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2012.02.15 18:48 |  診療  |  おかだ  | 推薦数 : 3

紙一枚の値段

 毎日いろんな人と出会っていたら、確率が低くても母数が多くなるわけで、どうしてもいろいろな主張をする人とも出会うチャンスが増えることになります。今日もそういった出会いを一つフィクション化して書いてみましょう。

 外来にやってきたτさん、診断書をタダで書け、と言われます。
「どうせ紙一枚にちょこちょこっと書くだけじゃないか。そんな紙一枚に金が払えるか」
「なるほど、ではそのへんのメモ用紙かチラシの裏にでもちょこちょこっと書きます。それで良いですか?」
「そんなの診断書として使えないじゃないか」
「ええ、『紙一枚にちょこちょこっと書いたもの』はそうなりますね」
「…………」

 τさんは、たとえば就職するときに提出する履歴書は「紙一枚にちょこちょこっと書いたもの」を出すのでしょうか?(「履歴書」も「診断書」も、法律的には「(有印・無印)私文書」の仲間のはずです)  あるいは新聞を購入するときにも「紙代+インク代」しか払わない、と主張されているんでしょうかねえ。まあ、それだけの価値しかない(それだけの価値もない)新聞もときにはあるようですが。


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 1979年スリーマイル島事故のときには、「あれは作業員のミスで、日本では教育レベルが高いし安全装置がきちんと働くからあんなことは起きない」と「専門家」が言っていました。
 1986年チェルノブイリ事故のときに、「日本の原発はそもそも黒鉛炉ではないし、安全基準がソ連よりもはるかに厳いからあんな事故は起きない」と「専門家」が言っていました。
 「バケツでウラン」や「フクシマ」が“想定外”の時代です。

 1989年のサンフランシスコ地震で2階建て高速道路が倒壊しました。そのとき「専門家」は「日本の高速道路は落ちないようにきちんと作ってあるから大丈夫」とテレビで言っていました。
 1995年阪神淡路大震災で日本の高速道路や新幹線高架橋で何が起きたか、私は覚えています。「専門家」の皆さんがそのとき何と言ったのか(言わなかったのか)は忘れました。

 「ジャパン・アズ・ナンバーワン」の時代(そんな時代もあったのです)、アメリカは不景気でレイオフが盛んに行なわれていました。新聞には「日本は終身雇用制度という優れた制度があるから、従業員が安心して働ける。だからどんどん成長できるのだ。雇用が不安定なアメリカとは大違いだ」と誇らしげに書かれていました。

 エイズがアメリカで問題になり始めた頃「あの病気はアメリカの男性同性愛者の病気だから、日本人には関係ない」と言っている人がいました。(アメリカにも「あれは男性同性愛者の病気だから、スクエアには関係ない」と言っている人がいましたけれどね)

 BSEがイギリスで問題になり始めた頃「日本の畜産には無関係」と言っている専門家がいました。

 2004年のスマトラ島沖地震と津波で大きな被害が出た時「日本では津波警報がすぐ出されるからあんな被害は出ない」と言う「専門家」もいました。

 そして、北米大停電。これについても「日本とアメリカでは電力事情が全然違う」「日本の送電網は大丈夫」「だから大停電は起きない」と言っている人がいます。自信たっぷりに言う人には悪いのですが、私は眉に唾をつけさせてもらいます。なにしろ「外国での先例」に対して「いやいや、それは外国の話であって、日本は大丈夫」という主張がしばらく経ったらあっさり覆される(そして主張した人は知らんぷり)、というのをいくつも見てきているものですから。もちろん「自分の感覚の正しさを実証するために大停電が起きることを望む」ほどワルイ人間ではありません。大停電は起きないことを切に願います。でも、起きないようにするには「日本は大丈夫」と言っているのではなくて「起きること」を前提に対策を十分に立てておいて欲しいだけです。

 ただし、たまたまの順番、ということかもしれません。日本の企業で時に粉飾決算や株価操作があることを「日本企業の情報公開は遅れている。アメリカではあんなことはあり得ない」と言っている「専門家」もいましたが、結局アメリカでも「エンロン」がありましたからね。もちろん「エンロン」一つをもって、日本の会計制度が優れている、なんて主張はできません、というか、エンロン自体がまるっきり「日本的」とはほど遠い企業ではあったのですが(*1)。

*1)『エンロン内部告発者』ミミ・シュワルツ/シェロン・ワトキンス 著、 酒井泰介 訳、 ダイヤモンド社、

 

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