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<  昭和四十年代の医師不足 | メイン |  内部優先 >
2009.07.05 07:04 |  診療  |  医療制度 / 行政  |  その他(医療関連)  |  おかだ  | 推薦数 : 4

 理想の病院

 ある精神病院に勤務する内科医のお話です。(例によって「フィクション」です)

 「先生、救急隊から受け入れ要請です」
はて、精神病院の内科に救急隊が何の用だろう、と思いながら医者は受話器を取りました。病棟にいる精神科のドクターたちはみんな電話も取れないくらい忙しいのかな、それともアルコール中毒の患者さんの肝臓が調子悪いとか、そんなことだろうか、などと予想しましたが全然違いました。
「普段お宅の外来に通っている患者が交通事故に遭いました。今からそちらに運びますけど受け入れはよろしいですか?」
「ちょっと待ってください。状況は?」
「車にはねられて全身打撲です」
「精神症状がメインじゃないんですね。それでしたら精神病院ではなくて、外科系の救急病院でしょう。頭だったら脳外科だし骨折の疑いがあるようなら整形外科、胸や腹を打撲しているのなら胸部外科や一般外科だと思いますよ」
「そういうものなんですか?」
 そういうものなんです。
 車にはねられた人が「精神障害者である」というだけで、救急病院ではなくて精神病院に運ばれようとする……「これは漫才じゃなくて現実だよね」と電話を切ってから彼はつぶやきました。
 「精神障害者はどんな病気(怪我)でもまず精神病院で診るべきだ」という主張に彼は出くわしたわけですが、もしこの主張が正しいのなら、たとえば「小児が交通事故に遭ったらまず小児科へ行け」「ご婦人が転んで骨が折れたらまず婦人科へ行くべきだ」という主張も正しいことになってしまいます。
 「精神障害」という言葉を見た瞬間、何のために医者が色々な科に分かれているのかを忘れてしまう人がいるのは残念なことです。そして、それがもしかして、精神障害者は一般の病院で診るべきではない、という意識からの主張だとすると、それは恐ろしい差別意識だ、とも。なぜなら、ふつうの精神病院には脳外科も整形外科も婦人科も無いのですから(ウソだと思ったら、電話帳ででもお近くの精神病院を引いてみてください。総合病院並みの標榜を誇っているところはあまりないはずです)。
 ただ、もしかしたら、ですが、一般の救急病院に運ぼうとすると「うちでは精神障害者は診ない」と最初から断られることが多くて、それで「精神障害を診る」ことが確実な病院に救急隊がまず電話をしたのかもしれません。だとすると、「精神障害お断り、の救急病院」が何らかの解決するべき問題を抱えていそうです。

 私はインターネットの掲示板などで「異常な犯罪を犯すのはそれだけで精神異常の証拠なんだから、そういった人間は精神病院に閉じこめて社会から隔離しておくべきだ」という発言を見ることがあります。
 ちょっと待ってください、と私はモニターに向かってつぶやきます。精神病院はいつから収監施設になったんでしょうか?  「病院」というものは本来「医療行為」を目的とする施設であると私は捉えているのですが、この捉え方は変だということなのでしょうか?  たとえば読者の皆さんがストレスに負けて重度のうつ病になって、自殺予防や安静を保つために精神病院に入院したらその病棟には異常犯罪者がうろうろしている、というのを皆さんはお好みですか?
 「異常」という単語だけに反応して「そんな奴は精神病院に一生隔離しろ(そうすれば自分は安心)」という言動をする人がいるのは、なんとも残念なことです。
 こういった種類の発言を私は好みません。好みませんが、その存在を根絶するのはなかなか困難だろうとも感じています。それらは精神障害・精神障害者・精神科治療・精神病院というものに対する無知や偏見に基づくもので、無知と偏見を根絶するのは神ならぬ人にとってはとても困難な作業なのですから。

 ところが、こういった発言が精神病院内部からも出てくることがあります。「まさか」と言いたくなる発言をぶつけてくる人間が精神病院の中にも時々いるのです。たとえば、重症の肺炎や敗血症など急性や重症の病気でICU(集中治療室)があるような病院に紹介して治療するべき状態の人(精神障害者)を内科医が見つけて他の病院に紹介しようとすると、「この人は以前からうちの病院で診ているのだから、うちに入院させてきちんと全部診るべきだ。自分の所で診ないのは無責任だ」などと強く主張する人が出現することがあります。面白いのは、こういった発言をする人は「自分が診る」とは絶対言わず「誰か(自分以外の人間)が診るべきだ」と主張することです。
 面と向かって「お前は無責任だ」と言われたら誰でも「いや、私は責任感があります」と反射的に返したくなります。だからこそ「無責任」という刺激的な単語を使うことで自分の要求を通そうという姑息なテクニックなのでしょうが、ちょっと落ち着きましょう。
 精神病棟やあるいは老人の療養病棟に本来ICUなどで治療するべき急病や重症の患者を入院させるのは、「交通事故で全身打撲の患者だが精神障害なんだから精神病院に入れろ」という要求に「はいはいどうぞ」と受け入れるのと同じで、患者の未来に対して不誠実で無責任な態度だと私は考えています。精神障害や認知症があろうがなかろうが、その患者さんがその時の状態に応じた最善の治療を受けるのは人間が誰でも持っている権利なのですから。一番大切な問題は「その人がその時受けるべき最善の治療は何か」であって「ふだんどこに通っている患者か」ではありません。

 もちろん、精神障害者の救急に関しての理想は、精神病院が総合病院並みにすべての科が充実していることでしょう。こういった病院なら、スタッフが精神障害や認知症に慣れている分、精神的なケアも安心ですから、たとえば精神障害を持たない人が入院してもそのへんの普通の総合病院よりも快適な入院生活が送れることが期待できます。むしろ、そういった病院だったら、精神障害以外の病気で入院している人が突然精神障害の発作を起こしても安心です。
 つまり、「老人や身体障害者が過ごしやすい社会は、健常者も生活しやすい社会だ」の精神病院版です。
 そしてそういった病院が日本のあちこち健全に機能している状態が、私の夢の一つです。


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精神病患者は管轄が警察なので、救急隊も送り場所に困るのは現実で、精神病患者と言うだけで、うちは精神科が無いのでと断る医療施設も多いのも現実です。国がきちんと対応を決めて居ないので、救急現場の混乱の原因の一つです。
written by 仁 / 2009.07.05 10:36
ロハス・メディカルの「救急受け入れルールのガイドライン作成へ議論開始-消防庁・厚労省」http://lohasmedical.jp/news/2009/06/29165031.php
でも、最後に精神障害者の救急受け入れ(困難)の話が登場していますが、実際に妄想で暴れるような人は精神科になれていないふつうの救急病院では対応が困難だろうとは思います。「ではどうするか」にそれこそマスコミが大好きな「国民的議論が必要」なんでしょうけどねえ。
written by おかだ / 2009.07.05 14:29
>面白いのは、こういった発言をする人は「自分が診る」とは絶対言わず「誰か(自分以外の人間)が診るべきだ」と主張することです。


まさにまさにおっしゃるとおりです。
こういう人種は多いです。。どういう返答が効くんでしょうね?

国民的議論をしてもそのテの人が「医者の根性で何とかしろ」とか言いそうな...(+_+)自分には関係のない世界の話だから、無責任な発言が出来るんだろうと思ってます。
written by ancomochi / 2009.07.05 15:27
>>こういう人種は多いです。。どういう返答が効くんでしょうね?

 たぶんご自分のことを「正義の使者」(そして、自分の思うとおりに動かない周りの人間は「怠け者」)くらいに思っておられるふしがありますので、何を言っても言い訳にしか聞いてもらえないでしょうね。

「世界には2種類の人間がいる。仕事をする連中と他の連中に仕事をさせる連中だ」と呟くくらいでしょうか。
written by おかだ / 2009.07.06 18:55

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