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 私が医者になった頃には、入院目的で病院にやってくる患者さんが持ってこられる開業医の「紹介状」の中には「名刺の裏に『よろしくお願いします』と一行だけ」のものがけっこう多く混じっていました。面倒くさい、ということもあるでしょうが、大体のことが先に電話で話してある場合には、電話で話したこと以上はもう書くことがない、という事情もあったのでしょう。ただこの「名刺紹介状」、扱いに困ります。カルテに貼ると、表を出すと裏が隠れる、「紹介状だから」と裏を出すと表が隠れる。
 前世紀末のいつ頃でしたっけ(もしかして今から20年くらい前?)、厚生省が「診療情報提供料」というものを健康保険に設定しました。簡単に言ったら「これからは紹介状を書いたら、その料金を患者に請求できる」(つまりそれまでは「紹介状は無料(書いても書かなくても健康保険での扱いはまったく同じ)」だったのです)。ただし、いくらなんでも便せん数枚に詳しく患者の情報が記載された渾身の傑作と「名刺一枚でよろしくね」とを同じ扱いはできません。そこで「患者の氏名」「既往歴」「現病歴」「所見」など「これだけは必ず記載すること」というひな形が厚生省から医師会を通して示されました。最低限これだけの情報を書けば、料金を請求しても宜しい、と。

 こちらは研修医の時から「紹介状や返事は必要十分なデータをきちんと書くこと」と仕込まれましたから、別に何も変わりませんでした(ただ、「ひな形」が使いにくいのには参りました)が、それまで「名刺一枚」に慣れていた人たちは、やはり大変だったようです。
 最近、よく患者を紹介し合う病院が改築をして、電子カルテを採用したそうです。当然そこから来る紹介状もコンピューターを通したものになりました。ところが、あるドクターのものだけは相変わらず手書き。「う〜ん、きっと“大変”なんだろうな」と私は思っています。きっと何かの形で「明日は我が身」ですから。


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