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竪穴式住居から近世の社寺まで、日本建築の屋根に注目して書かれた本『屋根の日本史』の最後に、「伝統建築関係の職人全般に求められるもの」が列挙されていました。
近代化によって「職人の矜持」は引き潰されていき、“伝統”は世の中からは軽んじられ、大量生産・大量消費や規格化やプレハブなどが普及することで職種そのものが存続の危機に立たされる、そういった時代だからこそ、この本の著者(伝統建築の屋根職人、特に檜皮葺と杮(こけら)葺のスペシャリストで文化財の修復経験が豊富)が、自分自身に対しても気持ちをこめて書いた文章です。なお、著者は職人に求められるのは「5つ」としていますが、実際にはもうちょっと多くの要素が盛り込まれています。
1)伝統的な道具を自分の手足のように使いこなす力量。「道具は八分作り」ということばがあるそうで、職人が使いこんでいくうちに手に馴染んでいって道具としての完成品になる、逆に言えば、道具を“完成品”にする力量が職人には必要。
2)見ただけで材料の良し悪しを判断する能力。
3)大工や左官など他の現場職の仕事までを理解し、どのようにしたら最高の仕上げにまで持っていけるかという判断力。それぞれの職人はそれぞれが美しい所作(無駄のない動作、美しい姿)を持っていたが、その意味をもう一度見直す必要がある。
4)経験をもとにしたデザインへの構想力。建築学や構造学といった知識に加え、歴史学や考古学、民俗学といった幅広い教養。
5)コンスタントに腕前を上げる努力。古建築は二つと同じものはない。そのつど異なった状況に適応できる力量。
読んだ瞬間「医者にも同じようなことが言えるなあ」と私は感じます。まずは前提の、近代化によって矜持を引き潰されてきた点からしてよく似ています。
……で、
1)の道具を使いこなす力量は、ハイテクに関しては上がっていますが、基本的な器機(たとえば聴診器)を使いこなす力量は明らかに落ちているように私には見えます。この力量の保持は絶対必要です。
2)これは医者としては基本能力なので、絶対必要でしょう。「建築用の材料」ではなくて「患者を見ただけで判断する能力」ですが。
3)チーム医療での他の職種への理解。そして、医者としての「美しい所作」。前半はできてきていますが、後半はどうだろう。ちょいと自省します。というか、医者に限らず、立ち姿や歩く姿に限定してもそれが美しくない人がやたらと多くないです?
4)幅広い教養。これは医者の弱点ですね。(医者だけの弱点かな、とも思いますが)
5)基礎的な力プラスそのたびに違う状況に対応できる応用力。これまた医者としては絶対に必要でしょう。
こうしてみると、「伝統職人として必要なもの」は医者にも同じように言えそうです。医者は学究としての側面と職人としての側面を持っているから当然と言えば当然なのですが。だけど“今の世の中”が医者に求めているのは、学究とか職人ではなくてサービス業でしたっけ?
参考図書:『屋根の日本史 ──職人が案内する古建築の魅力』原田多加司 著、 中公新書1777、2004年、800円(税別)
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