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< 図書館のおかげです | メイン | 窒息 >
2010.01.01 07:57 |  診療  |  その他(医療関連)  |  社会・歴史  |  おかだ  | 推薦数 : 1

 あけましておめでとうございます。
 私は親と子どもにお年玉を渡すのに、誰も私にはお年玉をくれません。しかたないのでせめて記事だけでも金ぴかにしてみます。

 「死語(43)慢性関節リウマチ」で「(慢性)関節リウマチ」について書きましたが、最近この病気の診断基準が変わったと聞きました。今までは1987年の診断基準が使われていたのですが、2009年11月にACR(American College of Rheumatology)とEULAR(the European League against Rheumatism)による新しい基準が出たのだそうです。詳しいドクターの解説では、今回の新基準では「抗CCP抗体が加わったこと」「ESRやCRPが加わったこと」「大関節より小関節(手指、手関節、足趾)の疼痛・腫脹が非常に重視されている」点が目新しい、とのこと。吉田兼好は「持つべき友人は、物をくれる人と医者」なんて言いましたが、私に言わせると「持つべきは、最新情報に詳しく、それをかみ砕いて惜しげもなく教えてくれる人がいるメーリングリスト」となります。


 私は、昔々の診断基準(1970年代)を思い出しました。詳しい内容はもう忘れましたが、人の名前がついていたはずです(たしかBで始まっていたと思うのですが、もう記憶が……)。医学生の私は、病棟実習で毎日患者さんの所に行っては、握力・痛む関節の数(特に手指の小関節のすべて)・赤沈の値などをチェックしてはこの診断基準を満たすかどうかのチェックを繰り返していました。もしかしたらその時代の診察にちょいと戻ったということなのかな、と昔日のセピア色(で欠落多数)の記憶をたどっています。


 関節リウマチは、原因不明の病気で、治療は困難でした。昔から薬物(主にアスピリンなどの鎮痛消炎剤)が用いられていましたが決定打はありませんでした。
 第二次世界大戦頃からステロイドが使われるようになりました。これは当初著効を示す(副作用も強い)対症療法薬としての位置づけでしたが、最近では(抗リウマチ薬と似た)症状の進行を遅らせる効果もあると見直されています。
 私が学生の頃に、サラゾスルファピリジン(抗炎症作用と免疫調節作用の両方を持つ)やDペニシラミン(重金属の排泄に使われるが、免疫抑制剤でもある)が関節リウマチに使われるようになりました。ただ、まだ治療は試行錯誤でした。このころ「温めた方がよいから温泉がよい」とか、逆に冷やした方がよいと液体窒素を使った療法も一時騒がれていたことも覚えています。また、関節の変形に対しても当時は「手術してもまたどんどん変形するのだから、むしろしない方がよい」と授業で習ったことも覚えています。しかたないことではあるのですが、医学の限界が低かったことの悲しさを覚えます。今はけっこう手術が平気で行なわれていますね。
 1980年代にメトトレキサート(抗ガン剤です)が登場しました。私が聞いた専門家の話では、とにかく天変地異というか驚天動地というか、「この薬によって、慢性関節リウマチ(当時の呼び名)に関する世界観が激変した」のだそうです。
 20世紀末になって「生物学的製剤」が登場しました。リウマチの炎症を進行させるサイトカイン、特にインターロイキン6やTNFαに働きかける薬たちです。

 なお、上に書いた年代はすべて欧米のものです。厚生省(厚労省)が「欧米で治療が進歩して、患者のQOLが向上してどんどん幸せになっている」のを認めてしぶしぶ日本でその治療法を認可するのに、大体どの薬でも5年から10年の時間をゆっくりとかけています。官僚にとっては「苦しんでいる人を平気で待たせる」ことがつまりは「自分が権力を行使しているなによりの証明」なのかもしれませんが、そういった人の退職金の額を決定するのに退職後10年くらい待たせてやりたい、と思うことがあります。

 さて、治療の歴史で一つ省略していました。それが「金」です。カネじゃなくてキン。20世紀になってから金がリウマチに有効であることがわかりました。ここで『美味しんぼ』の愛読者は「金は人体には影響しないはずだ」と主張しなくちゃなりません(たしか「金の鍋」や「金を食べること」の意味を否定する作品があったはず)。たしかに金属としての金は人体では消化も吸収もできず、金が入ったクリームをお肌に塗っても何も起きませんし、金箔をばりばり食べてもそのまま大便となって肛門から出て行くだけです。なにしろ塩酸どころか硫酸にも溶けない物質なのですから。(なお、金箔ではなくて金塊をばりばり食べるのはお勧めしません。歯形はつくかもしれませんが、咀嚼は難しいはずです……試したことはありませんが)
 だけど「金コロイド」だと話が違ってきます。極めて微小な粒子となった金コロイドは負の電荷を帯び、注射されたら生体中でなにやら怪しげな動きをするのです。『日本医薬品集』には「金コロイド(金チオリンゴ酸ナトリウム)」のところに「【薬効薬理】ラットアジュバント関節炎に対する効果、免疫反応に対する影響、マクロファージや多核白血球の貪食能抑制作用、リソゾームに対する作用等が報告されているが、作用機序に関して確定的な報告はいまだ見当たらない」とあります。平たく言ったら「くやしいことに説明はできないのだが、とにかく使ったらなにか効く」。

 さらにもう一つ。このとき「金鉱山の抗夫は慢性関節リウマチにならない。だからこの薬が登場した」という伝説が囁かれましたが、これはウソだろうと私は判断しています。だって金鉱山で起きるのは「金コロイドの注射」ではなくて「金鉱石粉塵の吸入」(*)ですし、さらにこの金コロイド、登場当時はリウマチの薬ではなくて、抗結核薬だったのですから。(保険適用外ですが、喘息に効く、という人もいます)

*)トリビアですが、鉱山などでの肺病(塵肺や鉱毒による病気)を「職業病」として世界で初めて報告したのは、16世紀のパラケルスス(医者で錬金術師)です。

 そうそう、「金だから高いのでしょう」と言う人がいますが、それは大丈夫。今の金の相場は1gが3000円と4000円の間。薬としてたとえ1mgを使っても「原価(金の値段)」は3〜4円です。ついでですが、金箔の厚みは1万分の1〜2mm(1〜2ミクロン)。3.75g(五円玉と同じ重さ)の金箔用金合金から作られる金箔は畳一畳分の広さになるそうです。ですから、ある食品に短冊程度の大きさの金箔を乗せるだけでどんと高い値段がつけられていたら、それはぼったくりです。もちろん金箔は金重量の値段で売られているわけではありませんが。

参考サイト「金沢箔とは

 

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