先月の「鉄」では第2巻を紹介した漫画『とろける鉄工所』の第4巻を読んでいると、「工場のきれいな夜景の写真集」がネタとして登場しました。書店でバイトするさと子さん(高校を卒業したばかり、くらい)がそんな写真集を売っているのを見つけて「夜景とかキラキラしとるじゃろ。見てみたらおもろかったよ」と父親の小島さん(のろ鉄工の班長)に話しかけると、小島さんは「お──、確かに工場の夜景はきれいよの──。中の人間も遅うまで働いてたいへんじゃのーって切のうなる光よのー」。小島さんは「溶接でしんどい残業を日常的に繰り返している工場の“中の人”」なのです。
正直私は夜景をそんな目で見たことがありませんでした。夜鉄道で移動しているときなど、通りすぎる町の夜景を見て「あの明かりの一つ一つの下に、それぞれの生活があるんだなあ」くらいは思いますし、花火大会の時に花火師の人たちが暗がりで苦労しているのだろう、と想像するくらいはしますが。
だけどコンビナートの夜景などを遠くから見たら私もつい「きれいだな」と思ってしまう口です。自分の感受性には鈍い部分があることに気づいて、ぎょっとします。
例によって、医療に話を引き取ります。
医療者がきりきり舞いで働いていることに対して、口では「大変ですねえ」と言いながら、どこか覚めた目をしている人は世の中に多くいます。それはつまり「工場でしんどい思いをしながら残業や夜勤をしている人の姿」を遠くから眺めて「きれいな夜景だなあ」と思っている人と同じ態度(感受性)ということかもしれません。
たかが漫画、とあなどれないのは……
『とろける鉄工所(4)』野村宗弘 作、講談社(イブニングKC)、2010年、580円(税別)
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