銀皮症という病気がこの世には存在します。銀を摂取しすぎたためその銀が皮膚に沈着する病気です。
「銀なんか食べるわけがない」
いえいえ、それが“チャンス”はあります。薬品としては硝酸銀。口内炎によく使われます……使われました。今は人気がなくなっているはず。それから、仁丹。あの粒の銀色は、本物の銀(銀箔)だそうです。
いくつかの病院合同の勉強会で私は一度だけこの病気の人のスライドを見た記憶がありますが、その患者さんは病的に仁丹を食べたんだそうです。仁丹の商売の邪魔をしてはいけませんから書いておきますが、普通に口にする程度では銀皮症にはならないそうです(まあ、普通はそうでしょうね)。
なお、銀皮症と言いますが、全身が銀色に光り輝くわけではありません。皮膚に沈着した銀粒子はフィルムと同じような現象で日光で変色してしまい、全身は青灰色から青黒い色に色素沈着してしまいます。患者さんには気の毒な言いようですが、病気の名前と違ってあまりきれいには見えません。
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「はじめてのきんきゅうじたい」の翌日、私は新しい入院患者さんに挨拶をしていました。こんどは肝硬変をお持ちのκさん。重症で、おへそが裏返って飛び出すくらいの腹水が貯まっています。原因は飲酒です。とりあえず肝臓の庇護療法と腹水コントロールを始めて数日後、容体が急変しました。妙に元気になって変なことばかり口走り、病棟を走って階段の方に行こうとしたりするのです。はじめは肝性脳症(肝臓の機能が落ちたために老廃物の解毒ができなくなって、その“毒”に脳がやられてしまう状態)かと思いましたが、実はアルコールの禁断症状でした。これは大変です。とても内科病棟で診ている状態ではありません。病院内の精神病棟は満杯で、結局上の先生が精神病院を手配し、私が救急車でそこまで付き添うこととなりました。
救急車に乗るのは初めてです。家族の方が「先生について行ってもらえるとは、安心です」と言われますが、私はちっとも安心ではありません。なにせ医師免許をもらってまだ1週間なのです。
病院の玄関に救急車が来たと連絡があり、私はκさんが乗る車椅子を押して玄関に向かいました。救急車にあと数メートルというところで、κさんは突然車椅子から立ち上がり、小雨が降る駐車場を走り出しました。泡を食った私は大あわてで追いかけました。幸いあの頃の私は足が速かったのですぐに追いつきましたが、危機管理が甘かったとしか言いようがありません。何が起きるかは予断を許さない状況だったのですから。しかし、駐車場での“鬼ごっこ”、脇から見たら「何の騒ぎだ?」だったでしょうね。
結局それから10日だったか2週間後だったかには、精神状態はけろっと落ち着いて帰院されましたが、肝臓の方はしっかりひどく悪くなっていました。精神病院にも内科医は必要だ、と強く思った瞬間です。
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