1960年代だったか1970年代に、日本では「喘息患者が吸入薬で死んだ」と言われる例が続出したそうです。救急車が駆けつけてみたら、吸入薬のスプレーを握りしめて冷たくなっていた、といった報道があったそうで「吸入薬の使用 → 喘息死」の“方程式”ができあがったそうです。(ここまでは先輩の話からの過去の再構成)
苦しいから吸入をする → 軽い発作ならそれで楽になる。でも重症発作の場合気管が狭くなっているから薬が中に入らない → 苦しいのが直らないから吸入を繰り返す → 薬は中に入らない → どうしても楽にならないから救急車を呼ぶ → でも手遅れで発見される という話の順序だったのではないか、と私は想像しています。なまじっか軽い発作なら楽になる吸入スプレーだったからそれにしがみついてしまって医者に行くべき時機を失してしまった、と。
「吸入薬と喘息死」
ここにはイギリスの例が紹介されています。
そのため一時喘息治療薬として吸入は人気を失いました。ところが「気管支喘息は気管支の病変。だったら薬が直接ターゲットに届く治療法が悪いわけがない(飲み薬や注射は、肝臓を通って代謝されたり全身にまず行ってしまって副作用を出しやすい)」という発想から吸入療法を粘り強く研究・実戦する人たちがいました。そのせいか、1980年代後半には吸入療法が復権します。「Daily Use(発作の有無に無関係に定期的に吸入を続ける)」と言う言葉を私はその頃知りました。
今では喘息治療の第一選択はステロイドの吸入です。アレルギー学会ではこんな発表もあったそうです。
「吸入ステロイド使用頻度が高い都道府県では気管支喘息死亡率が低い」
「ステロイド」と聞くとそれだけで頭から拒絶する人もおられるでしょうが、吸入の場合全身の副作用は出にくくしかも喘息の“現場”に直接届けられ、病気の本態である慢性炎症に対して効果的、と現状ではこれ以上は考えにくい治療法と私は思っています。
……10年経ったらまた違うことを言っているかもしれませんが(苦笑)。
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今日は何の発作が起きたのか、医者らしい専門用語をむき出しで書きたくなりました。医学の素人衆には、わかりにくかったらごめんなさい。
人間の体で免疫を担当している重要な細胞は、白血球と呼ばれます。厳密には顆粒球とかリンパ球とかありますが、専門家以外にはそんなことを知る必要はないでしょう。幸か不幸か私はその専門家の遠い親戚筋というか専門家もどきのようなもの(って、結局何?)なので言葉くらいは知っていますが……
で、白血球は、たとえばばい菌が体内に侵入したらそいつを殺します。ところが相手がどんどん増えたら、こちらも増員をします。外来などで「白血球が増えているから、感染症です」などと言われた経験を持っている人は多いと思いますが、理屈はわりと単純です。細菌が体内に侵入して暴れていることを、ばい菌そのものではなくて白血球の数から間接的に知っているわけ。ただし、白血病のときなども白血球は異常に増えますが、これを言い出すと話がややこしくなるのでここでは省略します。
ところがその逆で、白血球(特に顆粒球)が異常に減少する状態があります。「顆粒球減少症」と呼びますが、これは困ります。なにしろ免疫の主力部隊がいなくなっているわけですから。私はこれまでに3回この病気を持っている人に出くわしました。確率的にこの病気は100万人に1.0〜3.4症例だそうですが、では「3回の出会い」は多いのか少ないのか、どっちなんでしょう?(どうでもいいことではありますが)
医学的にその状態を作る場合もあります。免疫抑制剤を使用するとか放射線を大量にかけるとか。白血病などの病気で骨髄が破壊されて正常な白血球が減少する場合もあります。免疫システムが抑制される病気や状態ではまず起きると考えて良いでしょう。だけど一般臨床医が気をつけるべきは、感染と薬物です。
感染はもちろん、顆粒球減少症の“結果”必発ですから注意するべきですが、実は顆粒球減少症の“原因”としてもあるそうです。手近の『内科学』(朝倉書店)を開いて「無顆粒球症」の項目をみましたが、感染症は原因リストに書いてあるだけでそのメカニズムについては記述が省略されていました。敵が強すぎて味方の軍隊が全滅した、と解釈したらいいのでしょうかねえ。それとも感染に対する体の反応でサイトカインなどが出過ぎて骨髄で顆粒球(のもと)が破壊されちゃうのかな(これは私の想像なので、信用しないでください)。
で、薬物の副作用としての顆粒球減少症、これも困ります。とにかくアヤシイ薬を全部中止しなければなりません。しかし、もしも感染が原因だったらそちらの治療もしなければなりません。感染かどうかを見るのに一番手軽な検査は白血球数ですが、それが使えません。困りました。
そんなときには、はい、プロカルシトニン!(ドラえもんの口調。お好みでテレビショッピングの口調で読まれても良いです) 2006年に保険に収載されて使えるようになった検査ですが、この存在を知った時に私は感動しました。
「Chest」という雑誌の記事を紹介します。
「Antibiotic Treatment of Exacerbations of COPD
A Randomized, Controlled Trial Comparing Procalcitonin-Guidance With Standard Therapy」
簡単に言うと、プロカルシトニンの数値によって治療に抗菌剤を使うべきか使わなくても良いかが判定できるのです。
感染に詳しくない人間から見たらなんだか手品を見せられているような気分ですが、ともかく役に立つツールのようです。でもねえ……カルシトニン(カルチトニン)は甲状腺から分泌されるホルモンで、骨に働いて血液中のカルシウムとリンの濃度を下げる作用を持っています。で、プロカルシトニンはその前駆物質(化学反応で「その物質」になる前の段階のもの)。なんでそんなものが抗菌剤を使用するべきか否かの判定に使えるのか、私にはわけがわかりません。
……医学の素人が、医者が悦に入ってぺらぺら喋っているのを聞いて「わけがわからない、でもなんとなくアヤシイぞ」と感じているのと同じ境遇かしら?
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