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 『太平洋ひとりぼっち』(堀江謙一)で、搭載品目録の中に「〈盲腸炎どめ抗生物質〉1クール」がありました。「6時間おきに3日のめば散る」のだそうです。
 堀江さんのこの冒険航海は昭和37年。たしかにあのころは「盲腸(炎)を散らす」と言っていましたが、そのための抗生物質が市販されていたとは知りませんでした。軽い感染だったらそれで症状がおさまるでしょうが、もし手術が必要なくらいの状態だったらもう内服薬では手遅れでしょうね。というか、堀江さんは「自分が〈盲腸炎〉かどうか」をどうやって「診断」するつもりだったのでしょう?  航海中に腹をこわしたときも、けっこう適当に判断していますが。

 ちなみに私が住む市では、外科の有床診療所が二十世紀末ころからどんどん無床化され、そのおかげで「盲腸(急性虫垂炎)」を発見した場合にどこに紹介して良いのか悩む事態になっています。とりあえずは外科の病院か総合病院くらいしか思いつかないのですが、いっそ特効薬で散らした方が良いのかな?


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2010.03.08 06:55 |  映画 / 音楽 / 読書  |  その他(医療関連)  |  社会・歴史  |  おかだ  | 推薦数 : 2

安全な冒険

 『太平洋ひとりぼっち』(1962年、堀江謙一さんのヨットでの史上初単独太平洋横断)を数十年ぶりに再読しました。子供時代に読んだときには「冒険」にわくわくすると同時に「言っていないことを『言った』と報道」「やっていないことを『やった』と報道」「プライバシーを執拗にあばく」マスコミの態度と「ルールに異様に固執するお役人」に不快感を覚えましたが、今回もその感を深くしました。
 日本では当時「きちんとした目的がないとパスポートは発行しない(外貨も持たせない)」方針でした。堀江さんは旅行エージェントに就職までして情報収集しますが、どんな裏口をたたいても「小型ヨットで出国」する合法的手段はありませんでした。しかたなくパスポート無しで出国したので「密出国」です。それは当然アメリカへの「不法入国」になります。したがって日本側は「強制送還」を期待します。なにしろ「人命軽視の暴挙」を行なったアホな若者なのですからお仕置をするべきなのです。
 ところがアメリカでの対応は(日本の期待を裏切って)「咸臨丸以来の画期的壮挙」「絶賛」「名誉市民」でした。それを知った瞬間日本の報道は手の平を返します。「暴挙」を「快挙」へと。(ついでですが、堀江さんは、売ろうと思えばいくらでも高く売れたはずのマーメイド号をアメリカに寄付しました。そのことがこんどは、在留邦人の地位を高めることになっています)
 「君子豹変す」という言葉がありますが、これは「抜け替わる豹の毛皮のように美しく変わること」を意味するポジティブなことばだそうです。ですからマスコミの「手の平返し」そのものは否定しません。ただそのきっかけが「アメリカの評価」であるところが、情けない。「自分の判断」「自分のポリシー」はないのか、と言いたくなります。あ、「君子豹変す」には、「小人は面を革む(君子とは違って小人は表面だけ改めるが本質は変わらない)」が続きますので、さて、マスコミは変わるとしてもそちらの方かな。

 今回読んだのは89年発行の新しい版(*1)で、後書きに太平洋単独横断の“後日談”がついています。そこで堀江さんが次に行なった単独世界一周に対するマスコミや石原慎太郎の“評”を読んで、私はその狂騒ぶりと評価の的外れぶりにあきれましたが、やはりマスコミは最初の単独行のときと本質的に同じ行動をしています。自分が理解できないものに対して「とにかく否定したい欲望」があるようです。
 『太平洋ひとりぼっち』で見る限り、役人やマスコミの共通点は「自分が理解できないもの・不確実なものを嫌悪する」あるいは、「100%安全な冒険」を好むことなのかもしれません。「アメリカ人のポジティブな評価」があったら、一時的に「面を革(あらた)」めはしますが。
 「日本の医療はクズだ」と狂騒的に責めていた論調が、「WHOの評価……」「OECDの評価……」が知られるようになったら妙に矛先が鈍って、でも鬱憤晴らしのように他のこと(「たらい回し」とか「暴走するネット医者」とか)で「やっぱりクズだ」と責めようとしているのと、どこか似ています。
 医療にも「冒険」、と言ったら言い過ぎかもしれませんが、少なくとも「不確実」な面があります。そしてそれは役人やマスコミには理解できない、あるいは好まれないものなのでしょう。「100%安全確実であるべきだ」と。しかし、医療は役人やマスコミの機嫌を取るために存在しているものではありません。患者(およびその予備軍)のためのものです。「医療が不確実なのは許せない」「すべて医者が悪い」とひたすら言い立てる人たちが「豹変」する日が、いつか来るんですかねえ。


*1)『太平洋ひとりぼっち』堀江謙一 著、 ぐるーぷ・ぱあめ、1989年、1748円(税別)


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