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2010.08.13 17:54 |  診療  |  その他(医療関連)  |  おかだ  | 推薦数 : 0

法律違反

 私は医師になってからこれまでいろいろな病院でいろいろな医師の仕事ぶりを見てきました。ほとんどの医師は真面目に激務をこなしていましたが、中には驚くような人も混じっていました。医師が皆こんな勤務をしているわけではありませんが、特にひどいのを一例挙げてみましょう。
 夜中の急患です。外来で受けつけた担当の看護婦が当直室に電話をします。すると眠そうな声で「どんな患者? ○○?(適当な症状を入れてください) だったらどうせ×科でしょう。□科の私が診ても仕方ないから×科を誰か呼んでください」がちゃん。もっとすごいのでは、最初から「今夜は私の□科と完全にわかっている患者しか診ないから、それ以外では起こさないように」と看護師に厳命する医師までいましたっけ。もちろん、こういった存在は例外的で、ほとんどの医師は真面目に当直をしているのですが、せっかくですからこういった事例について少し考察してみましょう。
 医師法には「医師は、診察を求められたとき、正当な事由無く拒否してはならない」(要するに「診てくれ」と言われたら取りあえずは診る義務がある)と定められています。俗に「応召義務」と呼ばれます。もっとも、これを拡大解釈して、道端で知り合いの医師に出会ったときこれはちょうど良いと「ちょっと診てくれ」と服を脱ぎ始めたら服を脱いだ方が軽犯罪法違反などに問われる可能性があるとは思います(ちなみに、これは私の実体験です。さいわいその人は軽犯罪法には問われませんでしたけれど、私は驚きましたよ。ついでですが、私は保険医登録先をその時々の「病院」にしていますので、道ばたで診療をした場合には自費になるんじゃないかと思います)。しかし、たとえば小児科医や皮膚科医に「家族が交通事故で頭を打撲して意識不明だから診察しろ。それが医師の義務だろう」と主張しても、それは結果として患者の側に不利益が生じると想像できます。(あなたの家族が頭部打撲で意識不明になったり交通事故で骨がざっくり外から見えて大量に出血しているときまず精神科(意識障害だから)や内科(内臓が損傷している可能性があるから)に連れて行きますか?) そこで「診察をした医師が『これは自分の手に負えない』と判断したら即患者の状態に適した医師に紹介しろ」という「紹介義務」もあります。(別に「義務」なんてことばを使わなくても、まっとうな医者だったら、自分が紹介を受ける立場ならどんな情報が欲しいか、を考えながら情報提供を自然にしますけれどね)

 では、冒頭の当直医の行動は、医師法に照らしてみるとどんなことになるでしょうか。病院の当直医は、病棟での急変に備えて業務命令で待機しています(救急外来は来院する急患に備えています)。そこに診察依頼の電話があるというのは、道端で知人が「ちょっと診てくれ」と服を脱ぎ始めるのとは大きく事情が違います。とりあえず医師免許を持った人間が診察して(あるいは話を聞いて)自分で何とかなりそうなら自分で何とかするし何ともなりそうになかったら応援を呼ぶか紹介をしなければならないはずです。

 私個人の経験ですが、夜中に「入院患者が腹痛を訴えるので内科の診察をお願いします」と夜勤の看護師の電話に呼ばれて自宅から病院に駆けつけたら「もし腹痛が起きたら、と心配で心配で寝られません」だったということもありました。カルテを見ますと、以前から不安が強くなると腹痛の発作も起きるが、精密検査をしても原因は不明(おそらく心因性)とのことでした。これはどちらかというと心療内科か精神科の領域の訴えです。で、さらによくよく見ると当の患者さんは精神病棟に入院していて、当日の当直は精神科医。「腹痛」という単語だけで内科の私が呼ばれたわけですが、最初から当直がゆっくり話を聞いていれば(起こされた当直医以外は)皆が早く幸せになれたのになあ、と思ったものでした。あまりお金のことは言いたくありませんが、当直料をもらっている当直医はぐうぐう寝ていて、こちらは無料ボランティアでその人のために夜中に仕事をしている、というのはなんとも理不尽な思いをするものだ、と思いましたっけ。
 さらに、看護師の仕事に「当直医の意を受けてそれらしい医師を紹介すること」はありません。なぜなら、患者を診察して治療や紹介をするのは医師の仕事なのですから。
 もしも当直の看護師が患者の状態を見て「今夜の当直医はアテにならないから他の医師に任せよう」と勝手に判断したとしたら、看護師法にはそんな規定はないはずですし、そもそも当直医のことを無能と判断しているのだから当直医は「ゆっくり眠れた」と喜んでいる場合ではなくて怒らなくてはいけないはずなんですけどね。


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2010.08.13 07:15 |  その他(医療関連)  |  社会・歴史  |  おかだ  | 推薦数 : 1

末裔

 昔々「滅私奉公」とか「鬼畜米英」ということばがありました。そう言った言葉が大好きな人たちは「自分の(というか、お上の)考え方に賛同しない人」を「非国民」と口をとがらして、幸せそうに責めまくっていました。
 今、たとえば「医者が休みをとろうだなんてナマイキだ」「医者は患者に滅私奉公をするべきだ」と主張する人は、戦前に「滅私奉公」「お上に逆らう者は非国民」と声高に言っていた人々の正当な末裔と言えるでしょう。同じ構造の発想ですし、特に医者を責める口のとがらし方は、「非国民」と攻撃していたのとほとんど同じはずです。(ついでですが、「社会は自分の味方だ」と思っている人たちに公然と責められているのは、医者には限りませんね)


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