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2010.10.27 18:32 |  診療  |  その他(医療関連)  |  社会・歴史  |  おかだ  | 推薦数 : 1

心房細動

 心臓は毎日こき使われていますから、時に不調となります。構造が不調になるのがたとえば弁膜症や心筋梗塞、機能の不調が不整脈です。
 不整脈の一つに「心房細動」(医者の暗号では「Af」(エーは大文字、エフは小文字です))があります。
 これは心臓の上半分の心房が細かく震える病気で、絶対性不整脈という、パターンが非常に読みづらい不整脈を起します。脈が乱れるのは困りますが、実はもっと困ることがあります。心臓の壁が細かく震えることでそこに血栓ができることがあるのです。おっと、厳密には「血栓ができること」は困りません。「血栓が飛んで、どこかに詰まること」が困るのです。
 血管が原因の脳梗塞は「その血管の支配領域」に限局した脳梗塞になります。ところが心臓から飛んできた血栓が脳梗塞を起す場合、血栓の大きさにもよりますが、太い血管がいきなり詰まったり、あるいはいくつもの固まりに分かれてまるでショットガンで撃ったみたいにいくつもの血管が同時に詰まったりします。これは本当に困ります。
 ですから、不整脈そのものが命取りになるわけではない心房細動についても、何らかの治療が必要ということになります。
 1980年代だったと記憶していますが、アメリカから「抗不整脈薬のカテゴリー分類(Vaughan Williams分類)」という概念が輸入されました。薬をその作用機序で大きく4つ(I群〜IV群)に分類して、それぞれのカテゴリーがどの不整脈を“担当”するかを明確にしたものです。
 I群は「Naチャンネルのブロック」で、さらに「a」「b」「c」に細分されます。II群はβブロッカー。III群はKチャンネルのブロック。IV群はCaチャンネルのブロック。
 なお、私がこの分類を覚えたころには日本ではまだI-cとIIIのカテゴリーの薬は未発売でした。
 で、「心房」を担当するのは「I-a」「I-c」の薬とされていました。ですから当然日本の医者は心房細動に対して「I-a」の薬を使います(そのうち「I-c」も発売されたので、そちらも使われるようになりました)。
 ところが治らないんです。慢性心房細動は本当に頑固で、なかなか薬で素直に整脈に戻ってくれません。それどころか、下手すると抗不整脈薬の副作用である「不整脈」が出現することがあります。これは困ります。
 さらに21世紀になって「心房細動の脈を正常(洞調律)に戻す治療と、心房細動のままで頻拍にならないようにだけ治療をするのとを比較したら、総死亡率には差がない」という衝撃的な報告がありました(AFFIRM試験)。
 つまり「不整脈を整脈にすることに血道を上げても仕方ない。脈拍数だけ抑えましょう」ということです。
 しかし血栓が飛ぶことは困ります。ですから現在の治療の主流は「ワーファリンで血栓ができることを予防。もしも頻拍などで心機能が落ちそうだったり、あるいはすでに心機能が落ちていたら、それには治療をする」となっています。過去の記憶はどんどん時代遅れとなってしまいます。もっとも、もうしばらく経ったら新しい薬が普及して「ワーファリンはもう時代遅れの薬」となることも確実ですが。(興味のある方は「ダビガトラン」で検索をしてみて下さい)


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 脳梗塞や心筋梗塞の再発予防によく使われるのが、アスピリンです。痛み止めとしては効かないくらいの少量(*1)を毎日服用すると、血小板の機能が妨害されて血管が詰まりにくくなることはエビデンスであきらか(しかもお安い)、という素晴らしい薬なのですが、問題は副作用。たとえ少量でも長期間使っていると、胃腸障害(特に嫌なのは胃潰瘍)が出やすくなるのです。それを予防するのに一番良いのは、胃酸を押さえること。

*1)ちょうどよい量の錠剤がない時代には、小児用のものを処方していました。大人に出すのにわざわざ「小児用バファリン1錠 一日一回」などと処方箋に書くのはなんだか変な気がしましたが。ちなみに、病院用ではない市販の「小児用バファリン」は、主成分がアスピリンではなくてアセトアミノフェンで別物ですからご注意下さい。代用はできません。(ついでですが、病院用のものは現在は別の名前になっています。ああ、ややこしや)

 胃酸分泌を抑制する薬の一つにタケプロンというものがあります。名前を見たら分かりますが、武田薬品の製品。で、武田薬品は、タケプロンが上に書いた胃潰瘍発生予防に使えるようにと、「低用量アスピリン投与時における胃潰瘍又は十二指腸潰瘍の発症抑制」を効能(医者がその病気に保険診療で使って良いという行政的な認可枠。医学的な現実は無視されます)に追加したいと昨年3月に申請しました。(「消化性潰瘍治療剤「タケプロン®カプセル15」、「タケプロン®OD錠15」にかかる「低用量アスピリン投与時における胃潰瘍又は十二指腸潰瘍の発症抑制」の効能追加申請について」(武田薬品))
 で、1年以上経った2010年7月23日に厚労省が認めたのは「低用量アスピリン投与時における胃潰瘍又は十二指腸潰瘍の再発抑制」でした。
タケプロン:潰瘍予防を目的とした低用量アスピリンとの併用が可能に」(日経メディカルオンライン)

 「アスピリンをずっと飲んでいるけれど、これで胃潰瘍で腹痛を起こしたり吐血をする心配が減る」と思ったら、甘い。チクロ1トン一気飲みよりまだ甘〜い。よくよく文章を読みましょうね。
武田が申請したのは「胃潰瘍又は十二指腸潰瘍の発症抑制」です。
厚労省が認めたのは「胃潰瘍又は十二指腸潰瘍の再発抑制」です。
何が違うか分かります?  「発症」と「再発」。つまり厚労省は「まずアスピリンだけを使って、吐血をしたりしたら初めて保険でタケプロンをその潰瘍の“再発予防”に用いて良い」と述べているわけ。言い方を変えれば、血を吐くまではその薬の使用を保険では認めないぞ、と(「再発抑制」は「再発」の「抑制」ですから)。ついでですが「混合診療禁止」はまだ廃止されていませんから「自費でも良いからタケプロンを飲みたい。吐血を予防したいんじゃ」は厚労省には認められていません(さらについでですが、「混合診療禁止」の法的な根拠が示されたことはありません)。
 「医療費を少しでも削減する」ことに夢中になって文字列をいじくることだけが生きがいの人には、「患者の苦痛」「死の恐怖」「腹痛や吐血の不愉快さ」はどーでもよい、というわけでしょう。で、「お前を血を吐くぐらい悪くしてやる。それから助けてやるから、感謝しろよ」とでも言うのかな。はいはい、素直に感謝しましょう。
 そうそう、こんなことを書くと「医者が別の手を探せば良いんだ、それが医者の責任だろう」という“反論”をする人がいるかもしれません。そんな反論のある人は、反論と同時に「低用量アスピリン投与時における潰瘍の発症抑制の効能・効果が認められた薬剤」の現時点での存在を教えてください(*2)。それとそのエビデンスレベルも。それができないで単に「医者にあれこれ指示命令だけして医者の手足を縛り、その指示内容のおかしさを指摘されると切れて『医者が何とかすれば良いんだ』、と無責任に逃げる」人のことは、「医療現場での役立たずは、医療現場“以外”でも役立たず」と評してあげることにします。手足を縛られていても頭と口は動きますのでね。言論の自由、万歳。

*2)「平成22年4月23日薬事・食品衛生審議会医薬品第一部会議事録」には、「この効能・効果を有する薬剤は国内に存在しない」となってます。繰り返しますが、「保険診療上の効能・効果」とは、医者がその病気に保険診療で使って良いという行政的な認可であって、医学的な現実(「医学的には有効だぞ」の声)はお役所によって無視されます。


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