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別の病名で入院してきた人が、胸のレントゲンを撮ったら気胸でびっくり、という話題は以前書きましたが(「正しい訴え」http://blog.m3.com/ishi-atama/20110521/1)、先日その逆の立場になりました。こちらから別の病院に転院した患者さん(μ1さん)が、そちらで胸のレントゲンを撮影したら気胸だった、と。で、そちらの医者が「前の医者は何をしていたんだ」と言ったのを聞いた家族の人がおかだに対してご立腹、とのことでした。
私が何をしていたかと言えば、もちろん日々の診療です。特に胸の訴えはなかったし、胸部に関連する症状も全然なかった、ということは思い出せます。胸のレントゲンはたまたま1箇月前に撮影していましたが、そちらではもちろん気胸はありませんでした。ですから、転院直前に胸の精査をする必要性を感じていませんでした。
もちろん「気胸があった」以上、私が見逃した可能性があります(移送途中に肺のどこかが破裂したのでない限り)。ならば「見逃さない」ためには何をすればよかったのか、と考えても結論は出ませんでした。強いて言うなら「毎日レントゲン撮影」ですが、それは非常識な解決法にしか思えないのです(不必要な被曝ですし、それだって、撮影直後に気胸を起こしたら24時間放置したことになります)。見苦しい自己弁護、と言われても仕方はありませんが。
その話を聞いた直後に、入院患者のμ2さんの胸のレントゲンができあがりました。μ2さんはこの1箇月で2回目の尿路感染症で、尿路系の精密検査が必要だと思っているのですがなかなか条件が合わず延び延びになっていて、今回はなぜか咳や痰もあったため、「ふだんからむせも軽くあるし、まさか誤嚥性肺炎も?」と思って血液や尿検査と一緒に胸写もオーダーしたのでした。見ると、肺炎はありませんが、軽い気胸が。一瞬めまいがしましたが気を取り直します。刮目して名前を見直しますが「μ2さん」で「μ1さん」ではありません。これはもう合わせ技で肺と尿路系とをいっぺんに診てもらうしかないでしょう。気胸そのものはまだ軽いので安静で改善する可能性もありますが、もし悪化したら私の病院では管理が困難なので、悪化してから慌てるよりも軽いうちから濃厚治療が可能なところで診てもらっている方が安心です。
で、話がややこしくなりました。実は「μ1さん」と「μ2さん」、同姓同名ではありませんがちょっと似た名前なのです。しかも「気胸」という共通のキーワード。おかげで、話を途中から聞いた人たちは両者を混同してしまって病棟に軽い混乱が。私はそういったのは一切無視して最善の選択肢と思われる病院を手配し本人と家族に説明することに専念していましたけれどね。
しかし、今回は「見逃し」をせずに済んでよかった、と思います。もちろんこんどは別の病気を見逃しているかもしれませんが。
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音楽には不思議な力があります。人を落ち着かせたり、逆に鼓舞したり、気分や感情や雰囲気にダイレクトに作用する力が。
古代から人類は音楽を様々な目的で使ってきました。たとえば宗教や儀式の場で音楽は重要です。キリスト教教会でのミサ曲とかバリ島のケチャなどのレコードを聴いていると「現場にいたら魂が洗われるんだろうな」と思うことがありますし、仏教の声明でも似たことを感じます。録音を聞くだけで軽いトリップ感覚が味わえますから。
世の中にはいろいろ変った(世間にはあまり知られていない)職業がありますが、「音楽療法士」もその一つと言えるでしょう。音楽の効果を“治療”に使う人たちです。
参考サイト:「音楽療法WEBガイド」
このサイトを読むと、本当に様々な領域で音楽療法が用いられていることがわかります。私は精神科や心理学の領域での芸術療法の一環としての音楽療法は知っていましたが、それ以外にもけっこうあることには驚きました。
音楽療法について述べた本はいろいろありますが、『音楽と感情の心理学』(P・N・ジュスリン&J・A・スロボダ 編、大串健吾・星野悦子・山田真司 監訳、誠信書房、2008年(10年2刷)、5600円(税別))
の第4章「音楽と感情──音楽療法からの展望」はなかなかスリリングなものでした。そもそもこの本はタイトルの通り「感情」と「心理学」を扱ったものですが、「音楽心理学で最も権威ある『音楽の心理学』には感情に関する章がなく、最も広範に感情を扱った『感情のハンドブック』には音楽の章がない」なんて挑発的な文章から始まる刺激的な本なのです。
もうちょっと“穏やか”な入門書、たとえば『音楽療法のすすめ ──実践現場からのヒント』(小坂哲也・立石宏昭 編著、 ミネルヴァ書房、2006年、2200円(税別))なんてのもあります。実践している人の本だからか、わかりやすいものでした。
そうそう、「がん生検時の疼痛緩和に音楽や外部音遮断は有効?」(MTPro)という面白い記事もありました。残念ながら音楽が不安や疼痛を軽減する、とは言えなかったようですが、生検時の収縮期血圧の上昇を抑える作用はあるようです。それと、この記事を読むことで「生検時に患者さんは不安や疼痛を感じている」ということに改めて気がつく医療者もいるかもしれません。だとしたらこの研究で使われた音楽も無駄ではなかった、と言えそうです。
先日、μさんという患者さんと話していたらご自分の音楽体験を教えてくれました。μさんは脳卒中後遺症で重度の右片麻痺になっています。それでもアクティブにいろいろな活動をされているのですが、好きだった楽器演奏は片手では難しくて「私がピアニストだったら、左手一本でも弾ける曲があるのになあ」などと言われていました(たしかに「左手のためのピアノ協奏曲」(ラヴェル)、「ピアノ協奏曲第4番/左手のための」(プロコフィエフ)、「パレルゴン」(リヒャルト・シュトラウス)、「ディヴァージョンズ」(ベンジャミン・ブリテン)、「ピアノ協奏曲」(コルンゴルト)、「左手のための2つの小品(前奏曲、夜想曲)」(スクリャーピン)などがあります。日本では舘野泉というピアニストがその分野では有名だそうです)。それでもμさんは音楽を楽しもうと、ある日好きな交響曲を大音量で聴きながらその総譜を目の前に広げて読んでいたのだそうです。で、譜面をめくろうとしたら、動かないはずの麻痺側の右上肢が音楽に合わせてぴくぴくと動いているのに気づいた。これまで何年も動こうとしていなかったのに。これまでもその曲は何度も聴いていましたが、右腕は動きませんでした。ただ、総譜を集中して見ていたのはその時が初めてだったのだそうです。耳と目を同じ音楽に没入させることで、脳内に何か新しい回路が開通したのかもしれません。
音楽には不思議な力があります。
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前世紀の末頃、経管栄養を行なっているといろいろな問題がありましたが、その一つが「微量元素の欠乏」でした。特別濃厚流動食は工場で生産されますが、あまりに“きれい”に生産されるものですから“不純物”がないため、ずっとこの“食事”に頼っていると亜鉛や銅などの微量元素が足りなくなってしまうのです。そこでそういった食事に追加するサプリメント(栄養補助食品)が別に売られていました。カキリコはその一つです(というか、私はそれ以外を知りません。記憶から消滅しただけかもしれませんが)。
名前を見たらわかりますが「牡蠣」から抽出されたものが主成分だそうです。当然亜鉛はリッチでしょうね。
「わざわざ“不純物”を混ぜるのか」と私はぶつぶつ言いながら使っていましたが、最近の特別濃厚流動食はずいぶん進歩して、最初からそういった微量元素もちゃんと含まれているために、カキリコのようなサプリを追加する必要はなくなったそうです。企業のサイトを見ると、どうもすでに製造していない雰囲気です。私の記憶から「カキリコ」という名前までもが消滅する前に、ここに記録だけは残しておきます。
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私が学んだ大学の付属病院には、おそらく当時としてはまだ珍しかった思春期外来がありました。担当していたドクター(婦人科の教授)の授業も一コマありましたが、講義の内容はきれいに忘れました(出来の悪い学生(のなれの果て)で申し訳ない)。たしか、思春期特有の身体変化と精神の成熟のアンバランスから生じる様々な問題に対応する、だったかな。
今「思春期外来 ○○(各地域の名前)」で検索をかけてみると、日本には本当にたくさん思春期外来が存在していることがわかります。担当しているのも、婦人科だけではなくて、小児科・小児精神科・精神科・泌尿器科・心療内科……およそ「思春期の問題」に関係しそうな科は大体網羅されているのではないか、と思えるくらいバラエティに富んでいます。
ただ……ここで私は「仮面うつ病」を思います。この病気の人は、最初からストレートに精神科を受診することが非常に少なくて、他の科を転々とすることで不幸が拡大することが多くあります。それと同様に「思春期外来を受けるべき人」が最初からストレートに思春期外来を受診することは、実はとても少ないのではないか、と私には思えるのです(私の勘違いだったら、それはそれで嬉しいのですが)。最初から受診しないか、あるいは受診しても小児科とか内科……おっと、その前に、保健室を忘れてはいけませんね。すると、もしそういった人が気軽に保健室に来ることができて、そしてそこで養護教諭やスクールカウンセラーが“その目”で生徒・学生をみることができて、さらにそういった人が適確な紹介ができるだけのネットワークを持っていたら……思春期外来で少しは不幸が軽減できる人を(他の科を受診することと比較すれば)増やすことができそうに思います。
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「抗ヒスタミン剤」といえば「鼻水の薬」と言いたくなりますが、ヒスタミンのレセプターは胃にもあってそこにヒスタミンが結合すると胃酸が分泌されます。ということは、そのレセプター(H2レセプターと呼ばれます)を遮蔽してしまえば胃酸が出にくくなる、ということで登場したのがH2ブロッカーであるシメチジン(商品名タガメット)でした。現在この薬は大日本住友製薬から販売されていますが、私の記憶では日本に初登場時には藤沢薬品が扱っていた、となっています。当時は200mg錠を一日4回服用するのが結構大変でしたが(現在は400mgずつ一日二回服用です)、とにかく「胃潰瘍が飲み薬で治る」ということ自体が「衝撃体験」でしたっけ。
で、そのあおりを食ったのが、それまでの「潰瘍治療薬」、特にソルコセリルでした。詳しい使い方はもう忘れてしまいましたが、一日1回静脈注射で、1回が1アンプルならトータル40回、1回が2アンプルなら20回、がワンクールだったはずです。
当時の消化性潰瘍治療では「胃内での攻撃と防御のバランス」が重視され、「攻撃因子」である胃酸を効果的に押さえられないから「防御」を上げることで対応しよう、と、粘膜保護剤(いわゆる「胃薬」)や肉芽形成が強いソルコセリルが医者には愛用されていました。しかし、タガメットの登場で医者が「ソルコセリル!」と言う機会は激減しました。飲み薬で治るのだったら、毎日注射に通いたい人はあまりいません。
タガメットは一時我が世の春でしたが、生者必滅栄枯盛衰、後から出てきたザンタックやガスターにその座を奪われてしまいました。だって、服用する回数が一日に二回で効果はタガメットと同等あるいはそれ以上なのですから、飲みやすい方に飛びつくのが人としては自然です。
やがてH2ブロッカー自体がもっと制酸効果の強いPPIと呼ばれるグループの薬に、その地位を追われることになります。
べべんべんべん(琵琶の音のつもり)。
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私は学校で「非定型抗酸菌症」と習いましたが、今では「非結核性抗酸菌症」と呼ばれています。一見すると、今の呼び方の方がわかりやすいですね。
「抗酸菌」というのは「飲み込んでも胃酸に耐えて生き残る細菌」のことではなくて「塩酸酸性アルコールによる脱色に抵抗する細菌」のことです(実際には胃酸の中でも生きているので、昔は胃液を採取して結核菌培養、というテクニックもありました)。抗酸菌の代表が結核菌。で「結核菌以外の抗酸菌」が昔は「非定型抗酸菌症」、今は「非結核性抗酸菌症」というわけです(らい菌も抗酸菌の仲間ですが、「結核菌」にも「非結核性抗酸菌症」にも入れてもらえません)。
「非結核性抗酸菌症」の代表は「Mycobacterium avium complex」略して「MAC」。そのへんの土や水の中、つまり「自然環境」に広く存在しています。一応「人→人」に感染はしないことになっていますが、治療が難しい。結核に使う薬剤やクラリスロマイシンという抗生物質を長期間使うので、副作用も出やすく、治療には難渋します。どうにも困った病気ですが、あまり広く知られていない、ということ自体も困ったことではありますね。たまにこの病気を持った人が入院してくることがあるのですが、そのたびに病気の説明をしないといけません。病棟のスタッフでも「非結核性抗酸菌症」の「結核」の部分に反応して「結核、コワイ」と言う人がいるのです。「非」がついてるでしょ、と言っても「たとえ結核でも排菌がなければコワクない」と言ってもなかなかわかってもらえないことがあるのは、私の説明が下手くそなせい?(泣)
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