私が大腸内視鏡(ファイバー)を習った頃には、ファイバーの操作は二人がかりでやるものでした。検査医師がファイバーの操作部を持って接眼鏡から大腸の内部を覗き、もう一人(看護師または医師)が肛門のところでファイバーの先の方を握りしめます。そして検査医師からの「押して、押して、引いて、ストップ」の指示に従ってファイバーを少しずつ前後させます。検査医師はハンドルを操作してファイバーの先端を上げたり下げたり左右に振ったりし、さらには全身をくるりと回してファイバー全体を回転させたり空気を入れて腸を膨らませたり吸引してしぼませたりして、屈曲している大腸の中を二人掛かりで進んでいくのです。当時は肛門に入れてから盲腸に到達するまで、20~30分はかかる難行でした。(検査する方も汗みどろになりますが、検査される患者さんには苦痛に満ちた過程だったのです。やっている内にわけが分からなくなって、レントゲン透視で確認することもよくあり、放射線も浴びなければなりませんでした)
やがてアメリカ帰りの医者によって「ワンマンメソッド」がもたらされました。これは画期的でした。それまでの方法で一番難しい難所はくねくね曲がっているS字結腸ですが、そこをわざとループ(「αループ」とかそれを反転させた「逆αループ」と呼んでいました)をつくって通過させ、そこでくるりんとファイバーを捻ると、あーら不思議、ファイバーは腸ごと直線化しそのままするすると奥に入れることができるではありませんか。慣れると盲腸まで半分以下の時間で到達できるようになりました。
今では一人で(短時間で)やるのが当たり前になりましたから、わざわざ「ワンマンメソッド」なんて言い方はしていないはずです。これは「二人でやる」のが前提の言葉ですが、今では「一人でやる」のが前提ですから。
そういえば私は変わった二人掛かりの大腸ファイバーをやったことがあります。大腸の手術の時に開腹して腸を触っていた外科医が「腸の外からだと病変の広がりがわからない」と言い出したのです。待機していた私は患者さんのお尻から大腸ファイバーを挿入しました。すると待ちかまえていた外科医が、お腹の中で私が入れる大腸ファイバーにかぶせるように腸をどんどん手で送ってくれたのです。接眼レンズの中では、腸の内部がまるでジェットコースターのように早送りで移動してくれました。で、病気の場所まであっという間に到達したら、あとは外科医が指で腸を押さえると腸の内部にでっぱりができますからそれを見ながら「もうちょっと口の方、もう1cm」とか私が指示を出します。そうして内側から見える病変の位置と範囲を決めてから私は撤収。
あそこまで「高速移動」をやったことはそれまでもそれからもありませんでした。もう一回と言われてもお断りしたい気分ではありますが。だって、レースカーの車載カメラの早送りの映像を見せられているみたいで車酔いをしそうな気分だったのですから。
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