書誌情報:『図集 日本の病院建築』日本病院建築協会 編、1976年(80年2刷)、11000円
今は良い時代で、私が住む地域では、国立・市立・私立の特定の大学の図書館から、その大学に無縁の一般市民でも本を借りることができます。この本も、ある大学図書館の「建築」の書棚で眠っていたのを借りだしてきたものです。
本書は定期的に出版されているもののようで、前の図集との違いがいくつも指摘されていますが……「個室が増えた」「将来の増改築を見込んだ設計が増えた」「防災の配慮が見られるようになった」「患者の療養環境や職員の勤務条件を良くしようとする動きが見える(例:談話室、看護婦休憩室)」「便所が男女別になってきている」……いやあ、時代を感じることばです、特に「便所」のところなんか。76年と言ったら昭和51年。すると昭和50年より前の病院ではけっこう男女共同トイレがあったということなんでしょうか。ふ〜む。
本書には北は青森の弘前市立病院から南は沖縄の琉球大学保健学部付属病院まで42の病院が、地形図や配置図、内部や概観の写真、設計図(平面図)などで紹介されています。実は私が内部を昔うろうろしたことがある病院も複数あって、ちょっと懐かしく見つめてしまいました。
同じ設計の病院はありません。それは当然です。そもそも地形が違うし、病院の機能・規模、そして予算によって制限がいろいろ加わりますから。さらに病院独自の“哲学”もあります。どのように病院の機能をグルーピングして切り分けるか、分離したものをこんどはいかにまとめるか、それに従って患者と職員の動線をどのように配するか、そういった“ソフト”を建物という“ハード”で表現するわけですから(なんだかややこしいことを言ってしまいましたが、自分が外来または入院患者、あるいは面会に来た人間やそこの職員となったらどのようにそこを動けるか、と想像してみたら良いだけのことです)。
ただ、やはり時代は強く感じます。たとえば6人部屋がまだまだ主力であることや、廊下の狭さ。それから「カクカクしている」こと。外観もですが内部もまっすぐな線だらけです。地面に打ち込んだ支柱のスパンをいかに有効利用するかばかり考えてあるようで、定規で引いた線だらけ。人の動きやすさとか事故の予防のためとか、あるいは単なるデザイン上の理由とかでの曲線の採用がほとんど見られません。兵庫県立こども病院や北里大学病院にちょっと角度の遊びが見られる程度。センスが良いなと思ったのは倉敷市児島市民病院です。支柱の配置にも工夫があり、設計者が相当頑張ったな、と思える設計図です。
病院というのはただの建物で、その中で患者が幸せになれるかどうかは“ソフト”の力が非常に大きいとは思いますが、その“ソフト”が力を発揮できるかどうかには“ハード”の影響も大きいわけで、ですからこういった設計図の公表は、テロ対策など何らかの支障がない限り全病院でやっても良いんじゃないかなあ。
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今だと、「耐震性」とか「地球温暖化対策」とか「感染制御」とか、「癒し空間」とかでてきそうですね。
旅館だったら、昭和半ばに修学旅行で泊まった旅館が男女共同トイレでしたっけ。昔の日本のスタンダードは、今の日本とは全然違うようです。
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