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2010.03.15 18:27 |  生活 / くらし  |  映画 / 音楽 / 読書  |  その他(医療関連)  |  社会・歴史  |  おかだ  | 推薦数 : 1

こげ

 ディズニーのミュージカル映画「メリー・ポピンズ」には、煙突掃除人たちがロンドンの屋根の上で歌い踊りまくる印象的なダンスシーンがあります。黒いお顔の陽気な職人たち、というイメージですが、実際には彼らの生活は悲惨でした。ススまみれで狭い煙突を掃除するという劣悪な労働環境や低賃金なども問題ですが、職業病として陰嚢癌が多発したのです。(労働環境と職業病だけでも悲惨な話ですが、もう一つ、狭い隙間に潜り込むために少年が多く使われていたことも、その悲惨さに輪をかけます)
 病気の原因はススでした。西洋ではあまり入浴の習慣はありませんでしたし、さらに昔は清潔という概念もありませんでした。体中ススまみれですがおそらく顔や手を拭う程度で、特にくぼみ(たとえば股ぐら)にススが貯まってずっと接触を続けそこで発ガン性を発揮してしまったのです。
 そういった化学的な発ガン現象を世界で初めて科学的に実験で証明したのが1915年(大正4年)の東大での山極・市川の実験です。彼らは来る日も来る日も兎の耳にコールタールを塗り続け、約半年で癌を作ることに成功しました。画期的な研究です。「癌の原因(の一つ)」を明確に証明したのですから。今だったらノーベル賞ものではないかと思いますが、ジフテリア抗毒素の北里柴三郎や鈴木梅太郎のビタミン発見と同様、西欧からは高い評価は得られませんでした(*)。
 この現象を難しい言葉を使うと、多核芳香族炭化水素による発ガン、と言うこともできます。私は舌を噛みそうなので言えませんが。

*)そのへんの事情について参考になることが書かれている本があります。『ノーベル賞その栄光と真実 ──科学における受賞者はいかにして決められたか』イストヴァン・ハルギッタイ 著、 阿部剛久 訳、 森北出版、2007年、5800円(税別)


 何年前だったかな、「魚や肉の焦げた部分を食べると癌になる」という報道が大々的にされました。
 「がんを防ぐための12ヵ条」(がん研究振興財団)にも「8.焦げた部分はさける −突然変異を引きおこします−」という記述があります。

※ついでですがこのサイトで使われている「12ヵ条」という表記は、「12箇条」または「12ヶ条」の方が日本語としては好ましいのではないかと私は感じます。(「ヶ」はカタカナの「ケ」ではありませんし「か」とは読みますが「カ」でもありません。「ヶ」は「箇」を略した記号ですから、それを「カ」や「か」で“代用”するのは国語的には間違いです。本当は「12」の部分も「十二」にしたいのですが、そこまで言うと窮屈なのでそちらは妥協します)


 科学的には、アミノ酸に熱を加えるとたしかに発ガン物質「ヘテロサイクリックアミン」が発生します。これは確かなことです。
 「ならば焦げた部分はコワイから避けなきゃ」……ちょっと待って。
 もし事実に「科学」を用いるのなら、思考にも「科学」を用いなければなりません。で、「発ガン物質」という「リスク」が存在することがわかったら、次にするべきことは、感情的な「忌避」ではなくて、科学的な「リスク評価」です。リスクが高いもの(たとえば発ガンが数mgでも見られる物質)ならそれは避けるべきです。しかしリスクが低いもの(たとえば発ガンが数トンでやっと見られる)ものなら積極的に避ける必要はありません。不必要に気にせずに日常生活をすればよろしい。

 で、私が調べた限りでは、黒こげになった魚を2万尾ほど食べればラットはガンになる可能性がある、ということのようです。ラットより人間の方が体重があるから、その分黒こげの魚もたくさん(数十倍?)食べる必要があります。さらに、ラットですから文句を言わずに黒こげを食べますが、人間はがりがりの炭の部分はたぶん除けます。だとすると、何がコワイのでしょう?

 そうそう、「焦げた魚」から、話が一挙に「お焦げ」全般に向かう人もいます。ご飯のお焦げや焼きおにぎりもコワイ、と。実際にお米にもアミノ酸はけっこうたくさん含まれていますから、それを焦がせば発ガン物質が生じる可能性はあるでしょうが、だからといって焼きおにぎりを食べるたびに「癌が、癌が」と叫ぶのはそちらの方がむしろ不健康な態度に私には思えます。(同じ食べるのなら「炭水化物を焼いたら炭になる。炭は健康に良い」なんて言いながら食べた方が気分は朗らかになって免疫機能が高まる、なんてことは期待できないかな?)
 あ、焼きおにぎりの場合は焦げているのは米よりも塗ってある醤油の方ですかね。でも、それをたとえば数トン食べることが可能ですか?



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