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上杉謙信が武田信玄に塩を送った、というエピソードを持ち出すまでもなく、日本では塩は人に必須のものとして扱われていました。日本中に「塩」がついた地名がありますが、海岸沿いのものはともかく山の中のものはおそらく塩の輸送に関連したものではないか、と私は想像しています。たとえば「塩尻」は「塩を大規模輸送する終点」の意味ではないか、とか。
体の中でも塩は輸送されています。たとえば腎臓では、血液から濾された体液をそのまま尿として排出したら大切なものが大量に失われてしまいますから、尿細管で「再吸収」という回収作業が行なわれます。そこで回収される代表的なものが、ブドウ糖や水分、そしてミネラル(つまりは塩分)です。体内環境を維持するために、塩分はせっせと輸送されているのです。
ナトリウムイオンの再吸収に関与するホルモンとしては、副腎皮質から分泌されるアルドステロンが有名です。これは、レニン→アンジオテンシン→アルドステロンの順番でホルモンが連鎖反応をして、尿細管でのナトリウムイオン再吸収が活発になり、最終的に体内にナトリウムを貯留させる方向に動きます。塩分は水を引きますから結果として起きるのが高血圧。そこでその“連鎖反応”をブロックさせる薬として、アンジオテンシン変換酵素阻害剤(ACE阻害剤)やアンジオテンシン受容体ブロッカー(ARB)が高血圧に対して使われています。
さて、「ナトリウムイオンの再吸収」と言いましたが、得るものがあれば失うものもあります。尿細管でナトリウムイオンの再吸収を担当しているのは「ナトリウムチャンネル」ですが、ナトリウムを輸送するときにその“身代わり”として、カリウムイオンを反対方向に輸送しています。ということは、ナトリウムイオンの体内への輸送量が増えれば増えるほど体内のカリウムイオンが減少することになります。細胞内にはカリウムイオンがたっぷり含まれているので、血液中のカリウムイオンが減少しても細胞内から補給することは可能ですが、あまり補給しすぎて細胞内のカリウムが減ってしまうと、簡単に言えば細胞の電気活動が落ちてしまいます(細胞内外のイオンの不均衡が、細胞の電気活動のエネルギー源となっています)。それは困るのである程度で細胞内からの供給が途絶え、血液中のカリウムが減ってしまうことになります。低カリウム血症と呼びますが、その症状としては、不整脈・筋力低下・神経機能の低下・精神症状など。「周期性四肢麻痺」という病気がありますが、これもカリウムイオンが突然低下することによって全身の脱力が起きる病気です(こちらの原因は、アルドステロン系ではなくて甲状腺が多いそうです)。
「偽アルドステロン症」というけったいな名前の病気もあります。これは、いかにもアルドステロンが悪さをしているように見えるのにいくら調べてもアルドステロンの値には異常が見つからない病態です。その原因の代表が「漢方薬」。日本で売られている漢方薬の多くに含まれている「甘草」を大量・長期に摂取を続けると、低カリウム血症が起きます。漢方薬が一種類の単独処方だったらまず心配ありませんが、複数の漢方薬をいっぺんに服用してそのそれぞれに甘草が含まれていたら、容量オーバーになる確率が高くなります。おっと、単独の漢方薬でも「甘草湯」は注意が必要です。激しい喉の痛みには大変よい薬ですが、なにせ「甘草だけ」で構成されている漢方薬ですから、普通では入らない量の甘草が体内に入ってしまいます。名前は「甘」なのに塩分に関与するとは、まったくけったいな生薬ですね。味はちょっと甘くてそれなりに美味しいのですが(ですから甘草は昔は(というか今も)甘味料としても用いられています)。
参考図書、というか、サイドメニューとして……
『塩の事典』橋本壽夫 著、 東京堂出版、2009年、2500円(税別)
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中毒を起こすものと言ったら、麻薬や覚醒剤、一般に売られているものでしたら、アルコールや煙草を思いつきます。そういえば、目立ちませんが、たとえば香辛料にも中毒作用があるかもしれません。一度辛さの美味さを覚えた人は、辛くないと満足できなくなってしまう様子を観察していての推定です。さすがに禁断症状はないでしょうから医学的な意味で「中毒」と言ったら言い過ぎかもしれませんが(でも、実験をしてみないと本当のところはわかりませんけれどね)。
それと同様に、日本料理での食塩や砂糖はどうでしょう。これも、(たぶん)禁断症状はないでしょうから医学的な意味での「中毒」ではなくて、一般日本語としての意味での「中毒」があるのではないかな、と思ったのです。
「日本料理に塩は確かに多めだろうが、自分は、減塩には気をつけているし、辛党だから甘いものは食べないぞ」と言われる方は多いでしょうが、では、ちょっと想像してみてください。「砂糖抜き」の日本料理を。実は日本料理は、意外に“砂糖漬け”なのです。家庭で作るお総菜だったらまだそれほどの使用量ではないでしょうが、店で売っているおかずや料理店の日本料理、砂糖抜きだとどんな味になるか、想像できます? 明日から食べる予定のお節料理もずいぶん濃い味ですね。わが家は薄味党なので家内はどんと調味料を減らしていますが、それでも濃く感じます。
そういえば、北海道では、大晦日からお節料理を食べる、とさっきラジオで言っていました。本当?
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私が大学に通っていた頃、日本中でどんどん増えたのが、コンビニとファミレスと回転ずしの店でした(他にもあるかもしれませんが、貧乏学生の自己中心的な世界観です)。学生時代、ファミレスにはお世話になりました。客としてもですが、バイト先としても。はじめは夕方勤務だったのですが、すぐに深夜シフトに移動して、同じ時間働いても仕事は楽(お客さんが少ないから)で時間給は夕方より多い、という微妙に美味しい思いをしましたっけ。さすがに夜中の2時に仕事を終えて帰るのはしんどかったのですが。
就職してから時々行っていた安いステーキ屋では「888円のビーフステーキ」が売り物でした。学生時代にバイトしていたファミレスのステーキより安いのにそれより美味かった。使っているのは確かに安い肉なのですが、妙に柔らかいので不思議に思って店の人に聞くと、パイナップルか何かから抽出した酵素で肉を処理している、と教えてくれました。たしかにパイナップルにはプロメラインというタンパク分解酵素があるから、生肉を酵素処理したら柔らかくはなるでしょう。上等になるわけではありませんが。
学生時代に受けた口腔外科の授業で、「食事」の話がありました。骨折をしたらふつうはギプスを巻きます。肋骨を骨折したらバストバンド。つまり「折れた骨は固定して動かないようにする」のが大原則です。折れたところがぎしぎし動いたら痛いしくっつきませんから。では顎の骨折の場合は? たしかその授業では「針金で縛って固定」と習ったはずです。しかしそうしたら、発声も咀嚼もできません。発声は筆談にするにしても食事ができないのは命にかかわりますから、経管栄養です。当時は特別濃厚流動食といった便利なものはありませんでしたから「ミキサー食」でした。ごはんもおかずもミキサーに突っこんでどろどろにして管を通して胃袋へ。
ところがこれは、想像したらわかるでしょうが、食欲が出るようなシロモノではありません。患者としてはストレスがたまってしかたないのです。そこでせめて「何を食べているのか」だけはわかるように、まず「完全な形の食事」をベッドサイドに運び、そこでじっと見つめてもらってから皿の上の「食品」をミキサーに投入して「ミキサー食」にする、というテクニックも使う、と私は習いました。
嚥下困難や咀嚼困難者のためには、食事に工夫をします。噛めない人には最初から噛んであるように切り刻んでおく、飲み込みにくい人には喉を通りやすいようにとろみでまとめておく、といった工夫をしたら、喉を通りやすくなる、というものです。ところがこれまた、美味そうには見えません。良くて離乳食のようなもの、悪いと……やめておきましょう。食欲が減退する表現になってしまいますから。
ところが、「外観が普通の食事のままで、口に入れたら舌で簡単につぶせるくらいのやわらかさ」といった「嚥下・咀嚼困難者食」の話がときどき聞こえるようになりました。何年前だったかな、超高圧下に食品を置いたら色も形もそのままで硬さだけが柔らかくなる、というニュースを聞いた覚えがあります。そして最近は「888円ステーキ」のような感じで、「酵素を使った摂食回復支援食」というものが登場しました。固有名詞を出しちゃいますが「あいーと」(イーエヌ大塚製薬株式会社)です。これ、実物を見たことが(試食をしたことも)ありますが、見た目は「普通の食事」です。でもとてもやわらかい。これなら「栄養補給のための物体」ではなくて立派な「食事」です。
嚥下困難の老人が家族と一緒に食卓を囲む(一緒に「食事」をする)のが容易になり(そして台所担当者の負担も減り)ますが、もう一つ私は夢を見ます。ファミレスです。
昔と比べてファミレスは明らかに和食などが充実し、高齢者社会に対応しようと努力しているようです。だったらメニューにこういった摂食回復支援食も入れておけば、新しい客層を開拓できるのではないでしょうか。少なくとも「お祖父ちゃんは外では食べられるものがないから」ということで外食を控えていた家庭を呼び込むことができるかもしれません。それは新しい形の“ファミリー”レストランになるのではないかな。
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生肉をどうしても食べたいなら、表面を加熱してその部分を切り取ってから中の部分だけ食べろ、ということになりそうです。要するに肉のタタキの芯の部分だけ食べる、ということ。だけど表面からほんのりと芯にまで熱は伝わるでしょうから、本当の意味での生肉ではなくなっているかもしれませんね。ミディアムレアの生肉?(変な日本語です)
いっそ、放射線殺菌をしたらどうです? これだったら風味は変りませんし、捨てる部分もありません。もっとも毒素の破壊はできませんから却下でしょうが……って、今の世相では、たぶん「放射線」の部分でアウトでしょうね。
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先日久しぶりに吉野屋に入りました。
「何年ぶりかな」と思いながら昔とあまり変っているようには見えない店の中を見渡していて、医師国家試験前夜のことを急に思い出しました。同級生たちとビジネスホテルに泊まって、「ちょっと夜食でも」と行ったのがすぐ傍にあった吉野屋だったのです。あの時代には、米や牛肉の輸入自由化で日本は騒がしかったり、吉野屋が大発展してから転けてしまったり、いろんなことがありましたっけ。ともかく、その夜牛丼を食ったおかげかどうか、国家試験にパスできて今の私がいます。
店の中にはカップルや家族連れもいます。昔は男ばかりだったなあ、と思っていたら、「食べたことがないけれど、女一人では吉野屋に入りにくいの。でも、一度行ってみたいのよねえ」と言っていた女の子がいたことを思い出します。今だったら彼女も一人で入りやすいでしょう……って、もしかしてあのことば「一緒に行こう、誘ってよ」というお誘いだった? うわあ、私の脳みそには遅延回路が組み込まれていて、何(十)年もかかってやっとわかる、ということがあるようです。今頃わかっても、もう完全に手遅れなのですが。
目の前のカップル、女性が盛んに七味唐辛子の容器を振っています。味噌汁にどばどば、それから牛丼にどばどば。いくら追加料金を取られないからといって、それはかけすぎでは?とちょっとはらはらしながら、昔そっくりの光景を見たことを思い出します。その時には女性が七味をかけすぎて自分では食べられなくなった丼を、男に押しつけていましたっけ。今回は……ああ、真っ赤な牛丼をちゃんとぱくぱく食べています。他人のことながら、一安心。
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