私が住む市では、時間外軽症患者の殺到による救急病院のパンクを防ぐために、市医師会が夜間診療所を運営しています。医師会に所属する内科の民間病院の勤務医と開業医が二人一組交代で夜はそこに詰めて、主に軽症の人を診察するシステムです。もちろん皆が「夕方までのその日の仕事」と「次の日の朝からの仕事」を持っていますから、19時すぎから23時くらいが“勤務時間”となっていますが、それでもけっこうな負担です。行くこともですが、留守にしている間の自分のところの手配をどうするかも問題ですから。負担も不満もあるが、みなで分担するからなんとか回すことができる、といった状態です。もちろん大変なのは医者だけではありません。看護師・薬剤・放射線・受付……特に事務担当の人は大変だと思います。すべての出務予定のドクターに連絡をして出務表を作り、必要書類(スケジュール、地図、カルテの様式、薬の在庫品、検査項目……)を各人に送り、前日にはまた確認の電話を入れるのですから。でまあ、遅刻したり、忘れ物をしたり、途中で「緊急で呼び出されたから」と帰る人がいたり、そういった医者に振り回されることもあるのではないでしょうか。
この前、私の当番が回ってきたので行ってきました。日が暮れてからの出勤で、そういえば「夜の蝶」ということばがありますが、私の場合にはのそのそと「夜の……芋虫」?
私自身は、ふだんとは違う環境の診療所で仕事をすること自体には抵抗がありませんので(常勤の病院とは別に、非常勤で診療所に定期的に出張して仕事をする、を2年・4年・2年と計8年やった経験があります)、どんな環境でも即座に頭を切り換えてそこのやり方に乗って診察や記録はできますし、幸か不幸か「専門分野」も持っていないからどんな患者さんがやってきても取りあえずはなんとかするし、で気持ちとしてはけっこうゆとりを持って行けました。基本的に全員「初診」ですから、それはそれで大変ですが、本当の緊急だったら3次救急病院に送ればいいし、緊急ではないが一晩入院させて様子を見たい状態だったら後方支援病院に相談すればいいし、一晩自宅で様子を見ればよい人は薬を処方するかしないかどちらかにすればいいし、と完全に割り切ってもいます。夜間診療所でできる検査は本当に基礎的なものだけですから「精密診断のための検査」をする気もありません(本当はスタッフを充実させて、もうちょい高度なこともやりたいとは思いますけどね。まあでも、無いものねだりをしても仕方ありません)。
仕事を始める前に打ち合わせをしていて、昨年末のインフルエンザピーク時には70人以上の来院で業務終了が1時を過ぎた日があった、と脅かされてしまいました。ま、心配しても始まりません。粛々とお仕事するだけです。
結局二人(今回、パートナーは内科開業のドクターでした)で、30人近い人数を診たので私の仕事量は十数人だったのかな。患者受付状況は机の上のモニターで確認できるのですが(だから「何人たまっている」もすぐわかります)、女子中学生が二人来てどちらも私の方に入ってきたのでちょっとがっかり。親の前でどうやってその子から妊娠しているかどうかを聞き出すのかのテクニックを私は持っていないのです。小児科のドクターはそのへんをどうやってるのでしょう?
インフルエンザを疑ったのが10人足らず、その内半数が検査でA型陽性と出ました。ほとんど発熱外来状態です。それでも21時半を過ぎたらぱたっと客足が止まって、あとはぽつりぽつりだったのでなんとかスムーズに業務終了に持ち込めました。
診察室についてくれた看護師さんには「今度はいつ来ていただけますか?」なんて言われたので、とりあえず私の仕事ぶりは合格点だったのかもしれません。
本当は「夜間専門診療所」が成立すると良いんですけどね。「夜勤だけ」だったらその医者は生活のリズムができますし、こちらも「日勤のあとに慣れないところに夜の出勤」をしなくてすみます。患者としても「夜しか受診できない人」には便利でしょう。
ただ、今の法律では「夜間専門」を謳うと「時間外診察料」を算定できないはずです。「夜間にやる、と最初から言う以上、それは時間外ではない(それがその診療所の「時間内」)」というわけですから。でも人件費(雇う人に払う給料)を「夜間割り増しはなしね」というわけにはいかないでしょう。たとえば「24時間営業するコンビニ」では深夜も日中もバイト代は同じ……でしたっけ? 私が学生時代に深夜のバイトをしていたときには22時だったか23時を過ぎたら時給の割り増しがありましたが。すると収入の平均単価は同じで支出は増えることになります。経営が成り立つかな?
さらに「新規開業は好ましくない」と主張している人々が日本中にいます。開業医を叩けばそれで満足、という人に「夜間診療所を日本のあちこちに開業させたらどうか」と提案したら「開業医が増える」時点で返事は決まってますね。やれやれ。
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時間外救急の特別料金導入が急増 中国地方、5年で3倍 '10/1/15(中国新聞)
▽軽症患者対象、コンビニ受診抑制
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なお、医療の市場が成立するのは一定の患者がいる場合のみです。夜間、救急のみを受ける病院ですと、ひっきりなしに患者が来るのでなければ、職員は暇となる=収入は少ない、でペイしませんから、職員数は少なくしないと経営が成り立たない。ひっきりなしにこさせる=救急は広域で1箇所(アクセスは悪くなるが救急患者数がキンテン化されるので適切な人数配置が容易)、とするか、大幅夜間割り増しで数が少なくとも経営が成り立つようにするか、いずれかが必要となります。お金をかけたくなければ、広域救急を設定し、ひっきりなしに患者が来るようにして救急でもペイさせる、もちろん、職員の深夜割り増しは必要ですから、小幅夜間割り増しは必要でしょうが、それ以上に、救急で入院した患者の対応について大幅な調整が必要です(広域からきても一旦入ったらすぐに地元に戻さないと、広域救急病院はパンクする)。
私が育った地方の県庁所在地は、子供時代には夜8時を過ぎたら中心部でも真っ暗でしたが、今は煌々と明かりがついています。こういった生活パターンの変化に合わせた「救急」「時間外診療」の根本概念からグランドデザインの変更をしないと、これからの医療はますます苦しくなるように思っていますが、「夜、若い者がうろうろするのは見苦しいから、コンビニは深夜は閉めろ」なんて言う人が“上”の方にいる限りそれはちょっと望み薄かな、なんてことも思ってます。
私個人としては「早寝早起き」が好きなんですけどね。
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