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「見送り」はかつては重要な行事でした。『土佐日記』では見送りだけで何日もかかっています。江戸時代にも、江戸から旅立つ人には見送りがぞろぞろとくっついて次の宿場くらいまでは同行してそこで名残を惜しむのは(その余裕があれば)ふつうのことだったようです(『奥の細道』にそんなシーンがあったように記憶しています)。旅立ちに水杯が必要な状況では、見送る側にも見送られる側にも特別な感慨があったのでしょう。
昭和の時代にも、来客が帰られるときには家人は外に出て、姿が見えなくなるまで見送る(客も道の角を曲がるなど姿が見えなくなる直前にちょっと振り返って会釈をする)のが礼儀でした。
私は無礼者なのでそんなことにはあまり構いませんが、家内は古風を現代に伝える人間で、必ず昔ながらの見送りをやっています(で、私も気が向けばそれに付き合うことになります。決して、耳を引っ張られるとか無言のプレッシャーをかけられるとかではありません、はい)。
で、この無礼者が診察室ではどうなのか、とふと思ってしまいました。「それでは、お大事に」と挨拶した直後、立ち上がって診察室から出て行く患者さんの後ろ姿を私は“見送って”いるか、と。
冷や汗を感じます。私はおそらくほとんどの人で見送りをしていません。カルテを書いたり処方箋を書いたり検査伝票を書いたりレントゲンフィルムを片付けたり次のカルテを手に取ったり、とにかくすぐに机の方を向いてせわしく(あるいは、せわしなく)しているはずです。もうすぐ電子カルテになる予定ですが、その場合でも事情は同じでしょう。
ちょっと反省。1〜2秒のことなんですから、後ろ姿を見送ることにします。その余裕が全然ないときには、ごめんなさい、ですが。
ちなみに、病院で単に「お見送り」と言ったら、多くは亡くなった方が帰宅されるのを関係者一同で見送ることを示す意味になります。この場合はほとんどの人は霊柩車が見えなくなるまで見送ります。(車が動きだしたらすぐ病棟に戻る人も中にはいますが) ただ、元気になって退院される人を一同で送る場合も「お見送り」なのでややこしいなあ。
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