今回も20世紀の古い思い出話(事実の改変アリ)です。
病院の外来から小走りに階段に向かっていたらχさんが前に立ちふさがりました。
「先生、良いことを教えてやろう」
「何ですか?」前をふさがれた私は仕方なく立ち止まります。
「万病に効く温泉が六甲にあってな、わしの研究では……」
「すみませんが、今別の用があるのでそのお話は聞けません」脇をすり抜けようとしています。
「何も知らん医者のくせになんだその言いぐさは。せっかく万病に効く温泉の話を教えてやろうと思ったのに」
「温泉療法学会というのがありますから、そちらに報告されたらいかがです? では失礼」すり抜け成功。
我ながらずいぶん素っ気ない対応ですね。ただ、私の理由は4つあります。
1)その数週間で、χさんにまったく同じ「万病に効く六甲の温泉」の話で呼び止められたのがこれで4回目。
2)過去3回の経験で、その話が終了するのに1時間かかることがわかっている。
3)私が小走りだったのは、病棟で深刻な話をするために呼んだ入院患者の家族の人が少し前から病室で待っていてあまり待たせたくなかった。
4)χさんは、入院患者でも外来患者でも患者の家族でもない人。(暇になると病院(や農協など)に出かけて暇つぶし) ついでに言うと、温泉の専門家とか研究者でもありません。ただ温泉につかるのが好きな人。
もしχさんが新聞記者だったら「無知な医者に医学上非常に有益な情報を教えてやろうとしたのに、木で鼻を括ったようなきわめて素っ気ない対応だった。こんな医者ばかりだと日本の医療は駄目になる。恥を知れ」とでも紙面に書かれてしまうのでしょうね。あるいは、「医者はすべての人に懇切丁寧親切な対応をするべきだ」と主張する人も登場しそう。そんな方は、ご自分が3)の患者本人や家族の立場でも、同じことを言っておだやかに温泉談義が終わるまで1時間余分に待ってくれますか?
※ちなみに「温泉療法学会」は正確な名称ではありませんが「日本温泉気候物理医学会」は実在しており「温泉療法医」の認定も行っています。総会は当然各地の温泉地で開催されています。温泉の効能に興味はあるので、一度参加してみたいなあ。というか、ゆったり湯治でもしてみたい。
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