいのである。薬害と適応外処方を同じ土俵で論じれば、適応外処方悪玉論に限りなく傾斜することは明らかである。このような形式論理は危険である。「適応外処方悪玉論」は、「添付文書絶対視論」から出発し、ここから漏れるものは全て薬害の元凶であると位置付け、医療から排除しようという方向に行きがちである。しかしながら、そもそも添付文書は、少なくとも現在の姿を見る限り、臨床的判断が度外視された製薬会社による免責文書というべきものであり、診療ガイドラインでも何でもない。

 他方、現実に生起している医事紛争では、「救急の場では、仮に適応外であっても、仮に保険診療とならなくても、患者救命のために適応外処方をすべきである。もしそれをせずに患者が死亡したら、適応外処方をしなかった医師の過誤である。」などという主張が平気で出てきたりしている。

 これでは、現場の医師は、前進してもアウト、後退してもアウトという状況に追い込まれてしまう。「目の前の患者にとって真に必要な薬物治療は何か」という真摯な検討を医療現場から放逐しようとするものであり、まさしく医療の委縮、崩壊につながるものと言えよう。薬害肝炎問題が、最終的に医療現場の委縮、医療破壊につながる議論になってしまうのは、明らかにボタンのかけ違いである。「薬害肝炎事件の検証及び再発防止のための医薬品行政のあり方検討委員会」には、医療における法的枠組みも踏まえ、今後、是非とも冷静かつ慎重な議論を展開していただきたいと願う次第である。

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