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転がるイシあたま
中山間地・島・三角州……様々な田舎や町や街を転々として様々な経験をしてきた1950年代生まれの内科医の呟きです(最近はリハ科も兼任しています)。昔の思い出・今の思いなどを、アトランダムに語ります。「次に一体何が出てくるか」と楽しみにしてもらえるようなブログを目指します。
「偉い医師」は存在するが「医師だからエライ」ではない、がモットーの一つです。「先生様」でも「患者様」でもなく、お互いに「さん」で呼び合えるような世の中に、が秘かな望みです(書いちゃいましたけど)。
タイトル履歴
2008年4月に「医師アタマ」という本の存在を知り、あまりに似ているので本ブログのタイトルを「いしあたま(医師頭)」から「転がるイシは苔むさず」に変更しました。ただ、前のタイトルへの愛着捨てがたく、同年5月31日に「転がるイシあたま」に再変更しています。
おかだ
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読書感想『襲いくるウイルスHHV-6』
なんともおどろおどろしいタイトルですが、内容は「エイズに関してHIVが主流に坐っている、その影のもう一つの研究物語」といった感じです。
1988年ウィスコンシン州ミルウォーキーのウィスコンシン医科大学ウイルス診断学研究所所長のドナルド・キャリガンは、原因不明の肺炎患者の検査を依頼されます。医者がいくら調べても原因がわからず、患者の白血球とリンパ球はほとんどなくなってしまっていたのです。キャリガンはHIV感染を疑いますが、検査結果は陰性でした。
1987年にNCI(米国国立がん研究所)では、エイズ患者が特にかかりやすいB細胞のリンパ腫の誘因となるHBLV(ヒトB細胞リンパ腫ウイルス)を分離しました。すぐにそれは新種のヘルペスウイルスで、T4細胞なども標的にすることがわかり、HHVー6(ヒトヘルペスウイルス6型)と命名されました。翌年ロバート・ギャロは、HHVー6が試験管の中ではHIVより効率的にT4細胞を殺すことを述べ、このウイルスがエイズの「共同因子」であることを示唆しますが、のちに「反HIV派(エイズの原因はHIVではない、と主張する人たち)」から「共同因子が必要ということは、HIVがエイズの“原因”ではない、ということだ」と言われて、自分の主張を取り下げます。
1980年代後半、「HIVがエイズの原因か」に関して激烈な論争が行なわれていました。高名な学者デューズバーグは、ギャロを批判して「HIVが免疫不全を引きおこすのではなくて、免疫不全になったからHIVなどの本来無害なレトロウイルスの反応が誘発される」と主張しました(もっと極端に、HIVの存在そのものに疑問を投げかける意見さえありました)。そしてギャロたちはそれに対して有効な反論ができない状態でした。当時「HIVが免疫細胞を殺している証拠」は誰も持っていなかったのですから。
キャリガンはNCIから提供された検査材料を使い、自分の患者の肺炎の原因がHHVー6である可能性が高いことを知ります。このウイルスは一体何ものなのか。キャリガンの“長い旅”が始まります。
1988年阪大微生物研究所の山西教授らは、突発性発疹・小児バラ疹・三日熱などと呼ばれる病気の原因がHHVー6であることを突き止めました。ところが、このウイルスは、ときに全身を攻撃して致死的な病状をもたらすこともわかりました。さらに、幼児期にこのウイルスに感染して治癒した後も、体内にHHVー6が潜伏してあとになって突然“爆発”することがあることもわかります。子どものありふれた軽い病気だったはずのものが、複雑で厄介な問題となったのです(ヘルペスウイルスの中でも、水疱・帯状疱疹ウイルスではそういった潜伏して再活性化することはよくあることです。さらにヘルペスウイルスが脳炎や肝障害など「別の所」を侵すこともよく知られていましたから、ヘルペスウイルスの専門家は今さら驚かなかったでしょうが)。そしてここで大きな問題になるのは、こういった「再活性化するウイルス」が、「免疫機能の低下」という体内環境の変化に出会ったときに、何をするか、です。キャリガンはHHVー6が脳・肝臓・肺・骨髄・リンパ節などに侵入しそこで「活性化」されることを一つ一つ明らかにしていきます。
しかし、キャリガンらの研究は、学界からは無視されました。「エイズの原因は、HIV」という「神話」が1990年代に確立し、それに異議を申し立てる研究には補助金がつかなかったのです。さらにヘルペスウイルス自体がありふれたウイルスであるため、それに対する新たな研究にも補助金はつきませんでした。(現代の環境問題で「地球温暖化」が主流となったためそれ以外の(たとえば酸性雨などの)研究の補助金がカットされていることを私は思います)
HIVにしてもヘリコバクター・ピロリにしても、「無名時代」には学界の主流からは相手にされず(あるいは面罵され)研究者は長く辛い日々を過ごしていますが、それと同じことがHHVー6にも起きたのです(ただし、だから将来HHVー6が“主流”になる、という保証はないのですが)。
多発性硬化症患者の脳でもHHVー6の活性が高まっている(多発性硬化症ではない患者の脳では高まっていない)ことをキャリガンとノックスは明らかにしますが、その時彼らは大学から首にされました。二人は間借りで私立の研究所を立ち上げ、研究と生き残りの努力を続けます。
慢性疲労症候群についても本書ではけっこう詳しく触れられます。著者は、「単一の病原体による病気」ではなくて、個体と病原体と環境などの複合的な相互作用によって免疫が影響を受けそれが他のシステムに影響を与えそれがまた免疫システムに影響を与え、といった複雑な病態によるものではないか、と考えているようです。つまり「因果関係」がネットワークになっている、と(複雑な“因果”がそれぞれにネガティブやポジティブなフィードバックをかけあっている。HHVー6の「潜伏」も、ウイルスの生体への攻撃と生体の免疫機構からの攻撃とのバランスで成立している、ということのようです)。だとすると、そういった病気の研究には、今までの「病因→病気」を求めるのとは違った態度が必要になるかもしれません。
本書は10年前の発表ですから、今はどうなっているのでしょう。“続編”があるのなら、探して読みたくなってきました。なお、キャリガンもノックスもHHVー6についておどろおどろしい主張はしていません。エイズについても「HIV説」でも「反HIV説」でもありません。ただ淡々と科学的な証拠についてと、そこから導き出される推論を述べているだけです。これが「科学的な態度」かな、と私は思います。ただ、「どこにでも存在するウイルス」だけに、探そうと思えばいくらでも「病気の原因」を見つけることができそうです(「幽霊の正体見たり枯れ尾花」よろしく、枯れ尾花の草原に迷い込んでたくさんの「幽霊」を見てしまう)。ここでも重要なのは科学的な態度と健全な自己否定なんでしょうね。
書誌情報:『
襲いくるウイルスHHV-6 ──体内に潜む見えない侵入者を追う
』ニコラス・レガシュ 著、 二階堂行彦 訳、 ニュートンプレス、2000年、2800円(税別)
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