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2010.05.11 18:28 |  診療  |  その他(医療関連)  |  社会・歴史  |  おかだ  | 推薦数 : 2

江戸の名医

 時代劇で、患者宅へ往診した医者が患者のお腹に触るなり「これは胃癌だ」と診断するシーンがあります。今の医者は、レントゲンだ超音波だカメラだ生検だ病理検査だ血液検査だと大騒ぎをしてやっと胃癌の診断をつけるのに、手でちょちょいと触っただけで一瞬で診断をつけるとは、これは江戸時代の医者の方が今の医者よりレベルが高いのではないか、と思いません?
 思いません。
 だってそれは「触っただけで胃癌、それも末期とわかる状態」なのですから。江戸の庶民は基本的になかなか医者にかかりません。たっぷり時間をかけてごつごつに腫れ上がった癌腫は、触った瞬間に、原発(もともとの発生臓器)が胃かどうかは別として、「これは大変な癌だ」とわかります。どんな医者でもね。いや、医者でなくても一度でも触った経験を持った人には素人でもわかります。さらにそれだけ進行していたら、食欲は落ちて(あるいは食べ物を受けつけなくなって)しばらくまともに食っていない状態が続いていますから当然腹の脂肪も腹筋も紙のように薄くなり腹の中はますます触りやすくなっています。それだけ“好条件”が揃っているからこそ、医者は触った瞬間に「あ、これは」と眉をひそめることができるのです。私のような藪医者でも、そうなった状態の癌だったら、何の予備知識がなくても触った瞬間に眉をひそめて差し上げることが可能です。(『赤ひげ診療譚』でのエピソードのように、末期胃癌のように見えて実は膵臓癌、というのを触っただけで診断したのなら「江戸時代の医者、エライ」と言って差し上げますが)

 上記が信じられない人にはどんな例を示せばいいのかなあ。現代医学が大騒ぎして見つけた早期胃癌の人を江戸時代につれていって、その時代の医者にお腹を触ってもらいます?


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2010.05.11 06:49 |  診療  |  その他(医療関連)  |  おかだ  | 推薦数 : 0

傷が治る

 ぱっくり傷が口を開けているとき、ふつうは縫われます。ときどきそこで勘違いをする人がいるのですが、これ、「縫うから傷が治る」のではありません。縫わなくてもふつう傷は治ります。ただ、治るのに時間がかかったり化膿したり治ってもその跡がでこぼこできれいではなくなる可能性が高くなります。つまり「(縫わなくても治るけれど)縫うと傷が早くきれいに治りやすい」が正しい表現ということになります。

 「傷が治る(創傷治癒)」は、切断された二つの組織がくっつくという単純な現象ではありません。炎症が起きてあちこちから様々な細胞が集まります。本来の組織は細胞分裂を起こし、切られて別れた反対側の組織と混じり合おうとします。出血が起きるからその血塊を処理する必要もあります。そして、「もとと同じ状態」に戻ったら治癒過程はストップしなければなりません。私たちが日常生活で何か壊れたものを接着剤でくっつけるのとは、相当違うお話なのです。

参考サイト
創傷治癒


 大きな傷の場合、別れた二つの組織をできるだけぴったりくっつけておくと、再生された細胞同士が混じり合うのが早くできます。間に余分なもの(血塊や壊死組織など)がはさまって邪魔する可能性も減ります。そのために医者は糸を使って“仮止め”をします(表面だけくっつけたら、その下にでかいポケットができますから、糸で傷の下部同士も物理的にくっつけておくわけです)。
 私はよく紙で手を切ります。こういった傷の場合は浅く表面だけ切れてますから、皮下組織の「ずれ」はありません。だから清潔な状態で傷を閉鎖しておけばそのまま自然にくっつきます。この場合には最近発売されているテープ剤で(もしかしたらセロテープでも)十分です。あまり粘着力が強力だったら、せっかく張った薄皮がテープをはぐときにはがれてしまうかもしれませんが。
 そうそう、「傷を接着剤でつけられないのか」と聞かれることも時々あります。問題は二つ。まず、濡れた生体同士をきちんと接着するのは困難です。よく接着剤の説明に「接着する表面の汚れを落とし」などと書いてありますが、濡れていろいろくっついている傷口はまさに「汚れ」だらけです。また、うまく接着したとして、こんどはその接着剤が「異物の壁」となります。その層を越えて細胞が混じろうとしても無理。つまり「くっついてはいるが、治癒はしない傷口」になってしまいます。濡れたところにも強くてじわりじわりと吸収されるタイプの接着剤が開発されたらそのうち「一塗りでどんな傷も治っちゃう」というCMが始まるかもしれませんが。

 褥瘡は、切った傷とは違って、表皮が広く脱落しています。だから両側を合わせて治す、ができません。そこで今はラップ療法(文字通りラップを張りつける)が流行です。ラップで覆っておけば傷がじゅくじゅくとして、細胞は大喜びで増殖して褥瘡を埋めてくれる、という寸法です。

褥創(褥瘡)のラップ療法
新しい創傷治癒


 浸出液が多い褥瘡の場合には、傷の閉鎖と浸出液の排出とを両立させなければなりません。穴あきビニール袋(台所の流しで使うやつ)に紙オムツを詰めてあてがう、というのがお勧めだそうですが、それではあまりに見映えが、という場合には医療用の良いシートもあります。値段は張りますが。
 ただ、いくら医療材料が進歩しても、褥瘡予防には除圧と体位変換、という基本を忘れてはいけません。医療者と患者と、両方が楽になるのはよいことですが、手抜きをすることは良いことではありませんから、身動きが取れない人に対してはまめに体位交換が必要です。


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