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嚥下障害で困ることはいくつもあります。
・食事が進まないから栄養状態が悪くなったり脱水になる。
・食事時間が長くなって周囲の人間が困る。
・むせてあちこちにいろんなものが飛び散る。
・窒息の危険がある。
・誤嚥で肺炎になる。
患者さんがむせたらまだわかりやすいのですが、困るのは単に食事時間が長くなっただけと見過ごされてしまったり、あるいはむせるのがいやで食べたがらないのを拒食と間違えられることです。
ところがこの嚥下障害、様々な原因でおきるし症状の出方も様々なので、見る目で見ないと見逃しちゃいます。見逃しは困ります。患者さんが不幸になりますから。
別の意味で困るのは、完全主義の人(医療者)です。「嚥下障害の疑いがある場合には、嚥下内視鏡でのどの動きを確認するべきだ。さらに、嚥下造影検査をしなければならない」などと主張する人が日本のあちこちにおられるのですが、そんなことを言われたら、嚥下障害の疑いを持つべき対象が大量に存在するところ、つまり、介護が必要な老人が集中している施設(介護保険の施設、老人病院など)はすべて耳鼻科と内視鏡と嚥下造影検査ができる環境を持たなければならないことになります。
もちろんそれは理想ですが、現実的な提案と言えるでしょうか? 理想に合致しないところはすべて失格というのでは、困るのです。(私は、理想を無視するのは「怠慢」、理想をひたすら他人に押しつけるのは「傲慢」、理想と現実の折り合いをつける営為を「生活」と定義づけています)
ただ、嚥下障害の専門家がいない老人病棟で働く一般内科医でもできることはあります。「これは専門家に相談するべきだ」の見極めです(逆に言えば、「防げる事故や不幸な転帰は防ごう」となります)。そのために最低必要なのは、目と聴診器とスプーン。
具体的には、RSST(反復唾液嚥下テスト)(空嚥下を繰り返してもらう)、嚥下音を聞く、食事や間食の食べ方の観察がまず基本となります。おっと、その前に「肺炎を繰り返していないか」の病歴聴取も忘れてはいけません。
あとは水飲みテストやフードテストですが、詳説はしません。興味を持った人はちゃんとした本や講習で勉強してください。ただ、本によっては注射器での飲水テストが書いてある場合がありますが、私はこれはお勧めしません。だってちょっとした力加減で「水鉄砲」になっちゃうんですもの(経験者は語る)。
参考サイト:
「機能的嚥下障害スクリーニングテスト「反復唾液嚥下テスト」」(the Repetitive Saliva Swallowing Test: RSST)の検討 (2)妥当性の検討 (国立情報学研究所)
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「在郷軍人」と聞いたら内科医はまず思う病気があるのですが、それは後に回して、世間一般での「在郷軍人」について。これは予備役(軍は退役して地域に戻っているが、定期的な訓練は続け、「いざ鎌倉」のときにはすぐに現役に戻れる人)の人たちで、その集団が「在郷軍人会」です。平和なときに巨大な軍を維持するのはコストがかかるが、戦争が勃発してから新兵を訓練するのは時間がかかるので、その両者をにらんでバランスを取った制度、と言えるでしょう。
軍隊を持つほとんどの国にこの制度はあるそうです。日本の自衛隊だったら隊友会(自衛隊が軍隊かどうかの議論はしません。実態を見たら判断できますから)。
そう言えば先日読書感想を上げた『流行性感冒 ──「スペイン風邪」大流行の記録』(内務省衛生局 編、平凡社(東洋文庫778))にもマスク(呼吸保護器)の普及を在郷軍人会や愛国婦人会や赤十字支部などが行なったことが記録されていましたっけ。裏は取っていないただの想像ですが、戦前に各学校で行なわれていた軍事教練にも在郷軍人会が協力していたのではないかな、というか、私が為政者だったら絶対にその目的に使います。現役将校だけではすべての学校に配属するにはとても数が足りないでしょうから。
アメリカではたしか在郷軍人会は政策に影響を与えるためのロビー活動をする団体でもあったはずです。
で、ここから「後」に回していた話題の始まり。
1976年(昭和51年)にアメリカ、フィラデルフィアのホテルで開催された在郷軍人大会の参加者から、大量の肺炎患者が発生しました。221人が発症し29人が死亡した“事件”です。検出された病原体はレジオネラ菌。これは「水」を好むのですが、ホテルのエアコンの冷却塔の水槽で繁殖し、水の飛沫とともにエアコンの空気の流れに乗って部屋の中にスプレーされたことが集団感染の原因だったそうです。
最初に在郷軍人が大量に患者になったためにこの病気は当初「在郷軍人病」と呼ばれました(「legion」は古代ローマの軍団や在郷軍人会を意味するので、菌もそれにちなんで命名されています)。文字だけ見たら「在郷軍人」がなる病気のようですが、もちろんそれは誤解で、誰でもなることができます。日本では「循環型の24時間風呂」での感染が有名です(再利用され続ける適温の水が絶好の“培地”になってしまう)。
困ったことにレジオネラ菌はそのへんにいくらでもいます。さらに困ったことにレジオネラ肺炎は重症化することが非常に多く、さらに一般肺炎でよく使われるβラクタム系の抗生物質が効きません(ついでに肺外症状(消化器症状や低ナトリウム血症、頭痛など)もよく出るのが特徴です)。ただ、幸いと言って良いのかな、人→人への伝播はないとされているので、隔離は不必要です。
もしどうしても24時間風呂がお好みなら、無防備に「古い湯」に入るのではなくて、定期的に高熱で殺菌をするタイプや定期的に掃除やメンテナンスをしてあるものに入った方が良いです。温泉だったら、かけ流しの所へどうぞ。塩素消毒の所だったらたぶん大丈夫ですが、塩素消毒の温泉って、温泉自体の効能が損なわれていないのかな?
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