帝王切開については以前書きましたが(「帝王切開」)、最近、日本で初めての帝王切開を扱った小説を読みました。
日本初の帝王切開分娩は、明治12年横浜、エルドリッジらによって全身麻酔下で行なわれました。しかしそれから27年前に、埼玉の山奥で「日本初の子宮切開分娩術」が行なわれていたのです。それを題材としたのがこの『いとしきもの すこやかに生まれよ』です。
日本初の帝王切開と言えば、私は『正丸峠の帝王切開』という短編を思い出します。こちらも、『いとしきもの すこやかに生まれよ』と同じ医師たちの苦闘を描いた短編で、『闘う医魂』(篠田達明)に収められています。5年近く前に読んだものなのでもうほとんど内容は覚えていませんが、作者が医師でもあるからでしょう、手術シーンがとてもリアルで血なまぐさかった記憶だけは残っています。
『いとしきもの すこやかに生まれよ』では手術シーンは克明には描写されません。手術記録からの乾いた引用がメインとなります。こちらの方では、「医学」よりも、武州の片田舎に生まれたごく普通の人間が、様々な人為的な妨害や運命のいたずらに耐えて、自分の本意を達成しようとした「人生」とそれを取り巻く「時代」の方に力点を置いて描いていると私は読みました。さらに、ときおり混じる自然描写が爽やかな印象です。
『闘う医魂 ──小説・北里柴三郎』篠田達明 著 、文藝春秋、1994年、1456円(税別)
『いとしきもの すこやかに生まれよ ──日本初の帝王切開物語』秋山圭 著、 郁朋社、2009年、1000円(税別)
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