心臓は毎日こき使われていますから、時に不調となります。構造が不調になるのがたとえば弁膜症や心筋梗塞、機能の不調が不整脈です。
不整脈の一つに「心房細動」(医者の暗号では「Af」(エーは大文字、エフは小文字です))があります。
これは心臓の上半分の心房が細かく震える病気で、絶対性不整脈という、パターンが非常に読みづらい不整脈を起します。脈が乱れるのは困りますが、実はもっと困ることがあります。心臓の壁が細かく震えることでそこに血栓ができることがあるのです。おっと、厳密には「血栓ができること」は困りません。「血栓が飛んで、どこかに詰まること」が困るのです。
血管が原因の脳梗塞は「その血管の支配領域」に限局した脳梗塞になります。ところが心臓から飛んできた血栓が脳梗塞を起す場合、血栓の大きさにもよりますが、太い血管がいきなり詰まったり、あるいはいくつもの固まりに分かれてまるでショットガンで撃ったみたいにいくつもの血管が同時に詰まったりします。これは本当に困ります。
ですから、不整脈そのものが命取りになるわけではない心房細動についても、何らかの治療が必要ということになります。
1980年代だったと記憶していますが、アメリカから「抗不整脈薬のカテゴリー分類(Vaughan Williams分類)」という概念が輸入されました。薬をその作用機序で大きく4つ(I群〜IV群)に分類して、それぞれのカテゴリーがどの不整脈を“担当”するかを明確にしたものです。
I群は「Naチャンネルのブロック」で、さらに「a」「b」「c」に細分されます。II群はβブロッカー。III群はKチャンネルのブロック。IV群はCaチャンネルのブロック。
なお、私がこの分類を覚えたころには日本ではまだI-cとIIIのカテゴリーの薬は未発売でした。
で、「心房」を担当するのは「I-a」「I-c」の薬とされていました。ですから当然日本の医者は心房細動に対して「I-a」の薬を使います(そのうち「I-c」も発売されたので、そちらも使われるようになりました)。
ところが治らないんです。慢性心房細動は本当に頑固で、なかなか薬で素直に整脈に戻ってくれません。それどころか、下手すると抗不整脈薬の副作用である「不整脈」が出現することがあります。これは困ります。
さらに21世紀になって「心房細動の脈を正常(洞調律)に戻す治療と、心房細動のままで頻拍にならないようにだけ治療をするのとを比較したら、総死亡率には差がない」という衝撃的な報告がありました(AFFIRM試験)。
つまり「不整脈を整脈にすることに血道を上げても仕方ない。脈拍数だけ抑えましょう」ということです。
しかし血栓が飛ぶことは困ります。ですから現在の治療の主流は「ワーファリンで血栓ができることを予防。もしも頻拍などで心機能が落ちそうだったり、あるいはすでに心機能が落ちていたら、それには治療をする」となっています。過去の記憶はどんどん時代遅れとなってしまいます。もっとも、もうしばらく経ったら新しい薬が普及して「ワーファリンはもう時代遅れの薬」となることも確実ですが。(興味のある方は「ダビガトラン」で検索をしてみて下さい)
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