「カルテは医者の個人的備忘録ではない。チーム医療の時代なんだから、誰にでもわかるように専門用語や略号は廃して、きちんとした日本語で書くべきだ」という主張があります。たしかに一理ある主張です。ですから私もなるべくは日本語で書くように努力はしています。ただし、完璧にはできませんし、最初から不可能な領域もあります。
たとえば心電図の所見。「ECG」は「心電図」に、「リズムはRegular、sinus」は「脈は整、洞性」と書くことはできます。だけど「V1〜2でST上昇」とか「前壁にQ波」というのはどう“日本語”にしましょうか。どなたか良いアイデアがありません?
かつての日本で、“敵性語”(*)の「ストライク」を「よし」、「ボール」を「だめ」と言い換えたように、むりやり何か“日本語”を作りましょうか。そうだなあ、たとえば「P波、Q波……」を「甲波、乙波……」と。すると「R on T」は「戊波上の丙波」となります。なんだか「R on T」よりももっと訳がわからないような気もしますが。こんな「言い換え」で、かえってコミュニケーション・エラーから医療事故のもとにならなければいいんですけどね。
ところで、たとえば「R on T」を「戊波上の丙波」に、「PSVT」を「発作性上室性頻拍症」に言い換えたら、医者以外の人には何かがとっても理解しやすくなります?
*)『野球と戦争 ──日本野球受難小史』(山室寛之 著、 中公新書2062、2010年、820円(税別))
によると、この「敵性語の言い換え」は昭和18年に軍部の(命令ではなくて)「要請」で行なわれたそうです。戦争の勝利にどのくらい貢献したのかは知りませんが。
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