今は廃用萎縮(動かさないことによる全身の衰え)がこわいから、となるべく早期に動かす風潮ですが、昔はけっこう「絶対安静」の病気がありました。ポピュラーなところで脳卒中。倒れたらとにかく頭を動かしてはいけない、と言われていて(「脳卒中直後は脳に浮腫が来るので、下手に動かすと脳ヘルニアで急死する」というのがその理由だったと記憶しています)、昭和中頃までは、倒れたところで2週間くらいそのまま、ということもあったそうです。(土間で倒れた人が本当にそのままそこで布団を掛けられていた、という目撃談を聞いたことがあります。体が冷えるし褥瘡はできるだろうし、たとえ命が助かっても廃用症候群は必発でしょう)
私が医者になった頃にはさすがに倒れたら病院には運んでいましたが、たとえば心筋梗塞では、しばらくは不整脈発作が出やすいから発症直後はベッドから出すな、と言われていました。だからトイレもベッドで。どうしても寝たまま排泄できない人はベッド上にポータブルトイレを置いてそこでゆらゆらしながら排泄、というアクロバティックな姿を、これは現実に見た覚えがあります。今にして思えば、恥ずかしいし余分な力が入るし、で、心臓には余分な負担がかかっていたんじゃないかと思いますが。
今ではもちろん、急性期の治療はがっちりやって、それと同時に早期にリハビリテーションという風潮になりました。この原則は未来になってもそうそう変わることはないだろう、とは思いますが、実際にどうなるかはわかりません。今の技術水準からは夢のような新治療法が登場するかもしれませんし、まったく新しい発想の治療が生まれるかもしれません。
ただ、過去の医者だって「これが最善だろう(最善でありたい)」と思いながらそのときそのときで努力していたし、それは現在も同じ。そして未来の医者も同じであることは間違いないだろうと思います。
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一人で泊まり込む当直は、病院で何が起きてもとりあえずは当直医が対応しなければならない、という点で緊張が大きいものです。ですからちっとも忙しくないのは歓迎です。大歓迎なのですが、しんとした病院の当直室に一人でぽつんとしていると、ときにあらぬ妄想が巻き起こることがあります。もしも今自分が急病になって倒れたら、誰が助けてくれるんだろう、いや、そもそも自分が倒れたことに誰が気がついてくれるんだろう、とか。
もう一つ、自分が倒れて「使い物」にならなくなってから、もしも病院内で患者さんに何かが起きたら、一体どうなるんだろう、とか。
そんなことまで心配するから、当直室ではなかなか安眠できないのかな。
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