学生の時によく出入りしていた基礎系の教室で教授に、「行きつけの中華料理屋の料理長は、すごい高級料理店で修行した人なんだけど、町で店を開いたら『毎日注文されるのは酢豚と中華丼ばっかりで、せっかく修行した難しい料理を注文してくれるお客が来てくれない』と嘆いている。医者も似たようなもので、僕が小さな病院にいたときには、毎日来るのは風邪と腹痛だけだった」などとこちらの未来への意欲を減退させるような話を聞かされたことがあります。
ということで(どういうこと?)、今日のお題は「風邪」と「胃痛」。
昔から時々、「風邪です」と医者にかかったら「それを決めるのは医者です」としかられた、という投書やネットでの書き込みを見ることがあります。もちろん「患者を怒鳴りつける医者」なんて碌なもんじゃありませんが、ただそこにも「一分の理」はあります。
医者の立場から説明すると、二つ理由はあります。
1)「風邪」と言うだけで黙ってしまわれると困る。鼻風邪、のど風邪、咳の風邪、それぞれ薬は違うから「風邪です」ですませないで、「どんな風邪か」をどんどん説明して欲しい。
2)「風邪ではない病気」のこともあります。その場合「あなたはたぶん風邪ではありませんよ」と言うとそこで「自分は風邪だとちゃんと判断してきたのに、それを軽々しく否定するのか。お前は自分が医者だと思って患者をバカにするのか」と怒り出す人がいます(実話です)。ですから出発点を「風邪」ではなくて「症状(鼻水とかせきとか)」にしておきたい。
「胃の痛み」も同じです。「心窩部痛=鳩尾(みぞおち)の痛み」は多くの人によって「胃が痛い」と表現されます。それは「間違い」とは言えません。たしかに心窩部には「胃」がありますし、その場所が痛んでいるわけですから。ただ、問題が。まず心窩部にあるのは「胃」だけではありません。右からは肝臓が張り出しているし腸もぐにゃぐにゃとそのへんをのたくり回っているし奥の方には膵臓もあります。さらに痛みを感じる場所に痛みの原因がない場合があるので油断ができません。たとえば下腹部や胸からの痛みの投影があります(専門的には「関連痛」と言います)。
「盲腸(虫垂炎)」のとき、まずみぞおちが痛んでそれから右下腹部が痛くなった経験を持っている人は多いはずです。これは腹の中の自律神経が鳩尾のあたりに集中しているので、とりあえず腹の中のどこが痛んでもその痛みが神経を伝ってみぞおちに投射されるからです。さらに胸の病気から心窩部痛を感じることがあります。たとえば、狭心症や心筋梗塞です。「『胃』が痛いから診てもらっているんだ。それとは関係ない胸のどきどきのことは言わなくて良いだろう」なんて判断をされてしまうと、間違いの元になります(もちろん「胃」ばかり見つめた医者が免責になるわけではありませんが)。ですから「関係ある」「関係ない」の判断はとりあえず医者に任せて、自分が感じていることはとりあえず全部言っておいた方が、結果が吉につながることが多いです。
固定リンク
|
コメント (0)
|
トラックバック (0)
トラックバック
この記事のトラックバック URL
http://blog.m3.com/ishi-atama/20100507/2/trackback
コメント
コメントはまだありません。
コメントを書く