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病気、特に新しい病気は、忌避敬遠拒否拒絶をされる傾向が強くあります。「そんなもの、お断り」と。ただしそれは「病気」の問題ではなくて「社会」の側の問題の発露ではあるのですが。
たとえばMRSAが世間の話題になってきたころ、病院から退院して老人施設に移る人に「MRSAがついていない証明」を施設側から求められるようになりました。「こわいこわいMRSA」を施設に持ち込まれて施設内感染の元凶になっては困る、という発想からでしょう。検査をして陰性なら問題はもちろん無いのですが、問題は陽性の場合です。
「MRSAが陽性(身体のどこかに、多剤耐性の黄色ブドウ球菌がくっついている)」と聞くとぎょっとする人が多いでしょうが、「陽性」というだけで怯えるのはまだ早すぎます。「MRSAが陽性」という事実と「その人がMRSA感染の元凶になる」こととはまだ結びついていないのですから。そのMRSAが暴れまくっていて本人に感染を起こしているのなら、きちんと治療が必要です。感染を起こしていなくてもしょっちゅう体外にまき散らされているようだったら、周囲のために防護処置が必要です。しかし、「静かな居候」としてひっそりとどこかに隠棲しているのなら(いても害になっていない状態を「MRSA保菌状態」と呼びます)、それは騒ぎ立てる必要はありません。体外に出さないようにしてできるだけ長く(できたら本人の寿命が尽きるまで)「平和共存」を継続すればいいのです(平和共存と言いましたが、その菌は免疫機構や他の菌との闘争を続けていて、普通だったらだんだん少なくなっていくことが期待できます)。ですから排菌さえなければ「隔離」や「治療」ではなくて「標準的な院内感染予防策」で対応は十分です。つまりここで問われるのは「施設で標準的な感染予防策が行なわれているか」です。そのためか「MRSA保菌者に対して、受け入れ拒否をしてはならない」という通達がいつだったか出されました。(現実に、元気に街行く人をアトランダムに呼び止めて検査をしたら、おそらくその何割かからはMRSAが検出されるはずです。「とびひの原因菌の3割がMRSA」(日経メディカル)なんて記事もあって、要するにMRSAはその辺にいくらでもうようよしているのですから)
※おまけ:「写真で見る子どもの病気」(とびひ)
新型インフルエンザでも元気いっぱい忌避敬遠拒否拒絶が行なわれています。「水際作戦」は国を挙げての拒絶作戦でしたが、最近では、家族に発症者がいたら(あるいはいなくても)、熱が出たら(あるいは熱が無くても)、「インフルエンザに罹っていない証明をもらってこい」という要求をする会社がけっこうあるそうです。この要求がいかに無茶で効果のない(さらに有害でさえある)ものかについては、他のブログなどで書かれているからここでは触れません。ただ、自分を守るために「怪しいもの」が自分に近づくことを遮断しまくる態度は、社会に余りよい結果をもたらさない、と私が考えていることは、書いておきましょう。
※ちなみに私の外来でそんな要求をされたら「保険は効きません。自費になります。それと、検査が当たる確率は30〜70%です。それで良いですね」と説明します。それで良くない、と帰ってしまわれた場合、使った私の時間と労力に対して誰が支払いをしてくれるのでしょうねえ。
大切なのは、「“ワルモノ”が自分に近づくことをとにかく遮断すれば良いんだ」という感情的で性急な態度ではなくて、「理(ことわり)」を重んじる態度だと私は考えています。「理」より「お断り」を優先したい人に自分の考えを押しつける気はありませんが。