テレビや映画の冬山遭難のシーンで「寝るな! 眠ると死ぬぞ!」と絶叫する演技があります。
さて、それはどうしてなんだろう、と不思議に思ったことはありませんか? 私はあります。
吹きすさぶ強風と低温と一面の雪氷という環境で安眠ができるとは思いませんが、「眠るな寝たら死ぬ」ということは「起きていたら死なない」というわけですよね。その「わけ」がわからないのです。普通の環境では寝れば副交感神経が優位となるから体温は少し下がりますが、凍死するくらいには下がらないように思えるのです。
寒い環境では体温が奪われます。また、強風下では風に体温が奪われます。高校生の時に何の本かは忘れましたが「風速1m/秒ごとに体感温度は1°C低下する」と読んだ記憶があります。するとバイクで時速54kmで走るとそれは秒速15mですから体感温度は外気温より15度下になっているからそれに合わせた服装を、なんて計算をして、大体それで合っていたように思います。すると冬山では環境温度がマイナス20度で風速が40m/sだと体感温度はマイナス60度! よほど装備がしっかりしていないと、これは寝ようが起きていようが、低体温症ですぐ死んで(凍死して)しまいそうです。
ネット検索をしたらこんな式が見つかりました。「体感温度」(wikipedia)
気温(摂氏)をt、湿度(%)をh、風速(m/s)をv として
ミスナール体感温度(摂氏)
M(ミスナール体感温度) = t - (0.8-h/100)(t-10)/2.3
リンケ体感温度(摂氏)
L(リンケ体感温度)=t − 4×√v
リンケでは、風速9m/sだと12度↓、風速16m/sだと16度↓、風速25m/sだと20度↓、風速49m/sだと28度↓、となります。風速20m/sくらいまでなら「風速1m/秒ごとに体感温度は1°C低下」と概算で言っても良さそうではあります。
ただ、恒温動物の場合は環境温度が下がっただけでは即座に体温はそれに合わせて低下はしません。アラスカで犬ぞり旅行をした人の旅行記に、犬が雪に潜り込んで眠ることが書いてありましたが、それだけ見ても「雪の中で寝たら死ぬ」わけではないことがわかります。もちろん犬は毛皮を着ていますが、それは人間も犬の毛皮に相当するものを着れば同じ条件のはずです。さまよい歩いて体力が奪われ、汗をかいて下着が濡れて断熱性が低下し、腹も減って血糖が低下、といった条件が重なったら危ないでしょうが。
「低体温症(Hypoxia)」には、軽症(深部体温32度以上)の場合には「眠ると体の震えが止まるので、体が温められるまで、許してはいけない」とあります。そして重症(深部体温32度未満)の場合には「震えが止まる」とも。すると、がたがた震えている人の場合には「寝るな」が有効、とは言えそうです。でも映画などの場合には大体ぐったりと眠たそうになっている人に向かって「眠るな、寝ると死ぬぞ」と言ってますよね。というか、がたがた震えながら眠りにつこうとする人って、遭難現場でそんなに多いのかな?
結局、低体温で凍死に向かって意識を失っていく(傾眠になる)のを見た人がその状態を「眠る」と捉えたのではないでしょうか。つまり「眠ったから死ぬ」のではなくて「凍死寸前で意識を失っていってそれが眠るように見える」。だったらそこで周りの人間がするべきことは「その人の熱環境を適正にする(熱産生ができるように栄養補給、冷えないように断熱や保温、あるいは加温の工夫をする)」ことでしょう。「その人が寝ないように努力する」ことではなくて。
そうそう、冬山遭難のニュースを見て「毎年毎年、遭難するのがわかっているんだから、冬山には登らなければいいんだ」と言うのは、夏に「毎週休み明けには溺死のニュースが報じられる。泳ぐと溺れ死ぬから誰も海水浴に行くべきではない」と言うのと同じようなものと私には思えます。大切なのは「冬山登山禁止令」ではなくて「どうやったら遭難しにくくなるか」「遭難したときどうしたら生還できるか」の知恵の普及ではないでしょうか。
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