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30年くらい前のこと、大学の実験室で私はマウスにアンジオテンシン1という物質を注射していました。すると血圧がひょいと上がって戻ります(マウスの動脈に糸のように細い手作りカテーテルを留置しておいて、直接血圧が計測できるようにしてありました)。アンジオテンシン1はアンジオテンシン変換酵素の働きによってアンジオテンシン2になり、そのアンジオテンシン2が受容体に結合して血圧上昇作用を示します。ところがアンジオテンシン変換酵素の働きを阻害する薬物を先に投与してからアンジオテンシン1を注射すると、それほど血圧上昇がありません。
高血圧治療のためのアンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬)が発売されたのはそれから数年後のことですが、当時の私はそんなことを知るよしもありませんでした。ただ目の前の血圧の動きを面白がっていただけです。
腎臓からはレニンという物質が分泌されています。腎臓への血流が落ちたりするとレニンの産生が増え、このレニンによってアンジオテンシノーゲンがアンジオテンシン1に変化します。それがアンジオテンシン変換酵素の働きによってアンジオテンシン2になり、アンジオテンシン2はアルドステロンというホルモンに働いて最終的に人間の血圧は上がります。これを「レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系(RAA系)」と呼びます。腎臓の血流が落ちたのは血圧低下による、これは大変だ補正しなきゃ、で血圧を上げることで腎臓の血流を回復させる、という流れです。このメカニズムが解明されたのはたしか100年くらい前だったと記憶しています。
最近までRAA系に働く薬は、前述のACE阻害薬と、アンジオテンシン2が受容体に結合するところをブロックするARBの二系列でした。で、最近レニンそのものをブロックする直接的レニン阻害薬が発売されました。これでRAA系で人の手が関与できるすべての種類の薬が出たと言えるでしょう。ずいぶん長くかかったなあ、というのが個人的感想です。私がマウスに注射をしていた頃から考えてももう30年ですからねえ。
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